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陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

本が売れないのを図書館や読者のせいにする出版社

2017-11-13 | 読書論・出版・本と雑誌の感想
最近(2017年10月)、大手出版社のB社の社長が、図書館は文庫本を購入しないでほしい。文庫本ぐらい買うという習慣を身に着けてほしい、と訴えたと聞きました。これは一理ありますね。ハードカバー本よりも文庫の方が痛みやすいですから、買い替えする人も多いでしょうし。ただ、最初から文庫で出してくれたらいいのに、とは思います、やはり。

出版社は「単行本で出た赤字を文庫本で回収する」からとは言うけれど、そもそも文庫化される本はそこそこ売れた人気作家ですから、その作家の本は単行本だろうが、文庫だろうが、売れる実績があるわけです。ということは、売れない本を書く作家の出した赤字を、売れる作家が引き受けてしまっているということになりますよね。売れる、売れないは、サイズの問題ではなく、本の中身の問題では? 売れそうにない作家の本ならば、最初から文庫で廉価にして出せばいいのでは、と思いますが? 

たとえば、ニーチェとかブッダとかの古典でも、岩波文庫のような最初から文庫のレーベルにもあるけれど、それを他社が単行本として出したら(例:ディスカヴァー社の『超訳ニーチェの言葉』)、バカ売れしたことがありましたよね。あれは、おそらく、ビジネスマン層に受けたんです。訳すのに苦労はあっただろうけれど、原著作権が切れた古典をちょこっと編集して出したわけだから、小説家が同じ分量の新作を書くよりは安上がりの企画です。2000年代ごろに、塾講師で在野の研究者の方がヘーゲルの精神現象学を新訳出版し、大学の研究室で話題になりましたが、一般人にはハードル高すぎますよね…。私も哲学全集のパスカルとかカントとか持っていましたけれど、読み切れていません。やはり、文庫で持ち歩いて移動の隙間時間に読んでいった方がいいんです。

図書館で本を検索すると、同じタイトルの本なのに、複数のタイプがあります。
たとえば、池波正太郎の『剣客商売』や、岡本綺堂の『半七捕物帳』。新潮文庫版、単行本(初版に近いほどかなり古い)、そして分冊された大活字本。老眼になったお年寄り向けの本でした。しかし、スマホやPCでいくらでも文字を拡大して読めるので、いま、大活字本もほとんど借りられていないんです。子ども向けの大きな文字の絵本はまだ需要あるかもしれないですけれど、それも痛むのが早いので図書館ではあまり読まれないし、少子化ですから買わなくなってきているようですね。

スマホで本のサイズをいくらでも変更できる、この時代。単行本の出した赤字を文庫本で回収するから、図書館は文庫を購入しないで、という出版社の主張は合理性があるのでしょうか?

単行本だから売れない、赤字になるというのは、表紙デザインのセンスがないとか、中身がかったるいのに重量が重すぎていらつくとか、改行ばかりで下の空白が目立つとか、作家や編集者が見栄を張ってコスト掛け過ぎて作りこんでしまっているとか、何らかのストレスがある本になっているからではないでしょうか。

ある日の読売新聞の読者投稿欄には、こんな手厳しい意見も──文庫本ぐらいは買いたいにはおおむね同意。しかし、本の値段が昔からすれば高くなりすぎている。デフレで日用品は値段が下がり続けている。なのに、本だけはバブル時代よりも価格が高くなっているのはおかしい。 おっしゃるとおりです、本がかなりの高級品になっている。もし無駄な新人ばかりをばんばん作家デビューさせてはその投資が回収できず、それを中堅以上の作家に肩代わりさせているとしたら、出版業界の構造がそもそもおかしいですよね。出版社が卸売会社への納品するときの手数料稼ぎために、ぼんぼん後先考えずに発行しているという指摘もあります。

これでは、世の中に要らない本がどんどん増えますよね。読者だって、選択肢が多すぎてワケが分からない。
むしろ、士業の資格合格者を絞り込んでいるのと同じに、価格のダンピングが生じないように、ある一定数の優良作家だけを確保して彼らにいい本を書いてもらうように取材費とゆったりしたスケジュールを与えれば、慌てて本を出しまくって、本棚で選びようがない事態も防げますし。作家デビューしたけれど数年で使い棄てられて、その間のキャリアを失ってしまう人も防げるのではないでしょうか。

単行本が赤字になるのを嘆く前に、そもそも赤字を出さない様に、不採算の出やすい企画は控えるなど、経営体質を出版業界のトップも、現場の編集者さんがたも考え直すとよいのかもしれませんね。ここの財務諸表見たことないので、どうなってるのか知りませんが。

ちなみにこのB社社長の発言に対し、岩波文庫の経営者は、「本が売れないのは、図書館が文庫を購入するからだ」という説を裏付ける、確固たるデータがないことを批判しています。まったく、そのとおり。出版社は本が売れないのを、図書館や読者のせいにするのをやめてください。財務体質が悪化しているのを消費者のせいにするって、ものすごい殿様商売ですよね。こういう思考停止している出版社さんが出す本って、面白いのでしょうか? 最近は、文〇砲といって、ネット上で炎上を誘ったような、おとり記事をばら撒いている手法に走っているこの出版社、自費出版で被害が報告もされているこの出版社(私の知り合いの国語の先生も文句言ってました…)。はたして、そこの出版社の単行本が売れないのは、読者のせいなのでしょうか? 作家とも呼べないような自費出版レベル、ネット上の素人小説程度の出来ばえの新人作家の単行本が売れないのは、おたくさんの経営戦略が悪いせいで自業自得ではないか、と言いたくなります。車が売れないのを若者の消費傾向の衰退と嘆く風潮がありますが、製造現場での非正規労働者の酷使や、無資格検査問題を隠蔽していた大手自動車メーカーが、ユーザーや従業員に責任転嫁しているのはおかしい。

現在の経済は複雑ですから、赤字は売上さえあげたら解消できるものではないでしょう。経営者や幹部、編集者社員の給料減らすとか、原材料費下げるとか、無駄な販管費を削るとか、維持費の高い保有資産を手放すとか、できる努力をやれば、決算の数字は改善すると思いますが…。作家さんの原稿料を下げるのもアリですが、いまやキンドルで自分一人でも本を売り出せる時代ですし、逃げられるのが怖いのでしょうかね。失礼な言い方をしますが、所得が低いお子様や夢追いフリーターが好むような既存の漫画やアニメを模したような小説や純文学などではなくて、まともな社会人が読みたがる役に立つ本じゃないと、とてもじゃないけれど単行本の定価では売れないと思いますよ。マーケティングリサーチが間違っているように感じられます。


読書の秋だからといって、本が好きだと思うなよ(目次)
本が売れないという叫びがある。しかし、本は買いたくないという抵抗勢力もある。
読者と著者とは、いつも平行線です。悲しいですね。




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