
「一生けんめい練習したのに…どうしてこんなことになったのかなぁ~。最初はね、すごく調子がよかったんだよ。でね、これはだいじょうぶって思ったの。そしたらね、急に観客席にいるコが読んでる本が目に入ってきてね。それが、レーコ先生のコミックスで。あ、今月の新作まだ読んでいないなぁ、って気になっちゃって。それでね、最初の1セットは逆転されちゃったの。でも次ではぜったい集中して挽回しようと思ってたんだよ。あ、でもね、きのうの夜に合宿寮の裏で拾ったワンちゃんのこと思い出して。いまごろ、ちゃんとご飯食べてるかなぁ~って。それでね、そのセットもだめになっちゃって…(以下、延々と言い訳がつづくが割愛)

↑返答に窮してしまったヒト。
「……(黙)」

「…せっかく千歌音ちゃんといっしょにおそろいで金メダルとろうと思ったのに…ごめんね…」

「だいじょうぶ、姫子。オリンピックはね、参加することに意義があるの。勝ち負けがすべてじゃない」

「でも、でもね、千歌音ちゃんはちがうよ。千歌音ちゃんはすごいなぁ、ちゃんと金メダルだし…」

「……(黙)」
褒められたというのに、すごく冷めた表情の千歌音選手。
一位をとったことよりも、嬉しかったことがあったのに、それに気づいてくれないことが悲しいとでもいいたいように。
千歌音選手は、いきなり胸元からなにかをとりだします。
それは彼女が手にしたかがやかしい栄光の証。

なんと、びっくり!
神無月オリンピックのメダルは貝殻形なのでした!(ありえない設定 その1)
しかも、今回食あたりでリタイヤが続出して、かけもち出場していた千歌音選手。合計五個の金メダルをお持ちなのでした(ありえない設定 その2)

「じゃあ、私もこのメダル返そうかな?」

「…えっ、でも」
「姫子は私とメダルがおそろいじゃなきゃ、いやなんでしょ?」
「でも、でも、だめだよ、そんなの。せっかく、千歌音ちゃんががんばったご褒美なのに。だいじにしなきゃ」

「メダルよりもだいじにしなきゃいけないものって、あるんじゃないかしら?」
「…?」