散歩と俳句。ときどき料理と映画。

石原吉郎その1

都営大江戸線・本郷三丁目駅の改札を入った正面の壁に、
戦後を代表する48人の詩人の作品が並んでいる。

都営大江戸線は2000年12月に全線が開業した。本郷三丁目駅は本郷仙人の棲家のすぐそばである。

選定委員は小林康夫(東京大学大学院総合文化研究科教授/選考取りまとめ)、野沢啓(詩人・評論家)、野村喜和夫(詩人)、新井豊美(詩人)、守中高明(詩人)、佐藤一郎(編集者)。
本郷が文学にゆかりのある地であることから、この半世紀の間に日本の詩人に詠まれた詩から48編の詩句を選出し、詩を一行で刻印。バイブレーション加工したアルミ帯板の上に刻印された詩と、鮮やかな色彩の帯板と交互に配したデザインである。

その中に石原吉郎の「位置」がある。
この詩は石原吉郎の第一詩集『サンチョ・パンサの帰郷』(1963年/思潮社)の
冒頭に置かれた詩である。

短い詩なので全文を引く。

しずかな肩には
声だけがならぶのでない
声よりも近く
敵がならぶのだ
勇敢な男たちが目指す位置は
その右でも おそらく
そのひだりでもない
無防備の空がついに撓み
正午の弓となる位置で
君は呼吸し
かつ挨拶せよ
君の位置からの それが
最もすぐれた姿勢である

この詩に出会ったのはいつだったか。
私がいちばん苦しい時期だったとしか言えないが、
ひとつの救いのようにこの詩を繰り返し読んだのだった。
しかし石原がこのあとも執拗に表現することになる
「敵」、「位置」、「姿勢」とはなにを指すのか。
当時ワタシは石原の詩を酩酊状態のように受け入れていたとしか言えない。
晩年のさらに簡潔な詩句についても同様である。
そのあたりのことはまたいずれ書くつもりだ。

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