毎日見る桜は、寂しさを運んでくるものでもある。それは紫陽花の寂しさとも夏椿のさびしさとも違う。いきどころのないエネルギーがぎしぎしと音を立てている。
「カメラマンですか？」と聞かれる。ど素人がカメラを抱えているだけなのに。ある会の私の紹介には「編集長」とある。編集はしているが「長」などつかない。「○○在住」とある。どうして私だけそんなことを書かれるの？隣に市議が座るから？妙に心が刺々しい。
だれの妻でもなく、だれの母でもなく、どこかの組織の中でタイトルをもつわけでもない。身分を証明するものはマイナンバーくらいだ。ただ、私にはいきたいところがあり、そこに向かって生きているだけ。何かを続けていける、思い続けていけるということは、「中身がよっぽど豊かで、ぬきさしならぬことでなければ続かない」という言葉の通りかもしれない。
こんな夜はモーツアルトがいいかもしれない。春の夜らしいやさしい旋律がざらざらした心を癒してくれるだろう。
