事故起こしちゃったの！その参

このような交渉事の場合、
いきなり高圧的な態度に出るのは時として逆効果であることもあり、リスキーである。


しかし今回、この男は今朝の家内の電話に対して『余り高ければ払わない』とか
『どちらにも非がある』というような中途半端な逃げ腰を示しており、

これが例えばヤクザであるならば、おそらく危険な牙を見せながら無視するか、
逆に『お前が急ブレーキを踏んだから追突した』などと言ってこちらから金を取ろうとするはずであり、
私の見立てでは、この男はただ、上手くいけば逃げおおせたいか、
修理代金を値切りたいかのセコイ相手だ、と見切りをつけたのだ。

また、相手が高圧的に出た場合にとる人間の態度は大きく分けるとふた通りあり、
驚愕してうろたえるか、逆に精神が静まって腰が据わるかである。

私が予想した通り今回の相手は前者であった。

そしてこれは私にとって好都合でもあった。

男は一瞬の沈黙の後、混乱した様子で意味不明のことを言い始めた。

『あっと、、とと、、そ、そっちが急に、、来るけん、、見えんやったけん、、』

『あんたねぇ、、、ウチのがあんたの事を思うて、警察に届けんやったのに、、、なんちゅこと言うの？』

『いや、、いそぎょったけん、おいだけが悪かっちゃ』

私はみなまで言わせずに言い被せた。
『なぁ～～に言ってんの？！ほいじゃぁ今から警察に行こうで。な、、行こうで！』


すると、男は意外な行動に出た。

彼は『も、払う！払うじゃん！、、払うけんよかろうもん！、、あ、払う払う』
と言って電話を一方的に切ってしまったのだ。






『、、、、払うそうだよ』

私は横に立って呆然としている家内の顔を覗き込んで笑った。


私は今のやり取りを説明し、
これらの事を又ノートに克明に記録するように家内に言うとパソコンに向かった。

Wordを立ち上げ、私は男にこれから送る手紙を書き始めた。


＊事故はそちらの一方的な責任であり、事故当時修理代金を支払うと約束しており、
また本日（火曜日）電話においても『支払う』と明言したこと。

＊現在私（家内の事）の体に異常は見られないこと。

＊現在車が使えず困っているので、早急に修理せねばならず、
来週の火曜日までに私の口座（家内の口座）に振り込んでもらいたいこと。

＊火曜日までに振り込まれた場合、その他の経費は今後いっさい請求するつもりがないこと。

＊もし、火曜日までに振り込まれなかった場合、
即日病院に行き、体を精査し、あらゆる法的な手段を講じるつもりであり、
代車代はもちろん多額の訴訟費用も請求する事になること。


などの内容を、できるだけ穏便な表現でタイピングした。


つづく