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歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

「勢獅子」 きおいじし

2015年09月12日 | 歌舞伎
所作(しょさ、踊りね)です。
「獅子」と付きますが、「連獅子」や「鏡獅子」のように長い毛のりっぱなお獅子が出てくるやつではなく、
出るのはお祭りの獅子舞のお獅子です。
舞台は吉原のお花見のときのお祭の様子です。
獅子を見るというか、吉原のお祭りのにぎやかな様子を楽しむ踊りです。
設定として「鎌倉、大磯の廓」が舞台になることもありますが、
イメージは吉原ですので、吉原として見ていただいて問題ありません。

この踊りは「花見のイベント」でありながら「曾我祭(そがまつり)」も兼ねているという設定になっています。
「曾我もの」について簡単に説明すると、
鎌倉初期のとても有名な敵討ち事件の主人公が「曽我(そが)兄弟」です。
中世、江戸時代にかけてものすごく人気があった題材で、「曽我もの」と総称される大量の芸能作品が存在します。
お芝居の世界では毎年五月に曽我兄弟の魂を祀って「曾我祭」をしました。
というかんじです。
いちおう別項を立ててあります。=こちら=です。

「曾我祭(そがまつり)」は旧暦五月ですから今の暦だと6月ごろになり、花見シーズンとはずいぶんずれるのですが、
このお芝居では、遊郭のお花見の余興で「曾我祭」っぽいことをやっている、というかんじです。
お花見+お祭りでおおさわぎです。


まず、廓の若いものが数人やってきて、仲間がみんな遅いとかセリフを言い、
酒をふるまっている場所に行ってしまいます。威勢のいい雰囲気がおまつりの気分を盛り上げます。

鳶(とび)の親方ふたりと深川の芸者さんがやってきます。
芸者さんはお付きの女の子を連れています。

「鳶(とび)」というのは、今もある職業で、
今はその名の通り工事現場で高所作業での足場や鉄骨を組む専門職ですが、
当時は足場を組むための土掘りなどの土木作業全般もこなした職です。
火事のときはこの人たちが「火消し人足」として活躍しますので、
江戸では非常に「かっこいい職業」とされていました。
実際ガタイのいい、きっぷのいい性格のいい男が多かったのでモテました。
というわけで「とび職のお兄さん」と「芸者」は「江戸の華」的なかっこいい組み合わせです。

登場人物たちの扮装は、「手古舞(てこまい)」という江戸のお祭りに独特のものです。
スソをしぼった袴をつけた、男装のような服装です。
もともとは神社の巫女が舞う時の扮装なのですが、お祭りのときに芸者さんたちがこれを着るのが定番になりました。

この舞台では鳶頭(とびがしら)などの男性も「手古舞」の服装をしており、
逆に芸者さんは「手古舞」と言いつつスソをひきずった女性の着物を着ていて、

風俗というのはうつりかわるものだなと思います。

ここで4人が上述の「お花見の余興で季節はずれの曾我祭りごっこをしているのだ」という説明をし、
鳶のふたりが「曾我兄弟」、芸者さんとお付きの若い子が「曾我兄弟」の恋人の役をやろうという話をします。

このへんまではセリフでの説明で、
ここから踊りになります。
セリフ部分を含めてわりとアバウトな舞台で、
「曾我兄弟の討ち入り」を盛り込んだ唄(常磐津《ときわず》)に乗せて踊り、最後に獅子頭を持って踊る、
というへんさえ押さえてあれば、細かい部分はそのときどきの踊り手に合わせて変えていいらしいです。

まず芸者さんたちが色っぽく踊り、
次に鳶頭(とびがしら)のふたりが「曾我兄弟」の討ち入りの様子の文句で踊ります。
が、途中から討ち入りの騒ぎの描写が遊郭のお座敷での騒ぎの描写になってしまって
踊りも前半は勇壮だったのが後半は軽いかんじになります。
そこに芸者さんたちが絡んで楽しく踊ります。

このあとまた芸者さんたちの色っぽい踊りや鳶頭たちの楽しい踊りがあります。
このへんはその都度付け足したり消したりです。

最後に、お獅子の出る踊りの定番で、芸者さんたちが蝶の精になって踊り、
鳶頭(とびがしら)のふたりが獅子舞の獅子頭を持って、獅子になって踊ります。

おわりです。


吉原でのお花見が舞台になっている踊りですが、
この有名な「吉原の桜並木」についてちょっと書いておきます。
吉原の見事な桜はお芝居のセットにもよく出てきて有名ですが、
一般的に想像されるような桜並木が吉原にあったわけではありません。

毎年桜が咲いていたのは本当なのですが、あれは桜の季節だけ大量に運ばれてきてずらっと植えられ、
桜が終わるとまた植木屋さんが撤去したのです。

桜があった場所には初夏には掘が切られて水が流されて菖蒲が植えられ、夏の終わりには埋め戻されて今度は灯籠が並びました。
ものすごく大掛かりなディスプレイみたいなものです。
江戸初期から百数十年にわたって、毎年毎年花見の季節には吉原に桜が運び込まれて植えられたのです。

吉原の桜はただの植木ではなく。吉原の、というか江戸という町の
ありえない贅沢なお遊びのひとつなのだと思ってご覧になると
また感慨深いのではないかと思います。


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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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度々すみません。 (音羽屋)
2017-02-22 18:10:03
先程勢獅子、、、の解説をお願いした後に解説を見つけたのですが、五十音の中に無かったのでそちらに入れてくださると分かりやすいですっっ お願いします。
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