2015年11月14日~15日、和歌山大学で林業経済学会秋季大会が開催されました。
林業経済に関わる報告・・・という、お金が絡みそうなお話が聞きたくて、2日間とも参加してきました。
ウバメガシ林の経済評価、家具の流通、市町村の林務行政、木材価格予測分析など面白い話はいくつもあったんですが、その中で、CLT製造原価のシミュレーションの試みという報告を聞いて、複雑な気持ちに・・・
新たな木材需要を生み出せるとして、期待・注目されているCLT。
(CLTをご存知ない方は、こちら→http://clta.jp/clt/)
昨年の今頃?に林野庁が、CLTの普及に関するロードマップを発表しました。
その中に、「CLTの生産体制を構築・・・CLTの製造価格が7~8万円/m3となり、RC造等と価格面で対抗可能」と書かれています。(左下の方です。)
で、今回お聞きした「CLT製造原価におけるシミュレーションの試み」のご報告は、製造単価7~8万円/m3をベースに行われた発表です。
ざっくり、内容をまとめますと、
設定には、変数値・固定値があるんですが、ここでは省略させていただき、「CLTの製造単価を7万円/m3にするには」という、単純な結果だけのお話にします。
シミュレーションの結果としては、販売単価の内訳として、KDラミナ単価が大きく占めるため、製造原価はKDラミナの単価が大きく響くということ。
コストに影響を与える変数値は、「KDラミナ単価」と「歩留り」で、それ以外は1%前後か、1%未満・・・。
今回行われたシミュレーションの試算結果は、生産量の増加、KDラミナ単価の引き下げ・歩留りの向上が重要で、低質ラミナの利用やラミナの安定供給が課題であるとご報告されました。
最終的にはCLT工法とRC等他工法の建築物としての生涯費用を比較していくとのことです。
(製造原価で対抗できても、全体工事費で対抗できなければ、本末転倒ですから。)
KDラミナの単価が34,000円/m3(別の試算でも38,000円/m3)。
ということは、山元に残る、山主さんに残るお金は、何円/m3なのか?
RC造と価格帯で対抗できれば、CLTによる木材の需要拡大は図れるとかもしれませんが、肝心の山元にお金が残らないのでは?
まぁ、試算しなくてもラミナ単価がキーポイントであることは、百も承知でしたが、改めて、数字で表されてみると、恐ろしい話だなと思いました。
加えて、低質ラミナにまで手を出せば、バイオマス発電用の材とも競争しそうです(というか、する。)
この報告を聞いて、改めて疑問に思ったんですが、
CLTを普及して、木材の新規需要を拡大したいだけなのか?
CLTを普及して、少しでも山元にお金が残るように(林業復興の一助に)したいのか?
少なくとも、ラミナ単価34,000円/m3と言われたら、目的は前者なのかなと思ってしまいます・・・。
CLTの素材を生み出すのは山元です。
その山元にお金が残るような仕組みにしないと・・・
RC造と対抗するために価格帯を下げようとするのであれば、やはり目的は前者・・・になるのかと。
34,000円/m3と言われれば、色々と不安に。
さらに、
山元にお金が残らないなら、素材(木)を出さない。
出さないとなると、木材が安定的に供給されない。
安定的に供給されないということは、素材が集まらないから、製造できない。
製造できないと、工場は困る。
工場を稼働させるために、なんとか素材を集めたい。でも、安い値段で・・・すると、山から木がでてこない。
山から木が出てこないなら、海を渡ってくる木を使おう。
海を渡る木は、ラミナの状態で品質が均一で大量に入ってくる。
工場で外材のCLTが作られる。
ということにもなりかねない・・・。
とまぁ、シミュレーション結果をお聞きして、色々と不安になった次第です。
ところで、以前から気にしていることがあります(というか、危惧していること。)。
近年、CLT、LVLと無垢以外の使われ方の普及が多いような気がします。
今の20代、そして次代を担う子供たちが、「木造建築物はCLT・集成材・LVLが当たり前」という認識になってしまわないか・・・ということです。
要は「木材を無垢で使う」という発想がなくなってしまうのではないか・・・ということです。
「無垢って何?」
「節?、無節?、上小節?」
「接着剤を使っていないの?この柱、大丈夫?」
って、言われないのか?
※今の20代に黒電話やピンクの公衆電話を使わせてみると、ダイヤルを回さずに、押すって言うじゃないですか。
以前に、長男と次男に同じことをさせてみたら、ダイヤルを回さずに押した!!
木材需要の底上げとして、CLTの普及もいいと思いますが、やはり、同時進行で無垢材の普及にも取り組まないと
良い木材で良いものを作る。
良い木材を使った後に残った原木や木材で、ラミナなどそこそこの物を。
最終的に残った質が低めの木材は、チップなどに。
良いものから順々に作って、余すところなく使うのが「カスケード利用」のハズ。
と、最後はシミュレーションとは、無関係な話になりましたが・・・。
あくまで、シミュレーションですが、ラミナ単価34,000円/㎥って、恐ろしい話です。