Youthworker・Support【未来を創る若者たちへ】

「はたらくをもっと楽しく!」仕事は自分を成長させ、人を幸せにします。そんな仕事を楽しむための情報をお届けします。

職場で活かせる行動分析学⑧「意識を変える方策」

2018-10-18 | 仕事

前回から、仲持と出木増が共に考えた「好子出現による強化」による行動変容についての裏話をしていますが、今回は出木増が選んだもう一つの標的行動についての裏話です。
それは「周囲の人を労う言葉を言う」というものでしたが、これには出木増の強い思い出が込められていました。

社員の意識を変えたい、出木増の想い

出木増は、ここ数年の取組みで、社員たちの間で「ありがとう」や「助かったよ」といった感謝やお礼の言葉が以前よりも多く聞かれるようになったとは感じていましたが、さらに社員同士の結束力を高めて、やる気食品の組織力を強化するには、互いに相手を気遣い、察する気持ちや助け合う気持ちをさらに強化する必要があると考えていました。

それは、会社の掲げる「社員の結束力を高めてサービスを向上さよう!」という営業方針に沿ったものです。例えば、自分の仕事を手伝ってくれた同僚に、「助かった。ありがとう。」とお礼を言うだけでなく、「昨日も残業で疲れているのに、手伝ってくれてありがとう。」とか、「いつも助けてほしい時に声かけてくれて助かります。」など、相手がどんな状況なのかを察しているからこそ言える言葉を期待していたのです。
そういった言葉や態度が、やがては顧客に対しても自然に出来るようになり、顧客を気遣うサービスの向上になると思っていたのです。

仲持は、その考えには賛成しましたが、気持ちや態度の強化というところが具体性に欠けるので不満でしたが、出木増がどうしても譲らないので、次のようなアドバイスをしました。

「出木増さん、貴方の気持ちは分かった。でもそれはおそらく色々な言い方(行動)があるので、社員にはその真意までは分かり難いと思う。ですから、貴方が、これは相手を労っているな~と感じるような事を部下が言ったら、即座に『いいね!』と言い、その後で、『そういう気持ちが大事なんだ』とだけ付け加えてその場を去ってください。そしてその部下が貴方の真意に気づいた時に、全力でほめてやってください。」ということでした。

早速、翌日から出木増は社内をウロウロしながら、仲持の指示通りにするつもりでしたが、いざやってみると恥ずかしさが込み上げて声にならないし、なかなかそのチャンスがありませんでした。
そして、やっと口に出せたのは二日目の午後で、その相手は現在経理部長になっている同期入社の要律子でした。彼女は直ぐに何かを察知して、その場で出木増を拘束して、昨日からの“不穏な動き”の訳を根掘り葉掘り聞き出します。
そして、要から「物調面なんかせずに、できるだけ笑顔でウロウロするように!」との指摘もあって徐々に板に付いていったという訳です。

この取組みの効果が出始めたのは、三週間ほど経過してのことです。ある数人の社員が、「部長、分かりました!相手への気遣いですよね!」と言ってくれたのです。

その後は、次々に他の社員にも広がって行きました。しかも、社員同士が「いいね!」と言いながらその理由について話し合ったり、議論をしたりする光景まで見られるようになったのです。

行動分析学的解説

では、この活動を行動分析学的に考えてみましょう。

標的行動は「周囲の人を労う言葉を言う」こと、そして好子となるのは、やはり出木増の「いいね!」と笑顔です。
しかし、出木増が本当に強化?したかったのは、言葉そのものではなく、そういう言葉を口にするようになる相手への気遣いであり、相手への興味関心を高めることでした。

この様に、行動分析学では気持ちや興味という領域を扱うことはありません。行動分析学が扱うのは、あくまでも人の行動(死人にできない行動)です。だからこそ、仲持は不満だったのです。

しかし、職場は学問を究める場ではないので、そこは出木増の想いを汲んで、「好子出現による強化」を応用して、まずは特定の言葉を強化する「部分強化」というやり方を提案したのです。
それが、「貴方が、これは相手を労っているな~と感じるような事」の部分になります。

さらに、「そういう気持ちが大事なんだ。」という言葉を言い残して去って行くことで、相手に「そういう気持ち」とはどんな気持ち?と考えて、自然に気づくきっかけを与えるという仕掛けを加えたのです。

「考える」は立派な行動です。したがって「そういう気持ちが大事なんだ。」という言葉は、考えるという行動を促進する役割を担います。この様な言葉を「言語プロンプト」と言います。
ここで重要なのが、「考えろ」という指示や、「何でしょうか?」という質問になっていないという点です。すなわち、気にしなければ考えないし気づかないかもしれませんが、何回か繰り返すことで気づくかもしれません。それが自然に自分で気づく機会を与えるという仕掛けになっていたのです。

「気づかされた」よりも、「気づいた」という方が、より自分の事として記憶に残るからです。しかも、しばらくして気遣いすることが少し薄れたと感じた社員には、わざと「そういう気持ちが大事だよね。」と言うだけで、意識を取り戻すことも期待できるのが、プロンプトの効果です。

ちなみに、プロンプトとは、ある行動に先行して与える刺激という意味で、言語プロンプトの他にも身振り、モデル、身体という4つのタイプがあります。(詳しい説明は参考文献を参照ください)

社員の意識を変える方策

皆さんもお分かりの通り、人の意識は精神論や感情論ではなかなか変わりません。
しかし、行動分析学を応用すれば、自分の取った言動について考えさせることは出来ます。
そして、考えて出した言動に対して、その直後に何か変化を加えることで、その言動を強化することも弱化することも出来るのが、職場で活かせる行動分析学です。

今回紹介した出木増の取組みも、社員の意識をさらに高めるという目的がありましたが、それを「お前たち、もっと意識を高めろ!」と怒鳴ったところで、何も変わりません。
ましてや、「皆さんに意識を高めてもらわないと会社が潰れてしまいます。」などという呼びかけは、もはや管理職失格です。

社員の意識改善は、直接何とかしようと試みても大概が失敗に終わります。
しかし、意識を変えるきっかけとなる「考える」という行動を強化させることで、個々に変化を生じさせるという手はあります。
社員の意識改善は、職場によって様々な方策はあると思いますが、この様なやり方もあるという一例でした。

次回は、出木増と張木理の質問タイムの裏話ですが、そこにも「考える」という行動を強化させる、仲持のアイデアが隠されていました。

参考文献
杉山尚子著「行動分析学入門 ヒトの行動の思いがけない理由 」
杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・リチャード・W・マロット共著「行動分析学」
舞田竜宣・杉山尚子共著「行動マネジメント 人と組織を変える方法論」

コメント

職場で活かせる行動分析学⑦「行動変容に導くコツ」

2018-10-14 | 仕事

前回は、出木増部長の奮闘が、営業部員や張木理の行動変容を導いたというお話しでしたが、今回はのそ裏話です。

前回の話を、「そんなに簡単に結果がでるの?」とか、「単に『いいね!』と笑顔だけで社員が活気付くなんてあり得ない!」などと思われた方は多いと思います。

そうです、そんなに簡単には行きません。

なので今回は、行動変容に導くコツについて説明しようと思います。

相談役の仲持が出木増に提案したの取組みの一つは、全営業部員を対象に、良い行いや前向きな発言があった社員に対して、即座に「いいね!」と言い、笑うということでした。
では、なぜそれが良い結果に結び付いたのかを、裏話を通して解説してゆきます。

二人の作戦

実は、仲持が提案した取組みを実施するに当たり、二人は数時間かけてその内容を協議しており、その結果合意したことを改善策として遂行していたのです。

行動分析学では、ある人物の行動変容を考える時に、まず標的行動を定めて、それをどの様なやり方と順序で行えば効果的であるかを、計画的に考えます。こういう行為を行動分析学では「介入手続きをデザインする」などと言います。
では、この場合の標的行動は何だったのでしょうか?良い行いや前向きな発言でしょうか?

本シリーズの②で説明したように、良い行いも前向きな発言もラベリングなので、実は標的行動ではありません。
仲持は、出木増に何を標的行動にするのかを決めるよう指示しました。
しばらく考えた末、出した答えは二つです。
一つは商品を配送車に積み込む際の「指さし確認」、そして二つ目は「周囲の人を労う言葉を言う」でした。

仲持は、前者は良いが、後者はもう少し具体的にならないかと注文を付けますが、出木増にはある考えがあったので「そこは自分の判断に任せてください。」と主張しました。
そこで仲持は、条件付きでそれを受け入れることにしたのです。その条件が、「してはいけない行為」という訳です。
つまり、他の社員の前で部下を叱ってはいけない。そして、部下の話を即座に否定してはいけない。という条件のことです。

実は、この二つの条件は、上層部が抱いていた出木増の問題行動でもあったのです。
バリバリの体育会系男子の出木増は、普段はとても面倒見が良く情に厚い男ですが、その反面一旦火が付くとどこでも構わず部下を叱り飛ばすので、営業部員からは、「怒り始めると角が出る」と恐れられており、言い訳をしようものなら真向から否定して、相手がひれ伏すまで説教が止まらないという側面もありました。
仲持は、この機会に一石二鳥を狙ったのです。

「指さし確認」改善の裏にあった出木増の苦労

出木増は、自他ともに認める負けず嫌いで、しかも「男に二言はない!」という武士のような信念を持つ男でした。
その分、仕事には全勢力を傾け人の何倍も努力して、やる気食品の業績向上に多大なる貢献をして来たので、社長も含め彼の業績に異を唱える者などいない、いわゆる絶対的存在でした。

そんな出木増だからこそ、仲持の提案には相当苦労します。

それは、指さし確認をしている社員を見つけると即座に近寄って「いいね!」と言うのはよいのですが、そうなると、今度はしていない社員に余計にイライラし始めるのです。
いつもの出木増なら、「ちゃんと確認しろ!」と一喝するところです。実際、昨日までそうしていました。
しかし、仲持との約束もあるので、当初は指さし確認をしていない社員を見つけては、一人ずつ倉庫の裏に連れて行って叱っていました。当然ながらいつもに増して社員のビビり様も半端ではありませんでした。
しかし、数日後にはわざわざ一人ずつ呼び出して叱るのも面倒くさいし、何だか後ろめたくなり一週間もしないうちに、連れ出して叱る光景はなくなりました。

作戦開始から一週間後に、仲持は出木増を呼び出して、その時の心境などを詳しく聞き出しましたが、その内容はまたお伝えするとして、結果は出木増の行動によって、指さし確認はほぼ確実に実施されるようになりました。
それどころか、社員同士でも指さし確認をする社員に対して「いいね!」と言い合うことが習慣化したのです。

行動分析学的な解説

この場合、標的行動は「指さし確認」で、好子は出木増の「いいね!」と笑顔です。

では、それがなぜ「好子出現による強化」になったのかというと、それこそ出木増のキャラクターにあります。なぜなら、社長も一目置く絶対的存在で、しかも社員から恐れられている出木増の「いいね!」は、彼が思う以上に好子としての効果があったということです。

それを見抜いていたのが仲持です。
仲持は、標的行動は出木増に決めるよう指示しましたが、好子をどうするのかは、実は最初から決めていたのです。
二人の作戦会議で、出木増は好子を昇給につながるポイントにしてはどうかと提案しましたが、仲持はそんなことをわざわざ好子にする必要はない、それはもっと後で使える好子になると言い放ち、今回は「いいね!」と笑顔だけを要求したのです。それはまさに的中しました。

そしてもう一つ、してはいけない行為というのが効いていることも重要なポイントです。

それは、「指さし確認をしない者だけが叱られる。」という、これまでのやり方では、本来の意味をなしていないからです。
このような、「~をしないと、やがて叱られる。」という行動を、専門用語では「嫌子出現の阻止による強化」と言います。
つまり、叱られるという嫌子が出現しないようにするために、指さし確認という行動をしているということになります。

あるいは、出木増が視界に入っている時だけ、指さし確認をして、出木増が視界に入らない時はしない。という社員もいることも想定できます。
そういう行動は「刺激弁別」という専門用語で説明できますが、専門的になり過ぎるので止めておきます。

現に、配送ミスの件数は減ることなく、出木増が現場に出ている時だけは、叱られまいと指さし確認をするのですが、出木増が事務所に入っている時や不在の時には、指さし確認をしていない者が増えていました。それを出木増自身も気づいていたので、今回の標的行動にしたのです。
しかし、出木増もこの現象をどう改善して良いのか、正直分からなかったので、毎日現場に出てはしていない者に「しっかり指さし確認しろ!」と叱り飛ばすしか術がなかったという訳です。

仲持は、そんな光景を毎日眺めていたので、これを絶好のチャンスと思い、指さし確認という行動が好子を出現させるトリガーになるように仕向けたのです。
つまり、嫌な事が起きないようにする行動と、良い事が起こる行動なら、誰でも後者の方が永続きするからです。
しかも、良い事が起こるのが60秒以内なら、その行動はより強化されるので、指さし確認という行動も精度が上がるという方向になりやすいという訳です。

つまり、「好子出現による強化」を使って行動変容に導くコツは、標的行動を具体的で誰にでもできる行動にすることと、効果のある好子を選ぶことです。そして何より、実施する者が決められた手続き通りに粛々と実行することです。

最後に、皆が「いいね!」を言い合うようになったのも、これまた出木増のキャラクターの効果で、彼が厳しい反面、社員に信頼されている証しでもあったのです。この効果については、後に詳しく説明したいと思います。

次回は、出木増が選んだもう一つの標的行動についての裏話です。

 

参考文献
杉山尚子著「行動分析学入門 ヒトの行動の思いがけない理由 」
杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・リチャード・W・マロット共著「行動分析学」
舞田竜宣・杉山尚子共著「行動マネジメント 人と組織を変える方法論」

コメント

職場で活かせる行動分析学⑥「好子出現による強化」

2018-10-12 | 仕事

今回の登場人物は3人です。

一人目は、やる気食品一筋、バリバリの体育会系で知られる出木増営業部長。二人目は、大手食品メーカーからヘッドハントされ、社長室次長で切れ者の異名を持つ仲持相談役。そして3人目は、入社2年目の張木理君です。

「好子出現による強化」を使った行動変容

張木理君の変化

やる気食品の営業部では、4年ぶりに新人を3人採用しましたが、その中でも張木理は他の二人に比べると大人しく、いつも一歩下がって遠慮している様子で、自分から発言することはありません。
仕事は真面目に黙々とするタイプで失敗はほとんどしないので、顧客からの信頼は高い方です。しかし、張木理の営業成績は研修後に担当を持つようになってほぼ横ばい状態が続いています。同期入社の他の二人は順調に成績を伸ばしているにも関わらず、本人はマイペースで然程気にしていない様子なので、出木増はそんな張木理に少々不満を感じていました。

或る日、出木増は相談役の仲持に、張木理の育成指導についてアドバイスを求めたところ、仲持は出木増に対して、二つの取組みを実施するよう提案し、早速翌日から実行することになりました。

それから2か月後、張木理の成績はわずかながら前の月を上回る傾向が見られるようになり、同僚や先輩も彼の最近の働きぶりに驚いています。そして何より変わったのは、張木理の表情でした。
入社以来、飲み会の席でも感情をあまり出さないので、何を考えているのか分からない張木理でしたが、最近は表情が豊かになり声も大きくなったことに、同期の二人が最も驚いていました。

そこにはもう、出木増が不満に感じた張木理はいません。
この2か月の間に、張木理に一体何が起こったのでしょうか。

出木増の苦闘と努力が変化をもたらす

仲持が出木増に提案したのは二つの取組みでした。
一つ目は、全営業部員を対象に、良い行いや前向きな発言があった社員に対して、即座に「いいね!」と声を出して笑うということ、二つ目は、できるだけ毎日、張木理がルート営業から帰って来た時に、短い時間でよいので顧客のことを具体的に質問して、どんな回答に対しても必ず最後に「ありがとう!」と言いながら笑うということでした。

出木増は、早速翌日から始めてみましたが、「いいね!」と笑顔が、いざ意識すると恥ずかしさが込み上げて、言葉が出ないし、明らかに作り笑顔になる事が分かるので、意外に難しいことを痛感します。
それでも、仲持と約束した手前、「やっぱりできません」とも言えず、ひきつった笑顔でも、声だけは出そうと頑張った結果、一週間も経つとすっかり慣れて、出木増の「いいね!」と笑顔は、徐々に職場に浸透して行きました。
営業部員の間でも「最近、部長がやたら俺たちの様子を見てるよね。」とか、「部長、いつも笑ってるよね。」などと話題になり、自然に部員同士でも「いいね!」と声をかけ合う光景が見られるようになりました。

そして、張木理への質問タイムですが、これも初日は「今日はどうだった?」といった感じで、なかなか具体的な質問が出来ず、張木理も「あ~、いつもと一緒ですかね~。」との返事に、とても「ありがとう!」とは言えず、そのままフェードアウトするという結果に終わってしましました。
出木増は反省し、早速張木理の顧客リストと翌日の納品先をチェックします。
そして、次の日には「一番食堂の吉村店長は、相変わらず商品チェックに超時間をかけてるの?」と聞くと、張木理はちょっと驚いて「えっ、部長何でご存知なんですか?そうなんですよ、あそこに行く時は次の納品に余裕を持たないといけないんですよ。」という返事が返ってきました。
そこから、かつては出木増の顧客だったという話になり、しばらく「一番食堂あるある話」が盛り上がりました。そして最後に出木増は「ありがとう!」と、とても自然な笑顔で告げると、張木理も珍しく笑顔で会釈しました。

それからほぼ毎日、出木増は張木理が帰ってくると、顧客の様子を具体的に質問するようになり、必ず最後は「ありがとう!」と笑顔で告げることを意識的に続けました。
すると、2週間後には、張木理の方から報告するようになり、さらに出木増にアドバイスを求めるようになりました。
「やすらぎカフェから、ランチメニューを増やしたいが、何か話題になるような良い食材はないかと聞かれました。部長、どう思われますか?」といった感じです。
ちょっとぎこちない感じですが、出木増は思いもかけない相談に感動すら覚えます。
その日から、出木増と張木理の質問タイムは、顧客に提案したことがどうなったかという共通のテーマに変わってゆきました。

その後も、出木増と張木理の時間は続き、その間彼は見る見る変わって行くのです。
そして、2か月が経過して以降、出木増はほぼ全ての営業部員に積極的に質問するようになるのです。

仲持からの3つ目の提案

仲持が出木増に提案したのは、実はもう一つ、絶対にしてはいけない行為というのがありました。
それは、他の社員の前で部下を叱ってはいけない。そして、張木理だけでなく、部下の話を即座に否定してはいけない。ということでした。
実は、出木増にとってこれが最も辛い提案でしたが、この3つ目は仲持が最も強く要求したことでもあったのです。

その訳は次回に説明します。

行動分析学的解説

もうお分かりだと思いますが、出木増は「好子出現による強化」と「60秒ルール」を利用して、職場の環境を変えると同時に、張木理の行動を変えたということです。

この場合の「好子」は、「いいね!」や「ありがとう!」という言葉と、出木増の笑顔です。しかし、その裏で効果を上げていたのは、仲持が強く要求した「してはいけない行為」でした。

そしてもう一つ重要な点は、仲持の提案は、決して張木理の育成指導に対するアドバイスではなかったという点です。しかし、結果的には張木理の行動変容につながったのも事実です。

行動分析学を用いる時に最も肝心なのは、対象となる相手に気づかれない(気づかせない)とうことです。
その分、それを使う側の出木増には、普段以上の気遣いと配慮、それに観察力や傾聴力という能力が求められます。

今回の張木理の行動変容で、一番努力したのは出木増に違いありません。
しかし、出木増が頑張れたのは、彼自身にも同じ様に「好子出現による強化」がはたらいていたからです。
それは、張木理をはじめとする部下の反応です。
「いいね!」と言うと、部下は「ありがとうございます!」と返答してくれたり、笑顔で話すと、相手も笑顔になるという事が、出木増にとっての「好子」となった訳です。
さらに、張木理からの相談などは、言葉や笑顔以上に強力な好子になっていたということです。

その後も出木増は、「いいね!」と質問タイムを意識的に続け、営業部全体の成績も上がってゆくことになるのです。

つづく

参考文献
杉山尚子著「行動分析学入門 ヒトの行動の思いがけない理由 」
杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・リチャード・W・マロット共著「行動分析学」
舞田竜宣・杉山尚子共著「行動マネジメント 人と組織を変える方法論」

コメント

聴き上手になるための質問話法講【入門編】

2018-09-25 | 仕事

この講座は、こんな状況の方にお勧めです。

  • やる気が感じられない部下の接し方に悩んでいる方。
  • 周囲との人間関係が上手く作れないと悩んでいる方。
  • 会話は苦手だが、何とか克服したいと思っている方。
  • 反抗期の子どもと普通に話がしたいと思っている方。

この講座で学ぶこと

本講座では、相手の話をよく聴くための「傾聴法」と、相手から話を聞き出すための「質問話法」の基礎を学びます。
実は、上に挙げた4つの状況に共通する解決の糸口は「傾聴」にあります。相手を理解する上で傾聴力は欠かせません。しかし、相手が何を考えているのか、どんな思いでいるのかは、相手が話をしてくれなければ分かりません。
そこで重要なのが「質問話法」という訳です。

単に質問と言っても、オープン・クローズド・スケーリング・励まし・明確化・確認・反映など、その種類は様々です。どの質問をどんなタイミングで使うかによって、相手との会話の方向は随分変わります。

入門講座では、質問話法の全体像を掴んでいただくために、質問の基礎となるオープンとクローズドの使い分けを軸に例を挙げながら説明した後に、テーマを決めた演習を行います。

講座の流れ

  1. 自己紹介(5分)
  2. オリエンテーション (10分)
  3. 傾聴と質問の基礎 (35分)
  4. ワークショップ (30分)
  5. アンケート (10分)

時間は目安となります。

「聞くは習慣」、「聴くは技術」

誰しも一度は、親や先生に「人の話はよく聞きましょう!」と言われた経験があると思いますが、私たちが普段「聞いている」という状態は、実は自分の都合によって聞き分けていたり、聞いているようで本当は次に話すことを考えている状態のことを指します。
つまり、自分本位で聞いているという状態です。

例えば、普段の貴方は、話を聞く方と話す方のどちらが多いですか?
または、相手の目を見ている時間は、話す時と聞く時とどちらが長いですか?

もちろん、相手によって、または話す内容や場面によって違うと思います。
しかし、人にはそれぞれ”クセ”というものがあるように、聞き方にも個々にクセが生じています。つまり、生活環境の中で自然に身に着いたことなので、「聞くは習慣」という訳です。

これに対して、「聴く」というのは「相手本位」という意味になります。
つまり、相手が何を訴えようとしているのか、何を解ってほしいのか、または相手が何を隠そうとしているのか、何に気づかれまいとしているのかなどを、或る意味で観察しながら聴くといった感じです。

当然ながら、それなりの「聴き方」を習得する必要があるので「聴くは技術」という訳です。
傾聴法を身に付けると、相手の様子や意図をより深く理解出来るようになり、相手が話したい話題を引き出す質問もし易くなります。

日時・会場などの情報はホームページにてご確認ください。

http://www.kanaeruken.com

 

コメント

職場に活かせる行動分析学⑤ 「60秒ルール」

2018-09-14 | 仕事

前回は、2つの行動の基本原理「レスポンデント行動」と「オペラント行動」につて説明しました。さらに、両者は行動の原因が、その行動の前にあるのか、後にあるのかが大きな違いだというお話でした。

そして今回からは、話題をオペラント行動に絞って進め、私たちの行動がどのように操作、制御されているのかを解き明かして行きたいと思います。

行動は、直後に起きる刺激や現象によって変化する

行動分析学では、ある行動の頻度や強度が増えることを”強化”と呼びます。そして、ある行動の頻度や強度が減ることを”弱化”と呼びます。

そして、強化や弱化に大きな影響を与えるのが”好子””嫌子”の存在です。

好子とは、行動の直後に出現することで、その行動を強化する刺激や現象であり、嫌子とは、行動の直後に出現することで、その行動を弱化する刺激や現象のことを指します。

行動分析学では、これらの関係性を以下の様に整理して、人の行動を考えて行きます。

  • 好子出現による強化
  • 好子消失による弱化
  • 嫌子消失による強化
  • 嫌子出現による弱化

ちょっと専門的になったので、別の表現をするとこうなります。

「好子出現による強化」

「ある行動の直後に、良い事が起きれば、その行動が増える」
例「会議で発言をしたら誉めてもらえたので、発言の回数が増えた」

「好子消失による弱化」

「ある行動の直後に、良い事が無くなれば、その行動が減る」
例「おしゃべりしている相手が返事をしなくなったので、口数が減った」

「嫌子消失による強化」

「ある行動の直後に、嫌な事が無くなれば、その行動が増える」
例「机を叩くと、部下の話し声が小さくなったので、叩く回数が増えた」

「嫌子出現による弱化」

「ある行動の直後に、嫌な事が起きれば、その行動が減る」
例「同期と話をしていると、上司が机を叩くので、声を小さくした」

このように考えると、私たちの行動は、その行動の直後に起こる変化によって増えたり、減ったりすることがイメージできると思います。

そして”直後”とは、その文字のごとくまさに直ちにという意味ですが、行動分析学では、60秒以内という目安があり、それをとって「60秒ルール」と呼んでいます。
目安としているのは、どこかで線を引いたように区切れないからです。
つまり、行動の後にしばらく時間が経過して起こる刺激や現象は、その行動の強化や弱化にあまり影響しないということです。

 

「ほめて育てる」の道理

やって見せて、言って聞かせて、やらせて見て、ほめてやらねば、人は動かず。

これは、山本五十六の名言として有名ですが、この言葉には行動分析学の考え方が随所に潜んでいる言葉だと私は思っています。
なので、今後は頻繁に引用ることになりますが、今回は「ほめてやらねば」という部分にフォーカスします。

まず、”ほめられる”というのは、ほとんどの人にとって好子になります。つまり、大多数の人は”ほめられると嬉しい”と思うからです。

ではなぜ、ほめられると嬉しいと思うのでしょうか?

それは、多くの人が、幼い頃から親や家族、周囲の人から、ほめられながら成長して来たからです。
例えば、赤ちゃんがハイハイをすると、拍手をしながら「すごいね~、頑張れ~!」などと笑顔で言いながら見守り、終わったら「よくできたね~、えらいね~」と言いながらギュっと抱きしめる母親の様子を思い浮かべるとイメージできると思います。

この様に、私たちは幼少期から、歩く、話す、書く、食べる、着るなどのありとあらゆる行動を、逐一ほめられながら習得してきたので、無意識のうちに、「ほめられると、いい気持ちになる」という、ある種の”すり込み”があり、それがやがて好子となったということです。

そして、ハイハイをする赤ちゃんをほめるという行為は、必ずハイハイの開始直後から始まっているはずです。そしてハイハイをするとママが喜んで抱きしめてくれます。だからこそ、赤ちゃんはハイハイを何度も何度もするようになるのです。これは先ほど説明した「好子出現の強化」に当たります。

ビデオでハイハイした孫の映像を観たおじいちゃんが、数日後に「この前はよくできたね~」と言っても、ハイハイは強化されないという訳です。
つまり、ほめるという行為は、ほめるべき行動の直後に行うことで、その行動を強化できるということです。そして、ほめるのが遅くなればなるほど、その行動の強化にはならないということです。

このように考えると、「ほめて育てる」という考え方は、行動分析学から見ても理にかなった考え方と言えます。ただし、”行動の直後”ということが肝心なので、「60秒ルール」を守って上手くほめることが大切です。

社員がイキイキ働き、業績を上げている職場では、社員間で誉め言葉や感謝の言葉がごく普通に交わされています。ある社員の何気ない行為でも「さすがだね~」とか、「助かった、ありがとう!」という言葉が返って来ると嬉しくなるので、自然に助け合う行動が増え、互いを認め合い、息の合った動きをするようになるという訳です。
これも、60秒ルールの効果です。

さらに、行動分析学の良い点は、相手を無意識のうちに行動変容に導くことができるという点です。命令して無理やりさせる行動ではなく、気が付けば行動していたということを可能にしてくれるのが行動分析学であり、60秒ルールはそのテクニックの一つに過ぎません。

貴方の職場はいかがですか?
社員間で、60秒以内に誉め言葉や感謝の言葉が言えるような雰囲気ですか?

貴方の上司はどうですか?
部下の良い行動に対して、60秒以内に誉め言葉や感謝の言葉が言えるような人ですか?

これからは、社員一人ひとりを大切にする会社が残っていくと言われいます。60秒ルールを知り、その上手な使い方を会得すれば、職場に限らずあらゆるシーンで良好な関係を構築できるようになります。

次回から、実例を挙げて説明してゆきます。

 

参考文献
杉山尚子著「行動分析学入門 ヒトの行動の思いがけない理由 」
杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・リチャード・W・マロット共著「行動分析学」
舞田竜宣・杉山尚子共著「行動マネジメント 人と組織を変える方法論」

コメント