松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

オールゼロのオールってなんだ?

2009-06-03 02:54:23 | Weblog
 今、食品添加物に関する原稿を書いている。「無添加がいい、とか言われているけれど、根拠がない。添加物は、気付きにくいさまざまな場面で使われているし、リスクを小さくする場合もあって、恩恵は大きい。思い込むのではなく、もっといろいろ知ってから添加物について語ろうね」という内容。

 そこで、最近非常に気になっているのがこれ。三ツ矢サイダー オールゼロ
 なにがオールやねん? 
 CMで、カロリーゼロ、糖質ゼロ、保存料ゼロと盛んにうたうが、カロリーと糖質については小さく、「栄養表示基準による」と書いてある。
 栄養表示基準では、カロリーは5キロカロリー未満/100mlなら、ゼロと表示していい。糖質は0.5%未満ならゼロとしていい。つまりは、厳密には「三ツ矢サイダー オールゼロ」のカロリー、糖質はゼロではないかもしれない、ってことですね。
 
 表示を見ると、原材料名として書いてあるのは食物繊維(ポリデキストロース)、果糖、香料、酸味料、甘味料(アセスルファムK、スクラロース)。添加物もいろいろと使われているけれど、こういうのはゼロでなくていいのかしらん?

 オールというから、てっきり全部ゼロかと思った。なんて、ウソです。全部ゼロなら、食品添加物である二酸化炭素も使っちゃだめ。炭酸水になりませんね。いや、水もゼロなら飲料になりません。
 これで、オールゼロと名付ける感覚が、私にはよく理解できない。

 しかも、広告が悪どい。特に、5月26日付の朝日新聞の広告特集にはびっくりした。社長と女性アナウンサーの対談という形式で、社長が「健康志向の高まりもあり、『サイダーを飲みたいけれど、カロリーが気になる』という声も寄せられていました。ならば、カロリーも、糖質も、保存料も、すべてゼロの三ツ矢サイダーをつくろうと。もちろん、着色料、カフェインもゼロです」と語る。これに対して、アナウンサーが「うれしいですね。子どもの口にいれるものは特に気をつけたいですから、私のような母親世代には保存料ゼロというのもうれしいです」と応えているのだ。

 保存料は、適正に使えば健康には影響しない。そのことは、食品安全委員会や厚労省やFDAやEFSAやいろいろな機関が、明確に示している。でも、商品開発の動機として「健康志向の高まりを受けて」とさりげなく説明し、アナウンサーの発言でしっかりとリンクさせている。「賢いお母さんは、保存料が入っているような飲料なんて子どもに飲ませちゃだめ」と読者に思わせる。「保存料=危険」という誤解を利用した高等テクニックだ。

 大企業も、こんなことをするんだなあ。
 どの企業も、商品を売りたいという気持ちと、科学的に妥当な説明をしなければ、という思いの間で、苦労しながらネーミングを考え宣伝している。この不景気にその苦しさはよく分かるので、私は個々の商品の売り方にはあんまり目くじらを立てることはない。だけど、オールゼロはあまりにもあからさまなので、さすがに驚いた。
 「非科学的だ」「消費者を騙すのか」という怒りは湧かない。そうではなく、「126年の歴史を持つ飲み物なのに、なんと品のないことを」と思う。嘆息する。