銀色のかけら

銀魂感想と徒然日記

紅桜篇映画化決定とWJ銀魂月間のお祝いに

2009-11-05 17:52:19 | ☆少しだけ…作風紹介

紅桜篇映画化決定のお祝いに書いたものです。てか、これ紅桜篇の感想文ですよね氷輪(ひょうりん)とは秋の月の呼び名のひとつです。この前の子銀と松陽先生の話とは違う月のイメージで書いてみました。月って、いろんな情景が浮かびますよね

『氷輪』


満ちるには二日ばかり足りぬ。

薄く張り始めた氷のように未完成な月が、濃灰の空に張り付いている。

危ういほど研ぎ澄まされた光。
じわりと溶け出でる柔らかな色。
秋の月は、不安定な夜色を創り出す。




月光をちらちらと落とす森は銀時の姿を斑に見せている。
乾いた音。
積もり始めた朽葉の道を、銀時は歩く。
夏の勢いを失った木々は、容易に風に貫かれ、葉を落とす。
軽い音と共に降り注ぐ朽葉に、銀時の姿は、なお曖昧になった。

都会には珍しく、人を遠避けるほど鬱蒼とした森。
月明かりがあるとはいえ、夜更けに足を踏み入れるのは、己が身を守る術を持つ者だけかもしれぬ。


山の神を祭る小さな社が目に入った。
戦で夜露を凌いだ蓬生(よもぎう)の社を思い出させる。
ひとり見張りに夜居すると浮かび来る、血に染まりこと切れる戦友たちの顔。
そのとき囚われた虚しさが息を吹き返し、胸に黒い靄が渦巻く。




昨晩。

旧友の夢を見た。

もう、友とは呼べぬ、その影。

代々藩の要職に就く厳格な家の嫡男でありながら、放れ牛と称されるほど気が強く奔放で、真っ直ぐな子だった。
頬杖をつき気だるげに師の話を聞く姿とは裏腹に、誰より師に傾倒していたことを、銀時や桂は承知していた。
喧嘩ばかりしながらも、師を想う心は確かに繋がっていた。

今。
その男は真っ直ぐな光で獣たちを導き、己は憎悪に呪縛されている。
大切なものを得ることを拒み、残り陽を護ることをも拒む。

今も。
師を慕う気持ちは、違(たが)ってはおらぬはずであるのに。
もう友ではないと言いながら、師を想うとき、その後ろに桂と共に在る顔。


――― 高杉・・・


名を口にするのが怖ろしい。
怒りに抑えられた憂いが、漏れ出でるようで。


友であるからこそ刃を交えねばならぬこともある ―――


そんな綺麗ごとで、どうして収まりきれようか。


だからこそ。

全力で。
そう、桂と共に叫んだ。

それは、揺らいではならぬ決め事となった。

たとえ、理不尽に師を失った憤りの凝った闇が、高杉と同じ闇の固く鋭利なかけらが、身体の内奥で転げ回り、ぢくぢくと臓物を刺すことがあろうとも。





風が抜ける。

夜色に白く浮かび上がる芒(すすき)は幾重にも交差し、風にうねる。
葉を鳴らし、消え入らんばかりに細いけもの道を抜けると、途端に視界が開けた。

風景をふわりと包む薄闇。
耳障りな静寂。
街を見下ろすこの千草の原は、銀時が縋る場所であり、嫌悪する場所でもある。

貪欲に天を目指すターミナルは煌々と光を放っている。
取り囲み、傅(かしず)くように立ち並ぶビル。

それでも。

その外に広がるのは肩を寄せ合う瓦屋根。
そこには確かに、昔から変わらぬ人の営みが在る。

地に張り付いた歓楽街の明かりもそこに在る。
かぶき町。
前を見て歩こうと思わせてくれた場所。
護るべき荷を、再び背負わされた居所。

今居る場所で、自分であればよいのだと思う。
何処に在っても、師の教えが自分の芯を支え、血肉となってくれる。


ただひとつ。

囚われ逃れられぬ恐れがある。


――― また、護れなかったとしたら・・・


闇が増幅し、今度こそ、人には戻れぬ夜叉と成る。

だから。


――― 高杉、俺がおまえを止めてみせる。


それは、己が腹に有る闇のかけらへの言葉なのかもしれぬ。







2009.11.05


銀さん誕生日と銀魂ジャンプアニメツアーDVD発売のお祝いに

2009-10-12 01:30:42 | ☆少しだけ…作風紹介

お祝いに書いたお話です。月見の記事も載せているように、日本人ですから昔から月は大好き紅桜篇あたりからだったか・・・銀さんには月のイメージがあります。日本で月と言えば神代の昔から男性ですしね。勝手ながら、私にとって、銀魂キャラで月のイメージは銀さんだけです

ブログには書き物を載せたことないんですが、短いし、気分で(笑)お目汚しですが(11月に紅桜篇映画化決定のお祝いに高杉を思い出す銀さんのお話『氷輪』もアップしました)



日が落ちた。

風景を蝕む闇に、昇り来た望月の光が混じり込む。
銀色の薄氷(うすらい)に包まれた夜気は浄化され、澄み渡る。




十にも満たぬ童である。
子どもらしい短い丈の着物は、座せば膝小僧さえ覗かせる。
濡れ縁に座り、投げ出した足を調子を取るように揺らしている。
秋風は草のさわめきと共に次々と駆け来ては足をなぶり、縁の下に潜り込む。
冷たくなる足先を擦り合わせ、豆粒のような童の指は、ほのかに赤らんでいた。

じっと月を見ている。
注ぐ月光は童の顔に残る夏の色を薄め、鼻を白めかせる。

「美しい月ですね、銀時」

月色をした柔らかなくせ毛を、大きく優しい手がひとつ撫ぜた。

振り返り見上げた先には、穏やかな笑みがあった。

「松陽先生」

先生と呼ばれた男は、長く垂らした白橡(しろつるばみ)の髪を揺らし銀時の隣に座した。

「俺には旨そうに見えるけどなぁ」
また月を見上げた銀時は、縁に突いた手に力を込め、いっそう足を揺らした。
師は、ひとつ笑う。
「名月を食べてしまっては皆が悲しみますよ。団子を食べなさい」

今日は中秋である。

許しを得た銀時は嬉々として供えられた団子に手を伸ばす。
小さな月を口に運びかけたところに、師が椀を差し出した。

「これが要るでしょう」

朱塗りの椀には、たっぷりと、小豆色に艶めく餡が盛られている。
銀時の顔がますます輝いた。
手にしていた団子を口に咥え、両手で椀を受け取る。
膝に載せた椀を左手でしっかりと押さえ、咥えていた団子で餡をすくうと、大きく開けた口に迎え入れた。

銀時は甘い幸せに足をばたつかせた。
「美味しいですか?」
銀時はこぼれ落ちるほどの笑みで大きく頷く。
師はいっそう優しく微笑んだ。




風が穏やかになれば、虫の声が際立つ。

「ずいぶん虫が鳴いていますね」
「んー」
頷く銀時は、口の中を満たした団子と餡を呑み下す。
「秋だもん」
秋には虫が鳴くものだ。
そう、銀時は思った。
「美しい声ですね」
遠くを見つめる師の言葉に、銀時も虫の音に耳を傾けてみる。

「松虫も鳴いていますよ」
「どれ?」
銀時には区別がつかぬ。

「銀の音がするでしょう?」

澄んだ夜気にひときわ冴える、銀色の音。

「松虫は銀色の声で鳴くんですよ」

「うん、銀色だ」

得心に銀時は目をくるめかせた。


「月も銀です」

師の横顔が薄闇の空を見上げた。
銀時もそれに倣う。

「金が太陽を表すように、銀は月を表すんですよ。月は太陽のように闇を打ち消すのではなく、闇を包み込み和らげる。冷めたように見えて、優しい光なんです」

銀時は、ちらと師の顔を見た。

――― 松陽先生みたいだ。

そう言いたかった。
だが、少し面映ゆい。
それに、師より流れ込むこの暖かさは、命を与えてくれる陽の光にも思えた。
言葉の代わりに、銀時は腰を浮かし座り直す。
師の袖に頬が触れるほど、傍に寄り添った。

「銀時、おまえも名に銀を持っていますね。素敵な名ですね」

思いがけない褒め言葉に、嬉しさと驚きで心がむずむずとこそばゆい。
慌てて団子に手を伸ばした。



「皆も家族でこの月を見ているでしょう」

師の言葉に学友の顔が浮かぶ。

「大切な人と一緒に美しいものを見られるのは幸せなことです」

ことりと、
銀時の胸に憂いが転がった。

「俺、家族いないし、月より団子の方がいいや、旨いもん」

言ってかじった団子は、先ほど食べたものとは別物のように味気なかった。


「今までは、ですね」


師は微笑みかける。


「人は、支えあって家族に成るのです。おまえにも、これから、いくらでも家族ができますよ」


食べさしの団子を持った銀時の手が止まった。
師を見るその瞳には、月の光が揺らいでいる。


「私も、おまえの家族ですよ」


師は積まれた団子をひとつ摘まむと銀時の膝に載った椀から餡をすくう。
「月もいいですが、団子もいいですね」
呆ける銀時を他所に、師は団子をほおばった。


「おまえと一緒に食べると美味しいよ」


銀時も団子を口に放り込む。

今度は、幸せな味がした。






銀時の閉じられた瞼よりこぼれ落ちた涙は髪に溶け入った。
その冷たさと窓より差し込む月明かりに銀時は目を覚ます。
ぼんやりと天井を見上げたまま、薄く息を吐く。
しばらくは、毫ほども動けずに過ごした。

優しく幸せな思い出だった。

切なく悲しみの募る夢だった。

銀時の瞳より再び涙がこぼれ、月色の髪に溶け入った。






2009.10.7