洋上風力発電と漁業 海外と日本の経験

Offshore wind farms and fisheries
”洋上風力発電と民主主義”

洋上風力発電と漁業 日本の経験#21 洋上風力発電の世界首位 デンマークのオーステッドに逆風

2023-04-21 16:59:32 | 日記

洋上風力発電の世界首位、デンマークのオーステッドに逆風が吹いている。洋上風力は持続可能なエネルギー源として需要や収益が拡大しているはずだが、株価はピークだった2021年1月の半値だ。同分野で先頭を走る企業に何が起きているのか。「巨人の誤算」は脱炭素へ向けて大規模投資に動く日本勢にとっても対岸の火事ではない。

「サプライチェーン(供給網)のボトルネックや物価上昇、新規計画の認可遅れなどの影響が出ている」。オーステッドのマッズ・ニッパー最高経営責任者(CEO)は2月の決算説明会でこう振り返った。

一見、業績に問題はない。22年12月期の売上高は21年比で7割増の1322億デンマーククローネ(約2兆6000億円)、EBITDA(利払い・税引き・償却前損益)は3割増の320億クローネと好調だ。ドイツのNPO法人によれば、洋上風力の発電容量は22年に前年比2割増え、23年は同3割増える見通しだ。

だが、直近の22年10〜12月期の状況は一変している。前年同期比で1割超の増収でもEBITDAは2割近く減った。特に主力事業として育ててきた洋上風力事業のEBITDAが20億クローネと6割減った。売上高EBITDA率は8%と20年以降では最も低い。23年12月期も全体で減益を見込む。

背景には2つの誤算がある。まずコスト負担の重さだ。大型化が進む洋上風力発電所は施工・運営の難易度が増し、ただでさえ適切な人やコストの維持が課題になっていた。そこに原材料高、金利上昇による景気減速が直撃した。

発電に不可欠な風力タービンを手掛けるスペインのシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジーと、デンマークのベスタスは22年に最終赤字だった。両社は販売価格を引き上げており、これを仕入れるオーステッドのような運営事業者には逆風だ。

 

売電価格も下落傾向にある。オーステッドのニッパー氏は価格が上がらなければ「再生可能エネルギーに必要な投資が減速する」と警戒するが、値上げは受け入れられにくい情勢だ。22年、同社が50%を出資する米ニューヨーク沖の大型風力発電所では25億クローネの減損を計上。英国や台湾でも計画が遅延し収益が悪化した。

話はオーステッド1社の不調にとどまらない。石炭や石油を祖業とする同社は世界に先駆けて再エネへの業態転換を進めた教科書的な存在でもある。その会社ですら脱炭素対応と利益成長の両立に苦しんでいるということの意味は小さくない。

特にエネルギー自給率が低い日本では無視できない。原子力発電の動向が今なお不透明な中、洋上風力を有力な発電手段とみて大規模投資が相次いでいるためだ。

すでにENEOSホールディングスが22年、約1900億円で再エネ専業のジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)を買収。東京電力ホールディングス中部電力が折半出資するJERAも今年3月、ベルギーの洋上風力発電大手の買収(2200億円規模)を発表した。だがオーステッドの例をみると成長のハードルは高い。市場でも「洋上風力発電所を作るだけでもうけるのは難しい」(大和証券の西川周作氏)との声がある。

世界的な脱炭素投資の風潮を踏まえれば、未来の地球や経済を支える再エネ企業は評価されるべきだが、オーステッドの株価は1年前比で2割以上も下落した。皮肉にも、化石燃料の雄、米エクソンモービルは同期間で3割上昇。日本のENEOSも5%高い。

背景には稼ぐ力の違いがある。オーステッドの22年12月期の純利益はドル換算で約22億ドル(約3000億円)だが、エクソンは557億ドル、英シェルは423億ドルと桁が違う。売上高純利益率も11%に対し、エクソンは14%だ。景気減速や利上げなどで余裕のなくなった投資家が再び、高いリターンの見込める化石燃料へ資金を移している。

再エネ需要は今後も伸びていくだろう。目先の利益の創出か、崇高な環境対応か。オーステッドの苦悩は、脱炭素社会へ進まざるを得ない企業やステークホルダーに改めて問いかけている。

 
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