有志舎の日々

社長の永滝稔が、 日々の仕事や出版・学問などに関して思ったことを好き勝手に 書いていきます。

出版システム危機について

2015-08-01 14:19:54 | 出版
出版システムの崩壊は「サイパン陥落」くらいか、と以前書きましたが、甘かったようです。
実は、このシステムはもう死んでいるのであって、今はゾンビ化して手足・胴体だけが意思もなく動いてるだけ、という評価をある書店員さんと思われる方が書いているとのこと(月曜社「ウラゲツ・ブログ」7月22日)。

6月末に民事再生に移行した業界4位の取次である栗田出版販売をめぐる問題が収まるどころか、ますます混乱してきています。
直近状勢では、栗田側は1ヶ月分の返品相当額の還元だけは譲歩してきたみたいですが、それ以外は最初の申し出のまま。つまり、「新刊委託を「6ヶ月間の返品受付期間、8カ月後の入金」という条件で出荷している版元は、(6月下旬に民事再生申請になったので)7月5日に入金されるはずだった昨年11月分と8月5日に入金されるはずだった昨年12月分の委託精算がけし飛び(つまり売上金が入ってこない!)、1月から今年6月にかけての委託出荷分の精算が終わっていないため、少なくとも今後半年間は6月25日までに出荷した委託分からの返品を買上げ続ける(委託期限切の返品や注文出荷分の返品も含む)という事態に悩まされることになります」(「ウラゲツブログ」7月21日)http://urag.exblog.jp/page/2/
つまり、本をきちんと出荷していたのに、2ヶ月分の売上はもらえず、にもかかわらず返品だけは受け入れてその分を返金(実際には売上からの差し引き精算)しないといけない。
有志舎の場合は、幸か不幸か、直接栗田との取引契約が無かったので、新刊委託はしていませんでしたから、その被害はありません。が、取引先のJRCと八木書店という取次会社を通して栗田へも注文品を出荷していたので、その返品が今後どれくらい返ってくるのかが心配。まあ、そんなにないとは思うのだが、完全に把握は出来ません。

これで、新刊委託という販売方式がいかにリスクが高いか思い知ったということで、もはや書店からの注文だけを受けて出荷する注文出荷制か、トランスビュー・ミシマ社がやっている書店への直販システムしかなくなるのだろうと思います。ただ、これはリスクを低くすると同時に、必然的に商売を小さくすることになるので、これが出来るのは小規模な出版社のみとなるでしょう。大規模出版社の多くは、大量部数を市場に撒いて、それらの返品が戻る前に次の本をまた大量部数、市場に撒くことで、結果的に返品のマイナスを殆ど受けずに資金繰りをし続けるという方法をとっています。この方式を維持できないと潰れてしまうので、何としても栗田という取次を救済し、この大規模販売システムを維持し続けないといけないと考えているのでしょう。

あと、これは全部の出版社ではありませんが、新書を出している大出版社のなかには、上記のように何でもいいからともかく新刊を出し続けないと倒れてしまうので、若手でも実績のない研究者でも何でも声を掛けて「新書、書きませんか」と甘い言葉で誘惑してくるところもあるようです。しかし、結局は内容の善し悪しよりは「本になればいい」「資金繰りの助けになればいい」とだけ考えている出版社もあると思うので、若手研究者の人は気を付けて下さい(もっとも編集者自身はそれに気付いておらず、上司や経営者に「ともかく続けて企画を出せ」と発破をかけられているだけの人もいるでしょうが)。
私などは、専門研究書も出していない若手研究者が「今度、新書を書くことになりました」と嬉しそうに話しているのをみると、出版システム維持のための犠牲者がまた一人でたのかもしれない、と暗澹たる思いをもってしまいます。ただ、言っておきますが、全部の新書がそうではないので、よくよく自分でその編集者の力量や学問への情熱を推し量ったうえで、書くか書かないか決めるべきだとは思いますけど。

結局、今の出版システムは大企業のためだけにあるので、我々のような小規模出版社はもうこのシステムからおりて別のシステムでやらないといけないのだろうと思います。
有志舎も、1年くらい前から大規模取次であるトーハンの新刊委託をやめました。今は、基本的には事前にファクスで書店に新刊の内容を知らせて予約をとり、予約してくれた書店にだけ本を出荷するという方式をとっています。
新刊委託をすれば、注文してくれていない書店にも強制的に新刊を送りつけられるわけですから、一時的には出荷数は伸びます。しかしその分、「こんな本、勝手に送りつけてきて。いらんわ!」と思う書店さんもあるから返品も多いので、結局、70%以上は返品されるうえに本は汚れて返ってきます。これがもう耐えられません。どの段階で汚れているのかわかりませんが、他人の本だと思ってぞんざいに扱いやがって、という怒りがわいてきます。
だから、有志舎はもう新刊委託はしないことにしました。
かといって、書店への直販へ移行することは難しい(全国たくさんの書店への配送・返品受け入れ・決済に膨大な手間とシステムが必要になる)ので、とりあえずは注文出荷制でやっていくしかないと思っています。
ですから、有志舎の本はそんな沢山の書店には置かれません。あくまでも、有志舎の本を置いてやろうという「奇特」な書店さんにだけ置かれています。でも、逆にそういう有志舎の本を置いてくれている書店さんには深く感謝しています。ただ、売れる売れないだけでなく、志をもって有志舎を助けてくれている。
だから、私も有志舎の本を置いていない書店さんでは本を買いません(笑)。

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