元そこそこの銀行で、そこそこのポジションにいたノグチ氏から召喚電話があった。「お、会長」 「やあ、会長」 {*1} お笑い孤独死友の会{*2}は実にちゃらんぽらんで全員が会長だ。
タバコには拒絶感があって酒、バクチに向かう根性がきわめて欠損、病院でチェックしたらガンの疑いがあるという。そいつはめでたい。{*3}前祝い金ものだ。
「どうもすい臓らしいんだ。おやじと兄貴がやられているから、残余金はないだろうね。おい、なに笑ってる、おかしいか?」
「うん。でもさ、検査結果を聞くとそいつはガンモドキてやつだろう。まだ赤字になってない。大体さ、ガンモドキはおでん屋のタネだろ。おでんのシーズンはちょっと早い」
「・・・」
「それにさ。ガンモドキだからってガン治療したら寿命がショートするてのが定説らしい。それでも死に急ぐんなら手術でもなんでもやるよろし」
「冷たいな。香典よこせ」 「知るか。他人の不幸はわが幸せ」
ゴキブリうろちょろの古アパートにひとり住まいのノグチ氏。今夏の行状を耳にしてあきれ返った。ガンモドキの告知?を受けて、毎日早朝からお昼までせこせこクルマを走らせていた小口運送の仕事をやめた。
「おれ、腹をくくったら腹がへらなくなってさ。人間食うのが一番面倒だろ。ちょうどいいってなもんでアパートにこもってさ」{*4}
深夜はメジャー・リーグ、朝起きて高校野球、その間にはスポーツ紙を精読。夜タイムはプロ野球。なべて小っこいTV観戦。 「どうだ。忙しい日々だろう。充実した人生」 「・・・確かに」
お楽しみが野球しかなかった敗戦後ボーイは、高校まで一応は勉強して大学に進学すると、なむと!野球部に入部する。たっぱ169、めかた54。{*5}
それでも東都1部リーグのガッコだ。当然、球ひろいに発声要員だ。根っからの野球好きだから4年間の奴隷青春。球歴としては卒業寸前のオープン戦の1打席。相手投手は巨人で活躍したミヤタ{*6} だったという。もちろん三振。
「なかなかの実績だろう」 ニヤリする顔面に欠けた歯が不気味だ。銀行員になってからも草野球のへなちょこ選手。ハタ・・・と気付いたときにはバクチによる借金の山脈で、日本橋の家を処分して清算した。ついでに妻子とも清算。帳尻を合わせた。バクチで溶けた主要な負債種目は外国勤務のときのバカラ。{*7}
「不思議なもんだ。いまだに野球漬けだ。寝っ転がって監督やってる。同輩の何人かが高校野球の監督をやってやがってさ。あのバカどもが勤まってるんだからおれだって・・・」
「やればぁ。高校野球なんて青臭いチームではなく、プロ野球の監督、やれば。なんだったら球団をひとつ買ってやろうか」
「大きく出たな。一丁頼むかな」{*8}
「いいよ。プロの球団はオモテ向きはド派手だけど、経営規模からいえば銀座の老舗とスクラッチだ」
「で、スポンサー様のあんたはなにやる?」
「ナベツネ2世。プロ野球を中華大鍋でぐっしゃぐっしゃにかき混ぜて・・・いや、やめた、やめ。なにもアクションしない。金は出しても口出さず。清く美しくタカラズカ」
「朝まで、いや、死ぬまでいってろ」 {*9}
ノグチ氏は強気だ。2020東京五輪決定のニュースに接して俄然攻勢に出た。{*10} 「6年後、この目でナマ・オリンピックを見てからってことにする。会長職はあと6年間留任する」 おいおい。そんな延長戦はありえねー。
「おいおい。名誉あるポストにしがみつくってか。老害のきわみだ」{*10}
ノグチ氏の優雅なる日常は<野球命>にあった。それも強欲こいてあと6年間だそうだ。あくまでも単なる努力目標であってほしいものだ.{*12}
{*1} <孤立した個人の内部に限りなく退行していく男」> 寺山修司
{*2} 嫁逃げられ歴3のジャズピアニストSがいい出しっ屁
{*3} 「世紀末は明るい未来なのだ、のう杉作」 {鞍馬天狗のおじさん}
{*4} ミニスーパーに50%OFFの弁当があれば買う
{*5} ひょろい
{*6} 八時半の男
{*7} ほかには麻雀、競馬、チンチロリン、石蹴り
{*8} 裏金主は兆単位汚職の殿堂、紫禁城
{*9} 有史以来最強の賛辞
{*10} 野球は本妻、五輪はごりんばばあ
{*11} ノグチ氏よ、朝の来ない夜はあるのだよ
{*12} お星さんにお願いして、3000年冥王星五輪まで延命説