有志舎の日々

社長の永滝稔が、 日々の仕事や出版・学問などに関して思ったことを好き勝手に 書いていきます。

大門正克さんの新著『語る歴史、聞く歴史-オーラル・ヒストリーの現場から-』(岩波新書)を頂戴しました

2017-12-29 07:50:43 | 出版
大門正克さんの新著『語る歴史、聞く歴史-オーラル・ヒストリーの現場から-』(岩波新書)をご本人から頂戴しました。
有り難うございます。
オーラルヒストリー論は「絶対書きたい」と昔からおっしゃっていたので、ついに出たか!という感じです。
内容のなかには、私の尊敬するベトナム現代史研究者の故・吉沢南さん(オーラルヒストリーを先駆的に切り拓いた)の仕事についても論じておられるので、とっても楽しみ。
為政者の思想や行動ではなく、名も無き民衆の声に耳を澄まし、それを歴史に残し、そこから歴史を考えることの大切さ。
改めて噛みしめたいと思います。

ちなみにこの本で触れられている、吉沢南さんの名著(オーラルヒストリーとしての先駆的作品)『私たちの中のアジアの戦争』の初版は朝日選書で出ましたが、今は絶版で、有志舎から再版しています。その解説を書いていただいたのが大門さん。
その時からの念願が「オーラルヒストリー論」を書くことだとおっしゃっていたので、これが出版されたことは実に喜ばしいことです!



「城expo」に行ってきました

2017-12-24 17:06:05 | 出版
将来的に「歴史(書)フェス」をやるための勉強・視察として、横浜で開催された「城expo」に行ってきました。
吉川弘文館も出店していて大盛況、何でも3日間で売上は100万円を越える見通しだそうです。学会販売より遥かに売れてる! 人手が足りないので、私も急遽、販売のお手伝いをしました。
そもそも、学会販売にくる客層とは全く違って一般の方々なので、吉川弘文館の名前も初めて聞くという方もいます。
それでもこの売上、戦国マニア恐るべし。
しかも、最近は公費購入が多い学会販売と違い、後払いではなく全部その場での現金売上ですから、これは有り難い。
入場者も女性や子どもが結構多く、城ファン層の広さを示していますね。
今後は、こういう人たちをもっと歴史書全般の購買層に引っ張ってこないといけません。
出版界と研究者はもっとアタマを柔らかくして考えないと。
写真は、吉川弘文館ブースと姫路城のブースです(ガラ携で撮った写真なので画質悪いです。すいません)。
こういった各お城のブースだけでなく、専門的なセッションやワークショップなど盛りだくさんのメニューでした。


科研への「ナショナリスト」の攻撃開始にあたって

2017-12-16 17:22:30 | 学問
「「徴用工」に注がれる科研費 前文部科学事務次官の前川喜平氏は韓国と同調」という『産経新聞』の記事を読んで。

以下は、『1984』『動物農場』などを書いた作家・ジャーナリストのジョージ・オーウェルの言葉です。「ナショナリズムについて」『オーウェル評論集』岩波文庫、より。
「ナショナリズムというとき、私がまっさきに考えるのは、人間を昆虫と同じように分類できるものと考えて、何百万、何千万という集団をひとまとめに、平然と「善」「悪」のレッテルを貼れると決めてかかる考え方である。・・・自分を一つの国家あるいはこれに似た何らかの組織と同一視して、それを善悪を超えた次元に置き、その利益を推進すること以外にいっさいの義務を認めない考え方である。ナショナリズムと愛国心とははっきり違うのだ」。
「ナショナリストたるものはつねに、より強大な権力、より強大な威信を獲得することを目指す。それも自分のためではなく、個人としての自分を捨て、その中に自分を埋没させる対象として選んだ国家とか、これに類する組織のためなのである」。
「私が愛国心と呼ぶのは、特定の場所と生活様式に対する献身的愛情であって、その場所や生活様式こそ世界一だと信じているが、それを他人にまで押しつけようとは考えないものである」。

オーウェルの評論が面白いと教えてくれたのは安田常雄さん(日本近代史研究者)で、早速読んでみたところ、上記の言葉に出会いました。
なお、ここでいう「愛国心」とはパトリオティズムの訳語だということだそうです。

とはいえ、この『産経』の記事は今後大きな影響を学問の世界と学術出版界に与える影響があると思います。
『産経』によると、「徴用工をめぐる韓国側の主張に同調する研究者らに文科省などが助成金を交付していたことを伝えた産経新聞の報道(13日付朝刊)を受け、(自民)党文部科学部会は14日、文科省幹部を呼び説明を受けた」ということです。
科研費の採用・不採用に際して、「反日」かそうでないかのレッテル貼りによる「思想審査」がなされるという事が現実化してきました。
つまり、オーウェルのいう「ナショナリスト」の利益にならない研究には、国家はお金を出すべきでない、ということですね。
日本国家は一部のナショナリストの私物では無いはずですが、どうも彼らは私物と考えているらしい。
でも、日本国家がナショナリストだけのものならば、それに同調できない人は納税しなくても良いのかな?

先月出版した牛米努さんの『近代日本の課税と徴収』には、大正期において大蔵官僚出身の議員が「税金とは会費である」として、無理矢理に徴収するのではなく、その団体を構成する者として納得して納めてもらうことが税の本質だと議会で言っている事が書かれていました。
では、一部の人間の私物になってしまった国家には、構成員ではない私は会費を払う義務はないということになるのでは?



1月新刊は、中田英樹・髙村竜平 編『復興に抗する―地域開発の経験と東日本大震災後の日本―』(本体2600円+税)

2017-12-06 10:31:26 | 出版
有志舎の1月新刊は、
中田英樹・髙村竜平 編『復興に抗する―地域開発の経験と東日本大震災後の日本―』(本体2600円+税)
です。
有志舎としては珍しく現代の問題を扱いますが、サブタイトルにあるように、戦後における「開発」の歴史を掘り下げるなかから東日本大震災後の復興について考える本となっています(そういう意味で、これもまた「歴史書」です)。
そして、そういった歴史的経験と、それを背負った生身の人びとの生活という視点から、復興とは何かを問う本です。
執筆者全員、渾身の力を込めて書いていますので、実に熱いメッセージのこもった内容の本になりました。
来年1月下旬の発売予定です。
詳しい内容はこちらから。


「お城EXPO」に行ってみようと思う

2017-12-05 12:53:23 | シンポジウムなどの情報
吉川弘文館も出店する「お城EXPO」。今年は「視察」に行ってみようかと思っております。
いずれ「歴史(書)フェス」を開催するための予習として、です。

真面目な専門家はこういうイベントをバカにするかもしれないが、実際にたくさんの人が来ているそうだし、吉川の本もたくさん売れたとのこと。爆買いする人や「おたくの本は普通の本屋で売ってるの?」と聞かれることもあったとか。
つまり、普段は吉川の本を買わない読者との新しい出会いの場でもあるわけです。
いかにして歴史学の「すそ野」を広げていくか、という事を真剣に考えれば、こういうイベントはバカにできません。
「やわらかめ」の事と「かため」の事を、どのようにバランスを取ってやっているんだろう。
ともかく、批評する前に実際に見に行ってみないとね。