前回は「医学モデル」について説明し、その危険性に触れました。
それは、ある社員の問題行動を医学モデルで解決しようとすると、循環論にはまってしまい、結局は誹謗中傷や個人攻撃という問題にぶつかってしまうというお話でした。
つまり、医学モデルでは行動の原因にはたどり着かないという内容でした。
今回から、「行動の真の原因って何?」というお話に入って行きますが、まずは”行動の基本原理”について押えておきましょう。
行動分析学が対象とする行動は大きく二つあります。それは「レスポンデント行動」と「オペラント行動」と呼ばれる行動です。この二つの行動の違いは、行動の原因が、その行動の前にあるか後にあるかです。
行動の前に原因がある「レスポンデント行動」
”レスポンデント”(respondent)という用語は、「反応・応答」という意味の response からの派生語で、外界からの刺激に対する反応行動のことです。
例えば、目に埃が入ると涙が出たり、食べ物が口に入ると唾液が出たりするなどの反応ことで、「反射」や「生体反応」と言った方が分かりやすいかもしれませんね。
ちなみに、”涙が出る”や”唾液が出る”というのは死人には出来ないので、立派な行動です。
つまり、先に外界から何らかの刺激があり、それが原因で反応(行動)が現れるタイプの行動を「レスポンデント行動」と呼びます。
既にお分かりの通り、レスポンデント行動は、生体として元々備わっている機能ともいうべき行動です。つまり、意識する、しないはあまり関係なく、生きる上で必要な行動を身体が勝手にしてくれているということなので、職場に役立つ行動分析学では、この行動は今後あまり触れることはないと思います。
行動の後に原因があるの「オペラント行動」
”オペラント”とは、「操作する」という意味の operate からの造語で、行動分析学の創始者であるバラス・スキナーがその名づけ親です。
スキナーは、何らかの行動をした後に生じる変化や効果が、その行動の原因になっていることを、膨大な実験を積み重ね科学的に証明した心理学者です。
身近な例では、「スマホの画面をタッチするとアプリが起動する」という場合がそれに当たります。
スマホの画面をタッチするという行動は、その後でアプリが起動するという変化(効果)が原因になっているという訳です。
ちなみに、電源オフになっているスマホの画面をタッチしても画面は黒いままで何も変化しないので、タッチするという行動はしません。
このように、行動の直後に生じる変化や効果が原因となるタイプの行動を「オペラント行動」と呼びます。
今後は、このオペラント行動に焦点を当てて進めることになります。なぜなら、その語源である「操作する」という意味が示すように、行動は環境を操作することで変えることが出来るからです。
行動分析学は、行動の問題を解決する科学である
私たちの行動には、それをさせる原因があり、そこには「行動の法則」があります。
自分の行動は実は自由意思ではなく、法則に基づいているのだということは、にわかには受け入れ難いと思いますが、行動分析学は、行動の原因を明らかにし「行動の法則」を上手く使って”行動の問題”を解決に導くための科学なのです。
私たちは日々様々な行動をしながら生きていますが、その全てが完璧という人は稀だと思います。時間にルーズな人や、ダイエットが続かない人、仕事の期限を守れない人、約束を忘れる人など、誰でも何らかの問題行動を起こしてしまいます。
そんな、すべきでない行動をなぜしてしまうのか、あるいは、しなければならない行動をなぜしないのかを、行動の法則に基いて説明でき、どの行動をどの様に改善に導くのかを解き明かすことができるのが行動分析学という訳です。
職場で活かせる行動分析学では、以降オペラント行動に注目して解説して行きます。
次回は「60秒ルール」の予定です。
参考文献
杉山尚子著「行動分析学入門 ヒトの行動の思いがけない理由 」
杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・リチャード・W・マロット共著「行動分析学」
舞田竜宣・杉山尚子共著「行動マネジメント 人と組織を変える方法論」