いつまで経っても退院のめどが立たなかった母だが
「血液検査の結果が良かったから」
「もう今日にでも退院してもいいから」
と
退院許可が突然やってきた。
では今日退院します
と主治医に母が言うと
「さすがに今日は辞めようか」
と
さっき今日でもいいと言ったにもかかわらず
止められてしまった。
母は翌日退院し
翌々日
仕事に出かけた。
職場の人はたいそう歓迎してくれたらしく
「少しずつでいいからね」
と言ってくれたらしいが
机の上には
書類がどっさりと
山のように積み上げられていた。
体調が本調子ではない時期に
たまった仕事をこなさなければならないのは
母にとって厳しいことだったが
生きて働ける事の素晴らしさを
母は実感していた。
インターネットで母の病気の検索をすると
「予後が悪い」「死亡率が高い」
などの情報が出てくる。
母を大切にして
生活していかなければと
退院したときは思っていた私達だったが
母がいる日常が当たり前になると
手術する前の生活に戻ってしまい
母を怒らせることになる。
服を着ていれば
なんら普通の人と変わりない母だが
首から下に伸びた手術後の傷を見ると
身体障害者なんだな
と実感する。
母の隣で寝ると
カチカチカチと
機械音がする。
今はこの音が
子守唄がわりになっている。
生きて還って来てくれてありがとう。
私の母は
ちょっとしたサイボーグです。