e-Onkyoの売上げランキング上位に顔を出していて慌てて買ったもの。全集で2500円という廉価。みんな目ざとい(笑)。
バイエルン放送響に客演する主な指揮者によるアンソロジー形式で統一感はない。主席のヤンソンスについてはいずれ改めて単独の全集として纏められるだろう。ただ、この「全集」も値段と指揮者の顔ぶれを考えるととてもコスパは高い。
1,2番がマゼール、5,6番がハイティンク、9番がブロムシュテット、3,4,7,8番がヤンソンスという構成になっている。マゼールで予定されていた分をマゼールの急逝でハイティンクが受け継ぎ、目玉として人気のあるブロムシュテットを無理して押し込んだという感じか。
*後でBR-Klassiksの本家を調べたらマゼールはバイエルン放送交響楽団でブルックナー全集を完成しており、この演奏は同じもののようである。そうだとすると録音年代もそこそこ古く、ハイティンクがマゼールの急逝で代役に立てられたということはない。ハイティンクの演奏は最近のものだったはずである。マゼールのブルックナー全集、ハイティンクのPortrait(バイエルンとの最近のライヴ録音はほぼ全部入りのお買い得音源)もe-Onkyoで発売してほしいものだが、マゼールやハイティンクの日本での人気を考えたら難しいのだろう。
一番面白かったのはマゼール指揮の1,2番だろう。マゼールはブルックナーを敢えて普通の交響曲として指揮して成功を収めている。ブルックナー指揮者?それってクエンノカと言わんばかりのメリハリの効いた普通の指揮が痛快。1,3,4番についてはこういうアプローチもありではないだろうか。では2番が駄目なのかというとそんなことはなく、マゼール特有のとても透明感のある響きが特徴的。やっぱり指揮は上手かったのだなぁと痛感させられた。もちろん、この手のアプローチに否定的な意見もよく分かるが、こと1番についてはこれほど面白く聴けたことはこれまでなかった。
ハイティンクの録音は危なくレギュラープライスで買ってしまうところで助かった(笑)。もうすぐ引退が表明されたようだが、宮崎駿と同様にこの人も以前に引退騒ぎを引き起こしており、今回もすんなり引退するかどうかは疑わしい。ただ、齢90に到達しており、ブロムシュテットもスクロヴァチェフスキも90ぐらいで限界が来たことから今回は本当に引退になってしまう可能性も高そうだ。演奏は・・・普通でした。同じバイエルンのオケを指揮したミサ・ソレムニスのような高みには到達していない演奏。ブルックナー指揮者として知られているハイティンクにしてはイマイチの録音と言っていいだろう。いつものようにハト派であるが、良い時ならば感じ取れる柔らかな美しさ、ゆったりと盛り上がっていく高揚感もあまり感じ取れなかった。そもそも5番はハイティンクに向いている曲とは思えない。ウィーンPoとの旧録音でハイティンクにしては珍しく小細工を沢山施していたのは構築的で力強い5番に苦手意識があったからではないだろうか。
ブロムシュテットは91歳でさすがに引退が近いと想定され売り時と考えられたのか(笑)、ハイレゾでも沢山の録音が廉価で売りに出された。CDより安いものも多く、お買い得である。ただ、この9番の演奏の方はハイティンク同様平凡である。巨匠晩年の貴重な記録ではあるが、愛聴盤にはなりそうもない。元々ブロムシュテットの生真面目なアプローチは私にはあまり魅力的ではない。日本に縁があって実力派の巨匠であることは確かなのだが、好みでないのは仕方がない。
多くの曲を担当しているのは当然ながら主席のヤンソンス。ヤンソンスのブルックナーはRCOでの演奏をかなり集めており、極端なハト派のイメージだった。今回の演奏は4番が重心を低く取ったメリハリの効いた演奏でマゼールの1番同様の面白さ。マゼールと意見を統一したなどということはないのだろうが、ブルックナーにしては普通の交響曲である4番にはこういうアプローチもあり得ると思う。ただし、3,7,8番はいつものハト派ヤンソンス。丁寧な演奏には好感が持てる。
さて、録音の方だが、これが残念。BR-Klassiksは音が良いイメージなのだが、この全集に関する限り特別秀でてはいない。絶賛していないのはこの録音への不満が大きい。解像度低めでCDでも実現できそうなレベルの録音だ。
ブルックナー 交響曲全集 A-B