河内国喜志村覚え書き帖

大坂の東南、南河内は富田林市喜志村の歴史と文化の紹介です。
加えて、日々の思いをブログに移入しています。

俄――浜の人情兄弟

2022年12月17日 | 祭と河内にわか

 【登場人物】母・兄=直三・弟=兼松

 下手(右)から商人姿の兼松が登場。
兼松 久々に川面の浜に帰ってきたがな・・・、やっぱり故郷はええなあ。とはいえ、大阪に出て商売人になるんやと言うて、家飛び出してから十年。直三の兄貴も、オカンも怒ってるやろなあ・・・。
 上手(左)からオカンが登場。もうろくして気が付かない。
  せがれ直三の船大工の腕も上がり、剣先船の注文がようさんくるようになった。ああ、けっこなこっちゃ、けっこなこっちゃ。
 言いながら兼松の前を行き過ぎる(左へ)。
兼松 も、も、もし。
 母は振り向いて兼松を見るが気が付かない。
  はあー?
兼松 もしもし。
  ♪カメよ♪・・・あんた、カメさん!
兼松 ちゃうがな。わしや。
  ワシかいな。
兼松 ちゃうがな。オレオレ、オレや。
  (びっくりして)ワシやのうて詐欺(サギ)やがな! 
   (しゃがみこんで手を合わせ)なまんだぶ、なまんだぶ・・・。
兼松 ちゃうがな。オカン、わてやがな。
 言いながら膝まづき、オカンの顔をじっと見る。
  オカン・・・?
 言いながら、顔を兼松の顔に近づけてじっと見て、正面を向き、ニッコリ笑い。
  なーんや、直三かいな。
兼松 直三は兄貴の名前やがな。俺や、弟の兼松や!
  か、兼松・・・。
 と、もう一度顔を近づけ(5秒)、正面を向き、ニッコリ笑い。
  ああ、兼松や、兼松やがな。
 二人は歓喜で手を取り合う。久しぶり。達者あったか。どないしてたんや。などと言い合っている。

 そこへ上手から職人姿の兄の直三が登場。喜び合う二人を見て、怒りの表情でじっと立つ。
 母が直三に気付き、兼松やがなと無言で指で示すが、直三はますます怒りの表情。
直三 なにをさらしてけっかんねん!
兼松 あ、兄貴。
直三 兄貴? おまえみたいなやつに兄貴と呼ばれたないわい。十年前に、商売人になると、勝手に家を出くさりやがって、後に残ったわしらがどんなに苦労したか、知っとんのか?
兼松 商いのメドもどうにかたったんで、恥を忍んで帰って来た。兄貴、すまなんだ。
三 どうせ口から出まかせやろ。
兼松 出まかせやない。十年必死で働いて、旦那はんから暖簾分けの許しをもろうた。
直三 暖簾分けとは大きくでたやないかい。
兼松 これでわしも一家の主・・・と言いたいんやが、その資金に五十両ほど足らん・・・。なんとかしてもらえんやろか?
直三 ハアー。五十両。金を借りに来たんか? 
  (拝むように)直三、なんとか、なんとかならんか?
直三 あかん、あかん。こんなやくざな弟に貸す金はないわい。オカンもそう思わんか?
  (泣きながら) やくざな・・・子ほど可愛い。
直三 ハア、やくざな子ほど可愛い? そしたら、ずっと傍にいて親孝行してきたわしは可愛ないのか? アホらし、ほな、わしも親孝行はやめや。ああ、アホらし! とっとと帰れ、帰れ。
 そう言いながら上手に引っ込む。
  兼松・・・すまんな、すまんな、許してや・・・。
兼松 ああ、かまへん、かまへん。今晩は、昔なじみの家にでも泊めてもらうわ。
  そうか、すまんなあ。
 そう言いながら上手に引っ込む。
兼松 十年もほったらかしにしてたんや・・・。そら怒るわなあ。
 下手に引っ込もうとすると、上手から直三が登場。
直三 兼松! 今から帰るんかい。腹へるやろ。にぎりめしや。金はだんどりできんけど、これくらいは恵んだるわ。
 風呂敷包みを渡す。
兼松 兄貴!
直三 兄貴とぬかすな。むしずがはしる。とっとと帰れ。
 そう言って上手に引っ込む。
兼松 はー、やっぱしなあ・・・。さあ、せっかく故郷の川面の浜に帰って来たんや。幼なじみの留吉の家にでも泊めてもらうとするか。
 チョーンと拍子木が入り、下手に引っ込む。

 チョーンと拍子木が入り、下手から兼松が登場。
兼松 ああ、よう寝たわい。やっぱし幼なじみというのはええなあ。昔のまんまや。
 上手からオカンが慌てて登場。
  おお間におうたがな。どうせ朝一番の剣先船に乗せてもろて帰るやろうと思うて、慌ててやってきた。
兼松 オカン。
  腹へるやろ。船の上で食べてんか。弁当や。
松 弁当で思い出した。昨日、兄貴が握り飯やというて・・・。
 言いながらタモトから風呂敷包みを出し、ゆすぶると中から五十両と紙切れが落ちる。
   な、なんや、小判や。それも五十両。手紙が付いてる。「縁があったらまた逢おか。それまで達者に。浜の兄」。
   (泣き泣き)兄貴!
 上手から直三が風呂敷包みを持って登場。
直三 朝の早うに留吉が、兼松から預かった大阪土産やいうて持ってきてくれた風呂敷包み。中をあけたら三百両。添えられた手紙に「葛城屋幸兵衛こと浜の弟より」とある。
兼松 兄貴、だましてすまなんだ。暖簾分けも五十両もウソや。十年も家をほったらかしにしていたわしを、ほんまに許してくれるか試したんや。実は、葛城屋の親旦那はんに見染められ、一人娘の婿になり、今は二代目葛城屋幸兵衛。
直三 兼松!
兼松 兄貴!
 二人が手を取り合う。
 オカンが弁当を兼松に手渡す。
  この弁当が二人の気持ちや。
 兼松が弁当の蓋を開ける。
兼松 なんやこの弁当。白いまんまに梅干しが二つ。これが二人の気持ちとは、ハテ?
直三 ハーテ?
兼松 ハテ、分かった。ままよ十年漬け込んで。
直三 酸いも甘いもしみ込んだ、真っ赤に輝く、
二人 立派なホシになったわい。


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