散歩と俳句。ときどき料理と映画。

フィリップ・K.ディックと映画 その2

P・K・ディックの作品が初めて映画化されたのは、1982年の『ブレードランナー』(原作「アンドロイドは電気羊の夢をみるか」)が最初なのだろうか。
この映画が公開されるすこし前に、雑誌のディック特集か作品集の解説で、短編「小人の王」(1953)がドイツで映画化されたという情報が出ていたが詳しいことはわからない。
現在この短編を、ウォルト・ディズニー・アニメーション・プロダクションが製作中との情報もあるが中断しているようだ。ワタシとしてはディズニーなんぞがアニメにしたらもうおしまいやな、という感じである。実写版でさえロクでもない映画が多い。
「小人の王」(「妖精の王」とも)は今ならハヤカワ文庫の『人間以前』(2014)で読めるが、翻訳は浅倉久志だからワタシが大昔に読んだ翻訳ではない。ワタシが読んだのは『顔のない博物館』(1983/北栄社)の仁賀克雄訳だ。これが最初の邦訳かどうかはわからない。というのもディックの短編は『SFマガジン』(早川書房)によく掲載されていたからである。

『顔のない博物館』(1983/北栄社)

『SFマガジン』は中学生のころから定期的に購読していた。小松左京の「果てしなき流れの果てに」が連載されていたころだから1965年あたりか。ワタシが14歳。そのころ光瀬龍の短編連作「宇宙年代記」シリーズの連載と、1967年からは長編「百億の昼と千億の夜」の連載も始まる。いや、その前の長編「たそがれに還る」も『SFマガジン』で読んだ記憶があるから、1963、4年ということになる。
小松や光瀬の作品と同時にディックの作品も読んでいたはずだ。35、6年前、古書店で大量の『SFマガジン』のバックナンバーが売りに出ていた。一冊一冊目次を調べて、ディックの作品が掲載されている号を何冊か買ったことがある。読んでみるとディックの作品だけでなく、どの作品も懐かしかった。
この原稿を書き出して、ディックの邦訳を調べて驚いた。ハヤカワ文庫から(たぶん) 2014年以降大量の翻訳が出版されている。確認できただけでも30冊ほどで、長編、短中編合わせてディック全集と言ってもいいくらいのラインナップである。10数年新刊の書店には行ってないから知らなかった。

もう読むことはないが、30冊近く刊行されるということは熱心な読者がいるのだろう

ディックの作品の翻訳が集中的に始まるのは、1978年のサンリオSF文庫の刊行による。まず第一弾として発行された6冊のうちの1冊がディックの『時は乱れて』だった。あとはアーシュラ・K・ル=グイン、ウィリアム・S・バロウズ、レイ・ブラッドベリなど。
サンリオSF文庫は1987年に廃刊となるまで、197冊が刊行された。そのうちディックの作品は21冊といちばん多く、文庫最後の刊行となったのはディックの『アルベマス』だった。

某古書店のHPにあったサンリオSF文庫から発行されたディックの作品。ここには20冊しかない。あと1冊はロジャー・ゼラズニイとの共著『怒りの神』

ワタシはこの21冊とハヤカワや創元の文庫、他の出版社から出たものを合わせて、たぶん当時手に入るものはすべて持っていたはずだ。さらに、まだ翻訳されていなかった原本も、読めもしないのに数冊洋書屋で買った。いまはもう手元には一冊もない。
ディックの映画化作品からずいぶん離れてしまった。たぶんこういう脱線は繰り返し起こるだろう。


次回は映画にもどる(たぶん)。

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