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【答案】重判平成22年1事件 パナソニックプラズマディスプレイ事件 最判平成21年12月18日

2012年05月02日 | 労働百選答案

 

重判平成22年1事件 パナソニックプラズマディスプレイ事件 最判平成21年12月18日

1 本件において、Xは、XY間に雇用契約関係が成立しており、Yによる就業拒否は解雇権の濫用であって無効であって、XY間の雇用契約関係はいまだ存続していることを主張し、雇用契約上の地位確認及び未払い賃金の支払を求めている。この請求の可否を検討する。
2(1) まず、XP間の雇用契約及びYP間の業務委託契約が無効であるとすれば、XY間の勤務の実体を基礎付ける法律関係は黙示の雇用契約の存在によるほかないことになるため、上記各契約の有効性につき検討する。
ア 請負契約においては,請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが,請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人にゆだねられている。よって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとえ請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。そして、上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。
イ 本件においてXは、平成16年1月20日から同17年7月20日までの間、Pと雇用契約を締結し、これを前提としてPから本件工場に派遣され、Yの従業員から具体的な指揮命令を受けて封着工程における作業に従事していたというのであるから、PによってXに派遣されていた派遣労働者の地位にあったということができ、これは労働者派遣法の規定に違反していたといわざるを得ない。
 しかしながら、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである。そして、XとPとの間の雇用契約を無効と解すべき特段の事情はうかがわれないから、上記の間、両者間の雇用契約は有効に存在していたものと解すべきである。
3(1)ア もっとも、XP間・YP間の各契約が有効であったとしても、勤務の実際の状況に鑑み、XY間に黙示の雇用契約が締結されていたと評価することができればXはYに対し直接の雇用関係に基づく主張が可能となる。そこで、XY間に黙示の雇用契約が成立していたといえるか、検討する。
イ 派遣労働者と派遣先企業との黙示の労働契約の成否に関しては、①外形上派遣先企業の正規の従業員とほとんど差異のない形で労務を提供することにより、派遣先企業との間に事実上の使用従属関係が存在し②受け入れ企業が労働者の採用を実質的に決定しており、③派遣元企業がそもそも企業として独自性を有しないとか、企業としての独立性を欠いていて派遣先企業の労務担当の代行機関と同一視しうるものである等、その存在が形式的名目的なものに過ぎず、かつ、④派遣先企業が派遣労働者の賃金額その他の労働条件を決定していると認めるべき事情のあるときには、派遣労働者と派遣先企業との間に黙示の労働契約が締結されたものと認められると解するのが相当である。
ウ これを本件についてみるに、まず①につき、本件工程はY社の正社員である班長と現場リーダーの指示の下行われ、Xは上記社員の直接の指示の下に作業を行い、P社の正社員は指示を行っていなかった。また、休日出勤はY社正社員の指示を受け、休憩時間についてもY社正社員の指示を受けていた。このことからすると、XY社間に事実上の使用従属関係が一定程度存在していたことは認められる。しかしながら、他方でPはXに本件工場のデバイス部門から他の部門に移るよう打診するなど、配置を含むXの具体的な就業態様を一定の限度で決定しうる地位にあったものと認められるのであって、使用従属関係が専らXY間にのみ存在しXP間にはなんらの使用従属関係も存在しなかったとまでいうことはできない。
 また②につき、Y社はPによるXの採用に関与していたという事情は存在しない。次に③につき、PはY社と資本関係のない独立した企業であり、その存在が名目的なものとはいえない。さらに④につき、Xが受ける給与の額はPが決定し、Y社がこれを事実上決定していたといえるような事情もうかがわれない。
 以上の事情を総合すると、平成17年7月20日までの間にYとXとの間において雇用契約関係が黙示的に成立していたものと評価することはできない。
3(1) 以上のように、XP間の雇用契約が終了した平成17年7月20日までの間にYX間には直接の雇用契約はなく、YX間の雇用契約は、本件契約書が取り交わされた同年8月19日以降に成立したものと認めるほかはない。そして、上記雇用契約の契約期間は原則として平成18年1月31日をもって満了するとの合意が成立していたものと認められる。このことを前提としても、期間の定めのある雇用契約の雇い止めが権利の濫用として無効とならないか。
(2) 期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、又は、労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には、雇用契約の雇止めにも解雇権濫用の法理(労契法16条)が類推され、雇い止めが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには権利の濫用として許されないと解するのが相当である。
(3) 本件においてはY社とXとの間の雇用契約は一度も更新されていない上、上記契約の更新を拒絶する旨のY社の意図はその締結前からX及び本件組合に対しても客観的に明らかにされていたということができる。そうすると,上記契約はあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとはいえないことはもとより、Xにおいてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合にも当たらないものというべきである。
 したがって、Y社による雇止めが許されないと解することはできず,Y社とXとの間の雇用契約は,平成18年1月31日をもって終了したものといわざるを得ない。
4 以上により、XとY社間には雇用関係は存在せず、Xの本件各請求は認められない。