鯨 くじら〈前編〉

2010-08-20 17:28:00 | わたしの魚(ウォ)キペディア 第1回~第

わたしの魚(ウォ)キペディア 第16回025 くじら〈前編〉

クジラといえば給食で出たクジラの竜田揚げです。
アルマイトのお皿に二つか三つ、その横に付け合わせがいつも春雨サラダだったような記憶があります。鶏の唐揚げかな‥と思って齧ってみると、お肉が真っ黒で噛んでいるうちに醤油の味が滲み出てきて、けっこうおいしいなーと思って食べていました。

「これは何でしょーう?」
開店して数年経った頃、築地から帰ってきた主人がビニール袋の口を縛ったものを得意そうに掲げました。手のひらにずしっとくるくらいの赤黒い塊でした。
「うわ、ドリップ‥?」
その赤黒い塊は赤い液体に浸されていました。
「お!それかなりのヒント。ジャブジャブな感じがミソしょうゆ味の素」
こういう言い回しをする時の主人はテンションが高く‥ということは、なかなか手に入らないものが思いがけずゲットできたということで。
「うーん、肉みたいに見えるんだけど、牛肉とか仕入れないもんね。何か大きいものの一部、マグロの‥血合いとか?」
「ブッブー。マグロだったら吸水ペーパーでぐるぐる巻いて水分取り除くし。しかもマグロの血合いだけ仕入れるって、あんまないっしょ」
「あ、そうかー」
「ギブ?」
「‥いや。だったら、わかんないけど、クジラ?」
「正解っ。正規のルートでちゃんと出回ってる証明書付き。近海のミンクでメスだって。たまたま網に掛かっちゃって迅速に流通したみたい。赤身はドリップに入れとくほうが品質を保てるのよ」
「ふーん」
「あれ、あんまり嬉しくないの」
「いやそういうわけじゃないけど、生のお刺身っていうの?食べたことないからさー」
「あそ?」
「給食の時のクジラの竜田揚げでしょー、あとなんか居酒屋さんで上司が頼んだクジラベーコンがほとんど手を付けずに温まっちゃってべろ~んってなっちゃってるやつとかさー。“お前ら食っちゃえ”とか言われて端っこなんかもう空調当たっちゃってカッピカピに乾燥してんのに下っ端だから無理矢理食べさせられたりさー、そんなのしかないんだよ」

                                                            後編は来週に続きます。