2021年の神無月祭りまでカウントダウン一箇月。
神無月祭りとは──神無月の巫女ファンが毎年10月に行うキャラ生誕祭のようなもの。発起人は誰ということもなく、公式さんが後ろ盾しているわけでもなく。ゼロ年代のころ、当時ファンサイト運営者による自然発生的な推し活動からはじまったものでした。私もよく先輩二次絵師さんや先行ブロガーさんの応援記事を読んでいましたね。私が名乗るのもおこがましいですが、名称をお借りしています。
毎年、この時期に限らず、なんらかの更新はしていますけども。
今回はその先駆けとしまして、神無月の巫女のスピンオフ漫画『姫神の巫女』の販促キャンペーンです。本来、昨年十月の単行本第一巻時に出そうとした記事だったのですが、事情があって控えていました。
あくまで初見の方向けの、すでに言い尽くされたような触れ込みで語るCMです。
古参オタクによる、かなりの偏見・偏愛・偏執・偏向がありますので、ご容赦ください。
では、漫画版『姫神の巫女』、その魅力を語ります。
・原作者本人がコミカライズ
2020年に漫画化が発表され連載開始された漫画『姫神の巫女』。
漫画・原作としてクレジットされたのは、漫画『神無月の巫女』(全二巻)の介錯先生。拙ブログでも紹介しておりますが、姫子と千歌音+αのキャラを他作品でも流用することでも知られ、関連作に「京四郎と永遠の空」(全三巻、2007年アニメ化)「絶対少女聖域アムネシアン」(全四巻)があります。この漫画家さんの作品、2000年前後に毎年10年連続アニメ化されていた実績があり、代表作「円盤皇女ワるきゅーレ」は、現在小説家の月村了衛氏がシナリオを描いたことでも知られていますよね。わるQはアニメ神無月の巫女の監督・柳沢テツヤ氏、キャラデザの藤井まき氏も関わっています。
人気作終了から20年近く経って続編を発表することはままあるにせよ、関連作を新人やら同人作家やらに作画担当させることもあるので、漫画家ご本人作なのは地味に嬉しいですよね。
・キャラクター設定はリファインされている
2009年~2014年にウェブ連載された「姫神の巫女~千ノ華万華鏡」からキャラデザが少し変更されています。個人的には媛子のリボンとか制服はウェブノベル版のほうが好み。からだの痣がある位置は神無月の巫女みたく正対になっておらず、御霊鎮めの儀の結果を暗示しているのかも。しかし、あのカタチ、陰と陽…ですよね。巫女服は袴の長さとか沓(くつ)とかもう少し和風っぽいのがよかったのですが、白無垢衣裳の媛子が拝めたり、髪のアップやお着替えも多いので、今作なかなか楽しめます。
・原案ウェブノベルはアニメ脚本家が執筆
ウェブノベル版を書き下ろしたのは、アニメ神無月の巫女のシリーズ構成をつとめた脚本家の植竹須美男氏。漫画版の単行本では「原案:姫神の巫女~千ノ華万華鏡」とだけクレジットされ、アマゾンの紹介文でも名前がないのが残念。共同ペンネーム扱いなんですかね? 漫画家さんは単行本1巻の著者近況欄では監督ともどもお名前を出しているのですが、出版社に押し切られたのかな…。いくら無料で読めるものだからといいましても、執筆するのに時間かかったでしょうに。
植竹氏はアニメ神無月の巫女のブックレット解説文や番外編短編小説、アニメ京四郎と永遠の空のノベル版でもおなじみ。詩趣あふれる美文調が氏の持ち味ですが、姫子と千歌音の素朴な台詞回しのあたりがほんとうに上手い。下屋さんと川澄さんの声で再生される、あの可憐さと気品がありますよね。氏ならではの百合構文は漫画版でもちょくちょく引用されていますけど、使い方がおもしろいですね。
・巧妙に構成された連載の各話
漫画版『姫神の巫女』の第一話はウェブノベル版のスタート地点とは異なった時間軸から進められています。おおまかな流れはウェブノベルと同じなのですが。千華音の気持ちがすでに媛子に傾きかけている時点からという意味では、神無月の巫女らしさがあるとも言えますね。でも、御霊鎮めの儀は16歳の10月のはずで、15歳の誕生日のちに媛子が東京へ──ということは、このふたり、中学三年から東京にいるのでしょうか?
・漫画だからこそできる心情描写
ウェブノベル版の挿絵は、小説の中身と合っていないものもありましたよね。挿絵だけ先に決めておいたけれど、執筆者の植竹氏が微妙に加筆したと思われます。
で、今作のよいところは千華音の表情の変化が豊かに如実に表れているところ。神無月の巫女版のクールビューティ―千歌音ちゃんとの違いですね。御霊鎮めの儀までに媛子がときどき見せた大人びた顔は、それが彼女の本質だったのでしょうか。言葉で語れない部分も匂わせることができるのがいいですよね。言葉を裏切った顔をしてしまうといいますか。挿絵だと点としてしか見れず、そのつなぎの想像部分が、漫画家の表現によって埋められ描き起こされた箇所になる。それが、なかなかいい味を出しているのがよいですね。台詞も行間を読ませるような簡潔さがあり、これは小説版とはまた違った魅力です。
・刺激的なハイスピード展開
昨今人気の百合漫画は日常生活上の細やかな感情のうごめきをすくいあげるのに長けています。今の若い世代はLGBT意識が高く、リテラシーが優れている。その反面、どうしてもテンポの遅さが否めず、個人の内面の掘り下げばかりに注視しがち。思春期の女の子の空想世界は甘くて深くて広いとはいえども、物語のダイナミズムに欠け、よほど繊細な表現力や哲学的な示唆がないと退屈になりがち。この原作者先生の漫画はもともと情報を詰め込み過ぎる傾向があるので、一話でちゃぶ台返し、けれど目を皿のようにしてみたらとんでもない伏線が、ということもあります。
ただ、本作に関しては、もうすこしゆっくりな話運びでもよかったかなと思わないでもないですね。前半部の千華音ちゃんパートで漫画オリジナルエピソードがもうちょい欲しかった気も。
・ウェブノベル版との時代性の違い
作中で明言されてはいないにせよ、漫画「姫神の巫女」の世界は令和の時代。
東京スカイツリーが登場し、スマホで自撮りしてはライン交流をする、イマドキの女子高生。でも、ただならぬ女の子のお話。ウェブノベル版は2009年の平成時代なので、ケータイを操り、プリクラでツーショット。なお、神無月の巫女時代は原画集によれば、1990年代とされているので固定電話にフィルム現像のカメラ。姫子が写真を残すアイデアは神無月の巫女の原作漫画にはなかったので、アニメ側によるキャラ付けと思われます。アニメ神無月の巫女における演出を、原作者先生がその後の漫画に逆輸入していることが多いんですよね。ところで今作、スマホは登場するけれど、意外と私服があまり現代のJKっぽくない…?
・大神ソウマほか、あのサブキャラたちも豪華共演
神無月の巫女におけるソウマ少年の熱血漢ぶりや力強さは、往年の少年少女漫画に造詣が深いアニメ監督の柳沢氏の演出だと考えられます。原作漫画のソウマくんはちょっと幼くて優しすぎる感じがするので。
そのソウマを原形とする近江和双磨の暗躍も「姫神の巫女」の見どころのひとつ。しかし、ウェブノベル版よりもさらにいわくありげなアレンジが…(笑)。ほかにも見慣れたキャラが続々と顔出しするので、笑いがとまらない! 欲を言えば、もうちょっと本筋で活躍させてほしかったものですね。九頭蛇が女性どうしだったら、先輩後輩関係でアレやソレやの、百合好きさんが萌えそうなエピソードとかたんまり隠れてそうなんだけど、どうなんでしょうね。
・随所に散りばめられた神無月の巫女オマージュ
アニメ版のOPおよびEDのワンカットやアイテムなどを想起させるシーンがもりだくさん。このオマージュは、「京四郎と永遠の空」「絶対少女聖域アムネシアン」でも見られたので、予想の範囲内ではあったのですが。
ただし、作中では、神無月の巫女世界と直接につながりがあるとは設定されていません。2004年から16年後に連載開始、しかもアニメ神無月の巫女のCパートからの続きのような、都会の片隅から──なんてシチュエーションなので、すわ転生か、と見なさないでもなし(こじつけ)
単行本は2021年7月現在、第二巻までが発売中。
とくにおススメは御霊鎮めの儀本番のあたり。原案小説とは違った味わいがあります。おまけ漫画も。この二巻は緊張感がある表紙と、めくった中表紙のイラスト(電撃マオウ2021年3月号表紙)との二人の対比がいいですね。ありえたはずの、未来の冬景色。
命懸けの愛と死の運命に翻弄される少女たちの物語、そろそろクライマックスへ?!
ウェブノベルに則したらあと数話、第三巻で完結しそうなんですが。でも、ウェブノベルが原案扱いってことは、漫画版ではその後のオリジナル展開で続いていく、というサプライズがあったらいいな。真のラスボスが登場して九頭蛇さんたちと共闘するとか、時間がいきなり巻き戻るとか、片方だけ異世界へ飛ばされて探しに出かけるとか、御霊鎮めの儀を再演しなければならないとか、御神巫女が光の巨人になって大蛇神とラスボス決戦するとか(番組が違います)。もうちょい話をふくらませられそうなんだけど。ああ、このまま、終わるのがもったいない! 千華音ちゃんが東京で媛子を見つける前の数箇月間の出来事とか、いろいろ、掘り出したら楽しそうですよね~。
この漫画家さんの前作はウェブ連載だったけれども、わりと毎回インパクトのある刺激的なもので単行本も6巻続いたので、今回もそれぐらいは長く延ばしてほしいところですね。キャラを多く出してくるんだけど、使いつぶせないうちに終わってしまうことも多いですし。
もしくは神無月の巫女の番外編なり関連作の新作がはじまったりすると嬉しい──なんて、十月を前に浮かれ気分で書いてみました。いつものおねだりなファン目線で。
この機会に、神無月の巫女関連の他の漫画も電子書籍化されたり、「少女革命ウテナ」みたく新装版で復刊されたりすると嬉しいですね。
神無月の巫女の原作漫画、すこし傷んできているので替えが欲しいです…。原作者先生が過去に描かれたらしき漫画(前世編のツイッター漫画とか、同人誌の健全めな話とか)とかも収録されないのかな。
電子版が角川のコミックウォーカーで配信中ですけど、雑誌で読んだときと印象が変わるのですこし驚いています。紙だとペン先の描線の張りや掠れとか、肉筆ならではの良さが尚わかって絵が映えますよね、やっぱり。
*漫画「絶対少女聖域アムネシアン」&ウェブノベル「姫神の巫女」、そのほか関連作レヴュー一覧*
漫画「絶対少女聖域アムネシアン」および、ウェブノベル「姫神の巫女」、そのほかの漫画などに関する記事です。
★★神無月の巫女&京四郎と永遠の空レビュー記事一覧★★
「神無月の巫女」と「京四郎と永遠の空」に関するレビュー記事の入口です。媒体ごとにジャンル分けしています。妄言多し。