陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

さいとうちほのインタビュー──雑誌『ダ・ヴィンチ』2021年9月号

2021-11-07 | 読書論・出版・本と雑誌の感想
『輝夜伝』第二巻(小学館)裏表紙より


雑誌『ダ・ヴィンチ』2021年9月号で、少女漫画家さいとうちほ先生のインタビュー記事が掲載されると知ったのは、たまたまチェックしたご本人のツイッターからでした。

『ダ・ヴィンチ』といいましたら、カドカワ発行の本とコミックの情報マガジン。
以前に百合特集と氷河期世代インタビュー特集がありまして、思わず買い求めたことがあります。小説やら漫画やらの毎月の刊行情報もあって便利だし、本好きには読みごたえ十分なのですが、情報過多すぎて読み終わらないんですよね(苦笑)

そして、なんとこの号、「ファンタジーの扉を開く。」と題した特集コーナーで、上橋菜穂子、荻原規子ら日本の名だたるファンタジーノベルの書き手たちにお話を伺うというスタイル。さいとうちほ先生は漫画部門のトップバッターとして紹介されていました。その中身をまとめて紹介いたします。

記事の中心は、現在連載中の『輝夜伝』。
日本最古の物語にして大和ファンタジーの祖ともいえる「竹取物語」をモチーフにした絢爛豪華な王朝ラブロマンス。2021年9月現在で、既刊8巻。

・竹取物語に羽衣伝説をアレンジ
日本各地に存在するという天女の伝説。かぐや姫が高貴な男性の求愛をはねつけて月に帰る一方で、地上にとどまり子どもを産んだ女もいる。境遇の異なる二人の天女が出会う物語にしたかったとのこと。

・滝口の武者は呪術使いの宮廷人
主人公の少女・月詠は、兄の死の真相解明のために滝口の武者となる。西行法師の前職で知られる滝口の武士がモデルと思われるが、滝口の武者とは、弦を鳴らすなどの祓いで帝の警護をする部隊。いわゆる魔法バトルめいた呪術ではなく、平安朝の陰陽道とかそういった儀式めいたもの。ひとの怨念と祓い、解呪は『とりかえ・ばや』に続き王朝ものを描く醍醐味なのだそう。

・竹と月にこめられた意味
滝口の武者のトリオ、月詠(つくよみ)と大神(おおがみ)、凄王(すさのお)は日本神話の三貴神がモデルとわかるが、ツクヨミ神と竹に共通するのが空洞(うつぼ)であるということ。

・男装の麗人というお馴染みのテイスト
さいとうちほ先生と言いましたらこれ! ボーイッシュではなくて、男と女を軽やかに行き来する境界の曖昧さ。『とりかえ・ばや』『少女革命ウテナ』のみならず、初期作の『花冠のマドンナ』からして健在の定番のモチーフ。曰く「男女のオイシイとこどりをしたい」という理想の形なのだとか。男になりきるとか、男に勝とうと女を捨てるんじゃなくて、恋愛もしちゃうし、女のずるさも優しさもある女性の描き方がなかなか魅力的ですよね。色気があるけれど、厭味や卑下がないのが気持ちがいい。

・日常のなかの非日常がファンタジーの入口
とくに異世界ファンタジーを描いている意識はないという先生。クラシックバレエを習いおとぎ話を演じた経験や文学音楽に親しんだこと、幼少期に近所にあった米軍基地などの記憶が、とりたてて魔法などがなくても異世界に没入した感覚のもとになっているとのこと。

・天女と人間の男たちの織り成す恋のゆくえ
『輝夜伝』は世代の異なる男女の恋心が入り乱れた群像劇。幼い帝とかぐや姫、月詠と大神そして謎の仮面男梟(ふくろう)の三角関係。さらには不気味な存在としてかぐや姫を狙う治天の君。さいとうちほ先生、美男子を描かせたら超逸品ですが、実は渋いオジサマとか、コケティッシュな三枚目とか、どこか憎めない悪女とか、キャラ立ちがうまいんですよね。だいたい10代から20代の女性が主人公なのだけど、清純派ヒロインてだけではなくて、信条があって行動力があるのが共感できます。

影響を受けた作品としてバレエ作品の「くるみ割り人形」を掲げているのですが。
これにちなんでアヒルが変身して踊りながら戦うアニメ「プリンセスチュチュ」が好きだったとの告白にびっくりしました。あのアニメ、チラ見したことしかないですが、原案・伊藤郁子、監督・佐藤順一って美少女戦士セーラームーン関連じゃないですか! やっぱり、みんな月といいましたら、そこですよね。

私はさいとうちほ先生の漫画は『少女革命ウテナ』以前のものから知っていまして、コンプリートとはいかなくとも、だいたい読ませていただいています。
作画とストーリーに安定感があってハズレがない、数少ない作家買いできる漫画家さんの一人です。10代からデビューされているのに第一線で活躍されているのが素晴らしいですよね。お気に入りは音楽家の少女を描いた小学館漫画賞受賞作の『花音』と、彫刻家の女性とホテルオーナーとのロマンス中編『バジリスの娘』。ウテナに出てくるアンシーとか中東系のキャラの原形って『円舞曲は白いドレスで』の軍人なんですよね。デビュー作の『剣とマドモアゼル』は幾原邦彦監督が感化されたといいいますし、ウテナの凛然としたキャラ造形はさいとうマジックのおかげと言えるでしょうね。

(2021/09/27)

【関連サイト】
さいとう ちほ Chiho Saito@chihochat
漫画家です。小学館「月刊フラワーズ}連載中の「輝夜伝」(既刊7巻)「増刊フラワーズ」でアルセーヌ・ルパンを題材にした「VSルパン」(既刊5巻)も連載中
manga artist.
"Kaguyaden" Volume 7 "VS Lupine" Volume 5
Released from Shogakukan

マンガ家 さいとうちほブログ

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