一般的に、良い会社は社員の定着率が高いと言われています。
今後ますます、新たな人材確保が尋常でないほど難しくなるのを見据え、今多くの企業が定着率を上げる取組みとして「見える化」を推進しています。
今回は、見える化が定着率向上にいかに大切か、についてのお話しです。
そもそも定着率の設定はどの程度が適切なのか
定着率は高かければ高いほど良いといっても、100%でなければいけないのでしょうか?
厚生労働省が発表している「雇用動向調査」によると、下記のグラフの通り離職率はここ数年はだいたい15%で推移しています。
つまり、定着率の平均値は約85%ということになります。
(このように、定着率を現す場合は、100%-離職率で計算します)
そして、この調査における離職率の算出方法は、毎年1月1日時点の雇用者数に対する1年間の離職者の割合で計算されています。
例えば、平成29年1月1日時点で100人の雇用者がいて、その内12月31日までに15人の離職者が出た場合、離職率は15%ということになります。
ただし、この場合の離職者とは、離職理由は様々なので、自己都合退職者や定年退職者、さらには契約満了による退職者も全てカウントされています。
しかも、新規採用された従業員は除いているので、例えば、4月に入った新卒者が3ヶ月で辞めても、この数値には反映されないことになります。
さらに、離職率の算出法には意外に知られていないことがあります。
それは、算出期間に法的な定めはない!とうことです。
厚生労働省では上記のように、1月1日から1年間を基準とする算出方法ですが、中小企業庁が出している離職率に関するデータは、期間を3年に設定しています。
いわゆる七五三現象と言われる学卒者の離職率も3年を基準としています。
それでは、適切な離職率は何を基準に決めたら良いのでしょうか?
確かに、厚生省のような公的機関が発表している数値を基準に、自社の目標値を定めるというのも一つの手だと思います。
しかしその場合は、基準とする数値の算出根拠を十分理解する必要があります。
本当に定着してほしいのは誰ですか?
定着率や離職率と聞くと、とかく新卒者に注目しがちではないでしょうか。
確かに、せっかく採用しても1年も経たないうちに離職するというケースは互いのためにならないので、どうしても注目されます。
しかし、入社3年以上、あるいは10年選手でさえ会社を去って行くというケースも少なくありません。
しかも何ら対策を講じることなく、その理由もはっきりしないまま、戦力の中心となるべき人材を失っている企業も多いようです。
若い人材が豊富に採用できた20年前なら、それも経営戦略の一つとして若い社員の比率を維持できたかもしれませんが、もはやそんなことは幻想になってしまいました。
これからは、一定期間の定着率を上げていくという視点の他に、社員ごとの勤続年数をいかに延ばすかという視点の方が重要視されると、私は考えています。
つまり、雇用制度の改正や職場環境の改善、さらには福利厚生の充実といった、全社的に講じる対策だけでなく、社員一人ひとりの目線で、その人にとって居心地のよい職場作りを考えるという取組みも必要になるということです。
最近よく耳にする「働き方改革」や、数年前から提唱されている「ダイバーシティ」に象徴されるように、今まさに労働という概念が大きく変わろうとしています。
しかしながら、未だ誰も経験したことがない新しい労働の在り方がどんなものなのかなど、誰にも分らないのも事実です。
だからこそ、余計に今働いている人たちにフォーカスして、社員が自ら働きやすさを考える仕組みを構築する必要があると思うのです。
何に注力すべきかを明らかにするための「見える化」
私自身、かつて畜産業界で定着率の低下に悩み苦しんだ経験があります。
その時は、なぜ辞めるのかという”仮説”はあったものの、本当の理由は把握できずにいました。
そして何より、辞めない社員がどうして辞めないのかという理由に気づけずにいました。
私の経験上、社員の定着には、辞めてゆく理由と、居続ける理由の双方が必要だと思います。
それが極めて個人的な理由でも、特殊なケースであっても、仮説ではなく事実を知ることはとても重要です。そして聞いた情報を一つ一つ言語化し文字にして残すことで、具体的な方策に繋がって行くのです。
定着率に限らず、何事にも「見える化」は変化の第一歩だと思います。
社員が何を思い仕事に向き合い、自分はどうあるべきか、会社はどうあるべきかを考え、皆が仕事を自分事にすることが、その会社の価値を高めることになると、私は思います。