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質問の効力「自己理解を深める質問」

2018-04-20 | 仕事

「質問は、相手を強制的に特定の方向で考えさせる力を持っています。」谷原誠著『「いい質問」が人を動かす』より

社員がなかなか定着しない、育たないという職場において、その原因の一つは間違った命令と質問力の不足でないか?と私は考えています。

前回から『質問の効力』をテーマに考えていますが、今後シリーズ化していくことにしました。
シリーズ 第2回目は「自己理解を深める質問」です。

特に、新入社員や人事異動で新しい仕事をすることになった若手の部下を教育する立場の人にとっては、部下が失敗した時や、反省の様子が見られない時など、威厳をもって指導しなくてはならない場面において、この質問法はとても役に立ちます。

失敗から学ぶことは、仕事に限らず、生きてゆく上でもとても大切なことです。
むしろ、失敗を経験しなくては、人は成長できないと言っても過言ではないでしょう。
社員教育にも同じことが言えますが、こと失敗に限らず、人はどんな経験でも成長に変えてゆくことができます。

ここからは、ある事例で説明してゆきます。(全て仮名です)

食品卸会社「夢食品」の新人営業 有田さんの場合

有田さんは、入社半年の体育会系男子。笑顔を絶やさない好青年で、お客様からも可愛がられるキャラクターですが、少々思い込みが激しく、注意力散漫なところがあります。しかし、周囲の先輩や同僚は、彼の物怖じしない行動力をかっており、同期の新人5名の中でも目をかけられている存在です。

そんな有田さんの教育担当は、入社6年目の上田係長です。やはり体育会系ですが理論派タイプ。顧客にも真面目過ぎると言われるほど、時間やルールには厳しく、物事を効率的に進めるタイプです。
上田さんが新人を任されたのは3年ぶりです。彼も、有田さんの行動力や人に好かれるキャラクターには一目置いていますが、もう少し正確な仕事をしてほしいと思っていました。

ある日、有田さんが初めて担当を任された、古くからの得意先であるドリームストアーのバイヤー山田課長から、ある商品を大量受注しましたが、在庫が半分不足していたため、不足分だけメーカに電話で発注し、期日に間に合うようにメーカーから直接ドリームストアーに納品する事も依頼しました。
しかし、納品予定日になっても商品が届かないと、ドリームストアーの物流部から問い合わせがあり、その時初めてメーカーに発注書が届いていない事に気がつきました。

有田さん「上田係長すみません。メーカーに発注書が届いていなくて、ドリームへの納品が1日遅れます。」
上田さん「えっ!それでドリームには伝えたの?」
有田さん「はい、さっき電話しましたが、”それは困るけど仕方がないね”と言われました。」
上田さん「誰に電話した?ちゃんと謝罪はしたの?」
有田さん「はい、謝りました。電話したのは物流部の事務員さんです。」
上田さん「はっ!それ何時!じゃ山田課長には未だ伝わってないの?」
有田さん「1時間くらい前に物流の人から電話があって・・・ 山田課長には先方から伝えると言ってました。」
上田さん「えっ!1時間前?なんで俺に言わないの?」
有田さん「えっ!部長とミーティングだったので・・・それに、すぐ発注した方がいいと思って…」
上田さん「・・・。そういう事は先に伝えるべきだろ!」
有田さん「もう再発注して明日には届くし、先方も了解してくれたので、報告は後で良いかと思いました。」
上田さん「え~っでも、その商品は今日から特売に入れる予定だったんだろ?」
有田さん「はい。それは自分も悪いと思って…でもうちから出した商品も半分はあるので、それで何とかなると思いました。」
上田さん「何とかなるって、山田課長が言ったの?」
有田さん「いえっ・・・でも、あれから何も連絡がないんで…」
上田さん「・・・分かった。じゃ、後は俺がやるから…」

有田さんは、少し不機嫌そうな顔をして、納得できない様子で他の仕事にかかります。

上田さんは、直ぐに山田課長に電話しますが、当然ながら山田課長は商品が遅れたことでの調整に追われていて、話す隙もありません。しばらくして事が落ち着いてからお怒りの電話がありました。
まもなく、上田さんは有田さんを連れてドリームストアーに謝罪に行くことになりました。

当然ながら、山田課長から厳しい言葉で叱られたあげく、明日入荷予定の商品の返品と、今回間に合わなかったために急遽山田課長が知り合いのメーカーに頼み込んで用意した代替え品の代金を、全額補償するよう要求されました。
しかも、明日届く商品は、有田さんの勝手な判断で再注文したことも判明しました。
しかし、上田さんの誠実な謝罪と懸命な説得で、明日納品することとなった商品は、特別値引きをすることで、何とか返品だけは逃れることができました。

それでも、今回の件で夢食品の損失額は、約130万円となってしまいました。
有田さんは、この時やっと自分のした事の重大さを知ることとなります。

しかし、ドリームストアーからの帰りに、有田さんは上田さんに不満をぶつけます。
電話では注文したんだから、その後FAXが来ていないと連絡をくれていたら、こんな事にならずに済んだ。
それに、物流部もそんな大したことではない様な感じだったし、まさかこんな事になるとは思わなかったと、メーカーや顧客に対する愚痴をこぼしたのです。

失敗した部下を成長させるか、潰してしまうかの分かれ道

自分のミスで、顧客にも自社にも損害を与えた有田さん。しかし当の本人は、さすがに落ち込んでいて反省はしている様子ですが、メーカーや顧客に愚痴を言っている始末です。
しかしこういう時こそ、有田さんに自己理解を深めてもらい、一回り大きくなってもらいたいものです。
まさに「失敗から学ぶ」を実践する時です。

では、教育担当の上田さんは、この後、有田さんにどんな接し方をして、どんな質問をすれば、この経験を成長に導くことができるでしょうか?
自分に向き合い、自分の行動を振り返り、今回の一連の行動の中でどこに問題があったのか。その問題はなぜ起きたのか? 次に同じようなミスをしないためには、これから自分のどこをどの様に改善すべきなのか? といった具合に、有田さんが自分自身に問いかけ、自ら答を模索するように導くには、どうすれば良いでしょうか。

もちろん、答えは一つではありませんが、前回の「人を動かす質問」が効果的です。
なぜなら「人は、命令よりも自分で決めた事に喜んで従う」という特性を持っているからです。
つまり、上田さんは、間違っても有田さんを必要以上に糾弾し追い詰めてはてはいけません。それが有田さんを成長させるか、潰してしまうかの分かれ道です。

では、具体的にはどんな質問をすれば、有田さんは自分で自己理解を深めることができるのでしょうか。

内省に問いかける、4つの魔法の質問法

①「なぜ?」を3回繰り返す。

愚痴を言う有田さんに、「責任転嫁するな!」と怒鳴っても、あまり効果はありません。
そういう時は、一旦有田さんの思考に合わせてみましょう。

例えば、どうしてメーカーが連絡してくれなかったのかという有田さんに、
上田さん「なんで連絡してくれなかったと思う?」
有田さん「どうせ忘れていたんでしょう。」
上田さん「そうか、忘れていたのか。なんで忘れたんだろうか?」
有田さん「えっ、忙しかったんじゃないですか。繁忙期だって言ってたし…」
上田さん「そうか、繁忙期だったのか。なんで繁忙期だと忘れるのかな?」
有田さん「そりゃ、うちでも同じようなことがありますよね~例えば…」
上田さん「ほほ~、分かってんじゃん。」
有田さん「えっ!何がですか?」

という感じです。有田さんは、自分に連絡をくれなかったメーカーに腹を立てていますが、同時にメーカーの様子をちゃんと想像できています。
つまり、ここまで来れば、自分に非がある事は十分解っているからこそ、誰かのせいにしたがっているだけだという自分に気づくことができます。

② タイムスリップ法(過去編)

「もう一度やり直すことができたらどうする?」
「タイムマシンがあったら、どこに戻りたい?」
「今なら、失敗する前の自分に何を伝えたい?」

この様な質問をすることで、有田さんは、自分の行動を振り返りやすくなり、どこに問題があったのかを発見しやすくなります。またこの様な質問は「どうすば良かった?」よりも効果を発揮します。
しかし、この質問で大切なのは、質問した後に共に考える姿勢を示すことと、問題点を絞ってゆけるような質問をして、本人の気づきを促すことなので、根気が要ります。

例えば、「今なら、失敗する前の自分に何を伝えたい?」という質問をした後に、
有田さん「そうですね…大きな失敗が待ってるから気を付けろ!ですかね~」
上田さん「ほう。大きな失敗か~、確かにな~。でも何がきっかけだったのかな?」
有田さん「あっそうか。電話の後で直ぐに発注書FAXしろ!ですかね。」
上田さん「FAXさえしていれば良かったのかな?他に何ができたかな?」
有田さん「そうですね~。FAXの後でまた電話しておいた方が確実ですよね。」
上田さん「そうだよね。いつもはそうしてたのかな?」
有田さん「ん~、メーカーによっては…でも今度から全部確認します。」
上田さん「そうか、一つ決まったね。他には何ができるかな?」

という感じです。この展開なら、有田さんは自分で問題点を探して、どう改善するのかを自分で考えることができるので、「改善策を考えろ!」と命令するよりも効果は絶大です。
これこそ「人を動かす質問」です。

③ タイムスリップ法(未来編)

「今後、この経験をどう活かせると思う?」
「今から1年後の自分は、どうなっているかな?」
「将来部下を持ったら、今回のことをどう話す?」

この様な質問をすることで、有田さんは意識を未来に向けることができ、違った視点で自分に向き合うきっかけになります。問題を解決した後の自分を想像させるのは、とても大切です。
しかし、この質問で重要なのは順番です。未だ課題を見つけていない状態でこの質問をしても、現実逃避になる可能性もあるので、自分の課題に気が付いて、改善策まで辿りついてからでも、十分効果があります。

④ 自己開示を促す質問

「そんな性格だったの?」
「前からそうだった?」
「案外○○なとこあるよね?」

この様な質問は、相手が気づいていない部分や、実は見せようとしていない部分を意識させる時に役立ちます。有田さんの場合は「お前、案外大雑把なとこあるよね?」などがよいと思われます。
上田さんは、普段からもっと正確な仕事をしてほしいと思っていたので、「もっと気を付けろ!」と命令するより、こんな質問をして有田さん自身に自分の性格や特徴を分析させるほうが効果的です。
これも「人を動かす質問」です。

まとめ

実はこの例は、かつて私が実際に相談を受けた方の話に脚色を加えたものです。
有田さんのモデルとなった男性(以後Aさん)は、この後数か月の間にうつ病と診断され、投薬とカウンセリング治療を受けながらしばらく仕事を続けますが、休みが増えて行き、とうとう会社から自主退職を勧められ、途方に暮れて当時私の勤め先だったハローワークに相談に来たのです。

つまり、Aさんはこの後、今まで経験したことのない苦しい立場に追いやられてしまい、家族もAさんの変わり様に心配して父親が会社に抗議したこともあり、ますます会社に居辛くなったと明かしてくれました。

これ以上、Aさんに何があったかは触れることはできませんが、せめてこの経験をバネに成長してほしかったと、とても残念に思ったことを、今でも思い出します。

次回は、「自尊心の扱い方」です。

 

質問の効力「人を動かす質問」

2018-04-12 | 仕事

「質問は、相手を強制的に特定の方向で考えさせる力を持っています。」谷原誠著『「いい質問」が人を動かす』より

社員がなかなか定着しない、育たないという職場において、その原因の一つは間違った命令と質問力の不足でないか?と私は考えています。
前回から、職場における「命令と質問」をテーマに考えていますが、今回は「質問の効力」について考えてゆきたいと思います。

質問の効力には色々ありますが、その中で最も強力なのが「人を動かす質問」です。

部下を持つ人は、この質問方法を上手に使うことができるかどうかが、良い上司か否かの分かれ目となります。

人は、命令よりも自分で決めた事に喜んで従う。

成功している会社の上司は、命令ではなく質問形式の指示をする人が多いようです。

例えば、「この仕事、何としても今日中に済ませろ!」と「この仕事、何とか今日中に済ませておいてくれる?」では、どちらの方が「よしやろう!」と思いますか?

おそらく後者の方だと思います。
前者は、上司との関係性が良ければ然程問題はないと思いますが、そうでなければたとえ簡単に出来る仕事でも”やらされ感”があり、モチベーションが上がり難いと思います。

しかし、後者の言い方では未だ「人を動かす質問」にはなっていません。

では、「この仕事、何とか今日中に済ませておいてくれる?」と「この仕事、今日中に済ませるにはどうすればいい?」ではどうでしょうか?

どちらも、”今日中に”という期限は決まっていますが、前者は了解を求めているだけなので、相手の返答は「はい、分かりました」となることが予想できます。
しかし後者は、”どうすれば出来るのか?”という問いに答えることになるので、相手はどんなやり方をするのか伝えなくてはいけません。


これが、「人を動かす質問」という訳です。
相手は、どうすれば今日中に済むのかを考えるだけでなく、自分でやり方を決めて、それを口頭で宣言し、しかも宣言通りに仕事をすることになるのです。
もちろん、自分で決めたやり方なので”やらされ感”はなく、むしろ”任され感”が高くなることが期待できます。そして宣言通り、または宣言よりもスムースに仕事を済ませることができれば、達成感も手に入れることが出来るのです。

さらに、仕事を済ませた相手に「ありがとう、早くできたね。助かったよ(笑)」と一声かけるだけで、その相手は”役に立った感”が増すというおまけまで付いてくるのです。

この様に、質問のしかたによって、人は考えるだけでなく快く行動するようになります。

人を動かす質問の落とし穴にご用心

質問は、する人の意図で相手をコントロールする”魔法の杖”と化すことがあります。

例えば、「長生きしても健康でいる自信はありますか?」「ガンになって苦しむのは貴方だけですか?」「医療費負担が増えた時の対策はできていますか?」などの、老後や病気の不安を煽るような質問です。
これらの質問は、漠然とした不安を抱えながらも普段はあまり考えていない人にとっては、「あっそうか、考えなきゃ」という動機付けになりやすく、続けて「今なら、○○だけで●●が叶うキャンペーン中ですが、どうされますか?」など言って、セールスに誘うという手法に使われたりします。

私は、この手の質問をすべて否定するつもりはありませんが、せめてその”からくり”は知っておいた方が良いと思います。なぜなら、職場において上司が人を動かす質問を乱用すると、時に部下の尊厳や良心に反した答えを強制的に求めることになり、意図としなくともパワハラになるからです。

部下「すみません、契約取れませんでした」
上司「そうか、売り上げが下がったら、おまえの給料はどうなると思う?」
部下「・・・」
上司「まともに出ると思うの?どうなの?」
部下「いや、出ません・・・」
上司「そうだよね~。だったらどうすばいい?」
部下「頑張って契約取るしかありません」
上司「そうか。で、どうやって頑張るの?」
部下「えっ・・・」
(気分が悪くなるのでもうやめます)

この様に、上司は確かに命令口調ではなく質問をしていますが、部下は報告しても何も得るとがないばかりか、ストレスしか感じません。しかも質問されているので形式的には答えていますが、自分の意思ではなく上司に誘導されて強制的な答えを強いられています。
これは立派なパワハラです。

この様に、質問のしかたによって、人はいとも簡単に他人を傷つけることもできるのです。

部下を成長に導く質問

では気分を変えて、人を動かす質問がいかに部下の教育に有効かというお話です。
冒頭でも述べましたが、人は自分が考えて導いた答えには喜んで従います。
つまり、部下を育てるには、部下自身に課題を解決する策を考えさせる質問をすれば良いということです。

例えば・・・

部下「すみません、契約取れませんでした」
上司「それは残念だったね。何かこっちに不備があったのかな?」
部下「不備というより先方が仰るには、○○社より値引き率が低いと言われました」
上司「そうか、○○社との違いはしっかり説明できたの?」
部下「それが、もう○○社と契約したから、と言うだけで聞いてもらえませんでした」
上司「それはきつかったね~。ところで、次にまた提案できるなら今度はどうする?」
部下「今回は○○社に出遅れたので、次は早く動けば・・・」
上司「そうか。他にはどんな手があるかな?」
部下「そうですね~、もっと商品に目が行くよう、色別サンプルを増やすとか・・・」
上司「いいね。それ、次の○○産業の商談までに用意できる?」
部下「2週間後ですよね。ちょっときついかもしれません」
上司「そうか、じゃどうすれば間に合うかな?」
部下「私が制作部に手伝いに入れば何とかできるかもしれません」
上司「分かった。私から制作部に連絡を入れるね。で、いつから入る?」

といった感じです。
上司は一切命令も指示もしていませんが、契約が取れなかった部下に次のチャンスを与え、何が課題で次はどうすれば良いかを考えさせ、そのためにすべき行動まで部下が自分で考えるように導いています。
もし部下が迷ったり、どうすればいいのか分からない時は、その点が部下が抱えている課題だと、本人に気づかせることもできます。
または、上司が自分の経験をヒントとして与えて、「貴方ならどうする?」と考えさせることもできます。

上記の例は出来過ぎかもしれませんが、上司が逐一支持を出したり、答えを与えているううちは、部下は育ちません。
部下を育てたいなら、質問をすることです。正しい質問には、人を育てる力があります。

まとめると

質問には、相手に考えさせて行動させる力があります。
それだけに、使い方を間違えると、部下を育てるどころか、大切な人材を潰してしまうことにもなり兼ねません。

質問上手は、出来る上司のマストスキルです。

 

次回は、部下を厳しく指導する時に有効な「自己理解を深める質問」です。