テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

フレンジー

2005-05-11 | サスペンス・ミステリー
(1972/アルフレッド・ヒッチコック監督/ジョン・フィンチ、バリー・フォスター、アレック・マッコーエン、ジーン・マーシュ、アンナ・マッセイ、ビビアン・マーチャント)


 ヒッチコックが存命の時に劇場で新作として約30年前に観た映画。その後一回くらいTVで観ましたが、久しぶりにビデオを借りてきました。この後の、遺作となった「ファミリー・プロット(1976)」も公開当時に観ましたが、私はこちらの方が面白かった。
 「引き裂かれたカーテン(1966)」「トパーズ(1969)」と評判がいまいちの作品が続いて、『ヒッチコックも年には勝てないか』と言われたらしいんですが、故郷のイギリスに戻って『やっぱりヒッチはすげえや』と言わせた作品です。

 “フレンジー”とは「逆上、狂乱、激しい興奮、精神錯乱、熱狂」という意味で、映画は性倒錯者による連続婦女暴行殺害事件を扱っている。
 ロンドンで撮ったということで、ミステリー・ムードとちょっとグロテスクなムードも漂っている。プラス、ロンドン警視庁の担当警部とその料理好きな奥さんとの掛け合いが、ユーモアたっぷりで面白い。久々に観たら、この警部と奥さんと警部の同僚との料理に関するシーンが際だって面白かった。

 「北北西に進路を取れ(1959)」に代表される、ヒッチコックお得意の“巻き込まれ型”サスペンスで、主人公のリチャード・ブレイニー(フィンチ)は元イギリス空軍の優秀なパイロット。が、お世辞にも立派な人間とは言えない男で、“北北西”のケーリー・グラントとはちょっと違う。今は小さなパブで働いていて、店主と折り合いが悪く、この日も店の酒を盗み飲みしたところを見つかり、口論の末やめてしまう。
 2年前に離婚した元の奥さんは、現在結婚相談所を開いていて結構繁盛しているようだ。お金に困ったリチャードは、相談所に寄って愚痴をこぼし、食事を奢ってもらう。

 オープニングで、河畔で演説集会が行われているテムズ川に、全裸で首にネクタイが巻かれた女性の死体が浮かんでいるが、大騒ぎとなった時の群衆の話で、ネクタイによる連続絞殺事件が発生していることがわかる。映画の最初の方では、リチャードがいつもイライラしていたり、警官が出てくると突然居なくなったりするので、彼が怪しいと思ってしまう。勿論、彼が犯人のわけはなく、真犯人はすぐに正体を現す。

▼(ネタバレ注意)
 犯人はリチャードの友人で、リチャードの元妻や現在の恋人などが被害者になる。状況はことごとくリチャードに不利に動いていて、ついには、警察に追われて困ったリチャードは、友人(=真犯人)に助けを求めるのだが・・・。
▲(解除)

 そう。この作品は謎解きの話ではなく、「見知らぬ乗客(1951)」や「疑惑の影(1942)」のように、真犯人が分かっていて、被害者がいつやられるか、犯人がいつボロを出すかというスリルを楽しむ映画だ。

 原作があるが、脚本はアンソニー・シェイファー。「探偵<スルース>」という大ヒット舞台劇の作者で、72年の映画化の時も脚本を書いている。ちなみに彼にはピーターという双子の兄弟がいて、ピーターも脚本家。ピーター・シェイファーは「アマデウス(1984)」でオスカーを獲ったことで有名。私の好きな「フォロー・ミー(1972)」も書いている。この兄弟は凄いや。

 上手い脚本で水を得た魚のように、この映画のヒッチコックの語り口は、監督自身が楽しんでいるようにさえ見える。今までのヒッチ映画のようなうっとりするような美人は出てこないが、性倒錯者が犯人ということで珍しいセックス描写があったりする。グロテスクな死体の扱いも珍しい。
 そして、この映画では、観客に“見せない”、“聞かせない”事を楽しんでいるようだ。

 最初の被害者が死体で発見される所、2番目の被害者が殺される所はカメラワークが面白い。それまで出演者を追っていたカメラが突然止まったり、後戻りしたりする。それで、かえって印象深くなる。特に、2番目の女性が殺されるシーンでは、犯人と被害者が犯人のアパートへ入るまで追っていたカメラが、階段の下で止まって、その後スーッと表の通り迄引いていく。クレーンを使った撮影でしょうが、ヒッチさん、楽しんでますなあ。この時既に70歳を超えてるんだが・・・。

 “聞かせない”シーンは、後半の裁判の所。リチャードに対する判決が言い渡されるシーンで、画面は法廷の外の廊下からガラスのドア越しに映される。警備の人がドアを開けたり締めたりして、その開いた時にしか中の裁判官の声が聞こえないので気になってしまう。

 リチャードのJ・フィンチは、ポランスキーの「マクベス(1971)」で注目された役者。その後シュレシンジャー監督の「日曜日は別れの時(1971)」にも出ている。最新出演作はリドリー・スコットの「キングダム・オブ・ヘブン(2005)」らしいです。
 おっと、ヒッチコック映画ではお約束の、監督の出演シーンにもふれんといかんですな。今回は分かり易いです。冒頭の群衆の中に居ます。目立ちすぎ!

・お薦め度【★★★★★=ヒッチコックファンなら、大いに見るべし!】 テアトル十瑠

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10 コメント

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Unknown (anupam)
2005-05-27 00:08:07
私のブログにコメント、ありがとうございました!

早速遊びに来させていただきました。「フレンジー」なつかしいな~私も封切り時に劇場で観ました。

本当に美女がまったく登場しないヒッチコックでは珍しい作品ですよね~



署長の奥さんの奇妙な料理がなかなか・・



今になってみると、こういう変態趣味のやつはうじゃうじゃでてきて、現実の犯罪者のほうが恐ろしいです・・よね



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いらっしゃいませ (十瑠)
2005-05-27 06:14:47
偶然お邪魔して「フォロー・ミー」にコメントしましたが、この「フレンジー」の記事にも作品名が出てきていましたね。読みなおして気がつきました。

御ブログの作品名を見ていて同年代ではないかと思っていましたが、やはり「フレンジー」も観られましたか。

ホント、現実は映画より奇なりですな。
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再度読み直してみました (anupam)
2005-12-10 19:12:28
そっか~主人公の元妻だけでなく、今カノの毒牙にかかっていたのか~忘れていますね~何となく顔の印象がミレーユ・ダルクみたいな女優さんだったかな。

元妻の殺しのシーンの印象は強烈だったですが
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ネタバレですが・・・ (十瑠)
2005-12-10 22:26:29
今カノが殺されるシーンは出てきませんが、犯人がその遺体をジャガイモの運送トラックの荷台に袋詰めにして放り込んで、さて一安心と思ってアパートに帰ってくると、自分のネクタイピンが彼女の手の平に掴まれたままだったのに気付いて、あわてて戻りトラックの荷台に乗り込むとトラックが発車するというのが、後半の面白いシーンでした。

犯人は車に揺られながら遺体の袋を探し出し、死後硬直した遺体の指を折りながらピンを取り戻す。そのシーンの後に、例のお料理好きな奥さんが出てきて、細長い堅パンをポキポキ折りながらご亭主の警部に事件の推理をする。これも笑わせてくれました。料理は下手でも、推理は意外と当たっていたりする。



ところで、最近は現実の変質者の事件が映画以上に猟奇的で、せいぜいこの作品くらいまでですな、楽しめるのは。
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Unknown (FROST)
2006-07-12 01:44:01
十瑠さん、お邪魔します。死体の指折りとパン・・・そういえばですね。良く出来てます。犯人が殺した女の指を折ると、死後硬直でナイフの歯も折れるほど硬くなっていた指が、ぶらぶらと揺れる・・・。このあたりのリアリティにゾクッとしました。
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TB&コメントありがとうございました (十瑠)
2006-07-12 09:18:36
>硬くなっていた指が、ぶらぶらと揺れる・・・



あっ、このシーンは記憶がないですね。

最初の殺人シーンは、それまでのヒッチ作品に無かった種類の表現だったので驚いて観てました。



二度目の殺人の伏線になっているというFROSTさんの記事にハタと膝を叩きましたな。
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Unknown (オカピー)
2006-08-28 15:14:00
TB致しました。

感想・印象は殆ど同じですね。最近の作品は饒舌すぎますから、こういう作品をたまに観るとホッとします。ヒッチコックはやはり上手いや。

日曜日にヒッチコックを取り上げる【ヒッチ曜日】がようやく終りました。53作中50作を取り上げました。

話を戻して「ファミリー・プロット」も私は面白かったですよ。コメディ仕立てが災いして評価が上がらないのですが、その背景は・・・多分この作品のブラック・ユーモアが分っていない人が多いのでは?
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ブラック・ユーモア (十瑠)
2006-08-28 17:04:21
分からなかったかも・・・。(汗)

「ハリーの災難」もしかり・・・です。(汗々)



ヒッチの50作。名前も知らなかった作品も幾つかありました。思えば、洋画ファンになったのはヒッチコックのおかげかも知れませんね。
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TBとコメントありがとうございます。 (アスカパパ)
2010-12-18 14:00:25
ヒッチコック作品は、前期、中期、後記に大別している私です。
前期は、世界大戦の影響が多大。
中期は、内容が充実。
後記は、大人の味がします。
ヒッチコック後記の作品は、観ていないものが多かったです。
最近、BS放映などで、観る機会に恵まれているのですが、私生活が多忙でなかなか観られません。
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アスカパパさん (十瑠)
2010-12-18 17:53:48
お忙しそうなのに、コメント&TB返しありがとうございました。
今回のBS放送でだいぶん録画したんですが、好きな「鳥」は開始後30分経ってから気づいて、後の祭りでした

いつでもレンタルにあるとは言え残念なことでした。
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