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職場に活かせる行動分析学⑤ 「60秒ルール」

2018-09-14 | 仕事

前回は、2つの行動の基本原理「レスポンデント行動」と「オペラント行動」につて説明しました。さらに、両者は行動の原因が、その行動の前にあるのか、後にあるのかが大きな違いだというお話でした。

そして今回からは、話題をオペラント行動に絞って進め、私たちの行動がどのように操作、制御されているのかを解き明かして行きたいと思います。

行動は、直後に起きる刺激や現象によって変化する

行動分析学では、ある行動の頻度や強度が増えることを”強化”と呼びます。そして、ある行動の頻度や強度が減ることを”弱化”と呼びます。

そして、強化や弱化に大きな影響を与えるのが”好子””嫌子”の存在です。

好子とは、行動の直後に出現することで、その行動を強化する刺激や現象であり、嫌子とは、行動の直後に出現することで、その行動を弱化する刺激や現象のことを指します。

行動分析学では、これらの関係性を以下の様に整理して、人の行動を考えて行きます。

  • 好子出現による強化
  • 好子消失による弱化
  • 嫌子消失による強化
  • 嫌子出現による弱化

ちょっと専門的になったので、別の表現をするとこうなります。

「好子出現による強化」

「ある行動の直後に、良い事が起きれば、その行動が増える」
例「会議で発言をしたら誉めてもらえたので、発言の回数が増えた」

「好子消失による弱化」

「ある行動の直後に、良い事が無くなれば、その行動が減る」
例「おしゃべりしている相手が返事をしなくなったので、口数が減った」

「嫌子消失による強化」

「ある行動の直後に、嫌な事が無くなれば、その行動が増える」
例「机を叩くと、部下の話し声が小さくなったので、叩く回数が増えた」

「嫌子出現による弱化」

「ある行動の直後に、嫌な事が起きれば、その行動が減る」
例「同期と話をしていると、上司が机を叩くので、声を小さくした」

このように考えると、私たちの行動は、その行動の直後に起こる変化によって増えたり、減ったりすることがイメージできると思います。

そして”直後”とは、その文字のごとくまさに直ちにという意味ですが、行動分析学では、60秒以内という目安があり、それをとって「60秒ルール」と呼んでいます。
目安としているのは、どこかで線を引いたように区切れないからです。
つまり、行動の後にしばらく時間が経過して起こる刺激や現象は、その行動の強化や弱化にあまり影響しないということです。

 

「ほめて育てる」の道理

やって見せて、言って聞かせて、やらせて見て、ほめてやらねば、人は動かず。

これは、山本五十六の名言として有名ですが、この言葉には行動分析学の考え方が随所に潜んでいる言葉だと私は思っています。
なので、今後は頻繁に引用ることになりますが、今回は「ほめてやらねば」という部分にフォーカスします。

まず、”ほめられる”というのは、ほとんどの人にとって好子になります。つまり、大多数の人は”ほめられると嬉しい”と思うからです。

ではなぜ、ほめられると嬉しいと思うのでしょうか?

それは、多くの人が、幼い頃から親や家族、周囲の人から、ほめられながら成長して来たからです。
例えば、赤ちゃんがハイハイをすると、拍手をしながら「すごいね~、頑張れ~!」などと笑顔で言いながら見守り、終わったら「よくできたね~、えらいね~」と言いながらギュっと抱きしめる母親の様子を思い浮かべるとイメージできると思います。

この様に、私たちは幼少期から、歩く、話す、書く、食べる、着るなどのありとあらゆる行動を、逐一ほめられながら習得してきたので、無意識のうちに、「ほめられると、いい気持ちになる」という、ある種の”すり込み”があり、それがやがて好子となったということです。

そして、ハイハイをする赤ちゃんをほめるという行為は、必ずハイハイの開始直後から始まっているはずです。そしてハイハイをするとママが喜んで抱きしめてくれます。だからこそ、赤ちゃんはハイハイを何度も何度もするようになるのです。これは先ほど説明した「好子出現の強化」に当たります。

ビデオでハイハイした孫の映像を観たおじいちゃんが、数日後に「この前はよくできたね~」と言っても、ハイハイは強化されないという訳です。
つまり、ほめるという行為は、ほめるべき行動の直後に行うことで、その行動を強化できるということです。そして、ほめるのが遅くなればなるほど、その行動の強化にはならないということです。

このように考えると、「ほめて育てる」という考え方は、行動分析学から見ても理にかなった考え方と言えます。ただし、”行動の直後”ということが肝心なので、「60秒ルール」を守って上手くほめることが大切です。

社員がイキイキ働き、業績を上げている職場では、社員間で誉め言葉や感謝の言葉がごく普通に交わされています。ある社員の何気ない行為でも「さすがだね~」とか、「助かった、ありがとう!」という言葉が返って来ると嬉しくなるので、自然に助け合う行動が増え、互いを認め合い、息の合った動きをするようになるという訳です。
これも、60秒ルールの効果です。

さらに、行動分析学の良い点は、相手を無意識のうちに行動変容に導くことができるという点です。命令して無理やりさせる行動ではなく、気が付けば行動していたということを可能にしてくれるのが行動分析学であり、60秒ルールはそのテクニックの一つに過ぎません。

貴方の職場はいかがですか?
社員間で、60秒以内に誉め言葉や感謝の言葉が言えるような雰囲気ですか?

貴方の上司はどうですか?
部下の良い行動に対して、60秒以内に誉め言葉や感謝の言葉が言えるような人ですか?

これからは、社員一人ひとりを大切にする会社が残っていくと言われいます。60秒ルールを知り、その上手な使い方を会得すれば、職場に限らずあらゆるシーンで良好な関係を構築できるようになります。

次回から、実例を挙げて説明してゆきます。

 

参考文献
杉山尚子著「行動分析学入門 ヒトの行動の思いがけない理由 」
杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・リチャード・W・マロット共著「行動分析学」
舞田竜宣・杉山尚子共著「行動マネジメント 人と組織を変える方法論」