
(不滅のあなたへ公式サイトより)
レヴューといいますか、視聴したという記録のために、したためました。
アニメ「不滅のあなたへ」
NHK Eテレで毎週月曜22時50分から放送で、つい先日全20話が終了でした。
「進撃の巨人」アニメが終わって当面テレビアニメは観ることはなかろうと思っていたら、なんとなくハマってしまいました。
ちょうど、100分de名著の後ろの番組なんですよね。それもぼんやり観てる程度なんですけども。
原作者は大今良時氏。第43回講談社漫画賞少年部門受賞作というのもむべなるかな、という壮大な大河ファンタジー。この著者さん原作の、「聲の形」というアニメーション映画も、直前にNHKで放映されていました。まあほんとに、何とも言えない、いい作品でした。私のつたない言葉で語るのがおこがましいような。
このアニメ「不滅のあなたへ」は、不老不死の能力を得た少年が旅をする物語。
観察者と呼ばれる謎の存在によって、地上に投げ入れられた球体。それが小石、苔、さらに北極圏の狼に形を変え、狼の飼い主だった少年とともに旅をするのですが…その少年が第一話にてなんと病死してしまい、その姿をコピーするんですね。
やがて、その少年がニナンナというどこかアジア圏めいた村へたどり着く。
そこで出会った夢見がちでおませな少女マーチは、少年をフシと名づけお母さんがわりに。しかし、彼女は村の守り神オニグマへの生贄として定められた運命。それを阻止したい姉御肌のパロナ、儀式の祭祀者側であるヤノメ人の女戦士ハヤセとの攻防。
そして祈祷師の老婆ピオランとの交流で知識を得たフシは徐々に人間らしく。
しかし、彼を見守る観察者、およびフシのコピー能力や記憶を奪う不気味な怪物に襲撃されて…。
タクナハ村では、兄に騙され、想い人のお嬢様リーンを助けたせいでひとの顔を失った少年グーグーとの交流。身分格差があるために、酒づくりの館に住み込みになったグーグーは自分の善行を忘れられている。しかも仮面をかぶっていて、醜い自分に絶望している。オペラ座の怪人ほどにはひねくれておらず、働き者で一途なだけに憐憫を誘うキャラ。最終的にはリーンと両想いになるのですが、そのラストが悲しいですね。
ジャナンダ島編は、島民全てが血で血を洗うバトルロワイヤル。
闘技場で生き残れば島長になり、囚われのピオランを救えるとあって、勝ち抜いていくフシ。当初は計算高くていけ好かなかった少女トナリとも打ち解けるも、なんと最終戦にはあのハヤセが、そして怪物ノッカーに襲撃されて──。いちばん凄惨な終局ですね。
フシが出会う少年少女たち、いずれも過酷な運命を背負っています。
物体をコピーできたり、いろんな動物に変身でき、食物も武器も自在に出せる。不死身だったりするフシは万能に思えて、肝心な時に大事なひとを救うことができない。そして、彼が誰かの姿を獲得するということは、その相手が自分にこころを残してこの世から消えたということ。
全20話、その最終話はなんと老婆ピオランの最期を看取る話。
まるでヤングケアラーのよう。他のキャラクターとは違い、認知症に見舞われながらも穏やかに息を引き取ることができた老婆は、少年に何を残したのでしょうか。
2022年秋に第二シーズンが放送予定だそうです。
第一話から気になって毎回欠かさず観ていましたが、原作は未読。いいお話だなと思うけども、これは映像で観たくはあるという理由で。
ひとが生きるとはどういうことなのか。生命の尊厳や愛おしさ、いろいろなものに思いきたす、哲学的な示唆に富んだ傑作です。死をいけないとか、殺してはいけないと語らせるのはたやすいけれど、そうじゃない重みがある。だからこそ原作漫画を先読みしておきたくない、という思いがあります。なんとなく。
著者は「鬼滅の刃」の原作者とほぼ同年代ですよね。
今30代前後のこの世代のひと、昔ながらのいい漫画をよく読んでいるのか、社会的テーマへの意識が高いのか、大人でも読める漫画や小説を描けるひとがちょくちょくいますよね。主人公がいかにも女子受けのいいイケメンなのに、あまり腐女子ウケしそうな展開がなくて、萌えとか媚びてる演出もなくて気持ちがいい。わりときちんと筋道たっているのが魅力的です。
OPの宇多田ヒカルが歌う「PINK BLOOD」もなかなか世界観とマッチングしていました。なにより驚いたのが、フシが獲得した人物たちは声優さんそのままで再登場してしまうんですよね。たった一言だけだったりもするのに、キャスティングが大変なのでは…。
「進撃の巨人」と並んで、今年はNHKアニメが大当たりでした。
いやはや、日本のアニメも捨てたもんじゃないですね。もう二度と新しい作品は観ることはないだろうと思っておりましたが、探せば名作はあるものです。新しい価値観で時代を切り開く作品は増えてほしいですね。