つぶやき、或は三文小説のやうな。

自由律俳句になりそうな、ならなそうな何かを綴ってみる。物置のような実験室。

Booomb

2018-02-20 12:13:33 | 文もどき
爆ぜるものが好きらしい。
小さな粒子がエネルギーを得て爆発的に体積を拡大する、その瞬間を眺めるのが好きだった。
菓子の話である。
子供の頃、縁日だの何とか詣でだのに出向くと、かならず甘い芳しい香りがふわふわと漂っていたものだ。ねじり鉢巻の兄ちゃんが派手な屋台の中にいて、愛想もなく酒焼けした声で呼び込みをしている。
高く重ねた竿に下がったとりどりのプリント柄の、パンと張ったわたあめの袋。丸型の送風機のような音を立てる機械から、ほわ、ほわ、と生まれる雲の赤ん坊のごときわたあめを、兄ちゃんが器用に割り箸に巻き取ってまゆ玉を拵える。その手つきの鮮やかなこと。
また、カルメラ焼きも心踊る光景だった。赤鍋に煮立つ少量のザラメが、兄ちゃんが匙を差し込んだ瞬間、ぼわん、と鍋いっぱいに膨らむ。まるで、魔法でできたお菓子のように思っていたものだ。
遠くから、どおん、と大砲を射つ音は、ポン菓子だ。塩気を含んだ香ばしいのはポップコーン。
それはまるで、ビッグバンの原風景のように鮮明に覚えている。
ただ残念なのは、父が、祖母が、夢中で眺める私に買い与えてくれた砂糖菓子を、私は食べることができなかったことだ。口に含んだ宇宙のかけらはたちまちのうちに私の五感を満タンにして、どうしてもそれ以上食べ進めることができないのである。