ワカキコースケのブログ(仮)

読んでくださる方ありがとう

健さんの『あなたへ』はもう少し評判になってもよかったねーの巻

2013-05-25 17:17:41 | 日記


一週間のごぶさたでした。
まず、告知のほうから。





6月5、6日、アップリンクで行います。よろしくお願いします。
それともう一つ、ライター個人の告知があり。今日はそれにまつわる話を。

「月刊スカパー!」(ぴあ)2013年6月号で、降旗康男監督にインタビューをした。http://piabook.com/shop/g/g1549306/

日本映画専門チャンネルで6月に、『あなたへ』がテレビ初放送。それに合わせて高倉健主演・降旗康男監督のコンビ作を放送する「4週連続 高倉健スペシャル」が組まれるため、その紹介ページ用の取材だった。
http://www.nihon-eiga.com/osusume/takakura/


一般情報誌の仕事をする機会は、僕の場合、非常に珍しい。ほかの媒体から来たライターさんと複数で話を聞く合同取材、いわゆる「囲み」もこの年で初体験。段取りを見学させてもらうことも含めて、勉強になった。連休のため〆切が取材日の翌々日というタイトさも、いっそスッキリしていてよかった。

「『映画芸術』関係で映画評を私的に、迂回するように書くのは、引き出しのひとつ。TPO次第でどうとでも自分の気配は消せるし、文字数も寸分たがわず合わせられます。テレビで、いつもそういう仕事をしているんですから」
いくらこう言ってユーティリティーをPRしても紙媒体の人にはなかなか分かってもらえず、いいですよもう……と最近は期待もしていなかったので、今回は、色眼鏡抜きに発注をもらえたことが、うれしかった。
「ふつうのプロのライター」として番組紹介を一義にした記事、見てくれる人がいたら、それもうれしい。影をうまく活かした降旗監督の写真(山田和幸)が、ハア、あの場所、あの制限時間で……と、感心するカッコヨサです。


そういうわけで、当日はビジネスライクな表情に徹し、おくびにも出さなかったものの、実は〈降旗康男に最新作を中心に高倉健との長いかかわりを聞く〉機会が得られたことには、内心、かなり胸せまるものがあった。

なにしろ、「〈東映まんがまつり〉以外の日本映画」に目覚めた最初は、高倉健主演の『八甲田山』(監督は森谷司郎)。それからしばらくは、日本映画といえば、健さんを中心に寅さんと薬師丸とアニメがあるという認識だった。ひとりで映画館に行くのを覚えた年の、メルクマール的存在になったのが、高倉・降旗コンビのピークといっていい『駅 STATION』。それからは、実家にいた時も上京してからも、新作のたびにチェックすることがほぼ義務だった。コンビの前史にあたる東映時代の『新網走番外地』シリーズは、新宿のやくざ映画三本立ての名画座で長くバイトしていたので、あたりまえのように身近にあった。そういえば、トークを目当てに昔の文芸坐2へ行ったこともあり、おだやかな、大学の先生みたいな物腰と話しぶりを見て、評判通りだなーと感心したこともあった。
要は、そうとうにお世話になった監督さんなのである。
当日、一切はしゃがず、「握手してください」みたいな余計なことも言わず、粛々とお話を聞いて、淡々とバレることができて、(あー、なにかを卒業できた!)という感慨があった。


去年公開された『あなたへ』が話題の中心、なのも良かったと思う。多義的な解釈ができるよう意識的にストーリーに隙間が多くとられた質の映画なので、「答え合わせ」にばかり神経を使わずに済むからだ。
しかしそういう、余白を楽しめる、懐の深い映画であることが、あまり世の中に伝わらなかったんじゃないか、と今更のように思っている。
もちろん、健さんの6年振りの主演作として昨夏、しっかり評判にはなった。公開中に、「高倉健スペシャル」「高倉健インタビュースペシャル」の2回に分けて放送されたNHK『プロフッショナル 仕事の流儀』も、見たひとは多いだろう。
東宝配給で興収の結果は、23.9億円。2012年度の14位の成績をあげた(映連の発表)のだから、十分なヒット作だ。ただ、ターゲットの観客層に届いた以上の波及が弱かったというか。
『鉄道員(ぽっぽや)』以来続いていた、〈健さんありき〉であることのキュウクツさが、実は『あなたへ』ではヒュッとやわらいでいて、軽みのともなう面白みがあったことを、映画好きほど見逃してしまっているのでは、と感じるのだ。


ひとことでストーリーを要約すると、『あなたへ』は、堅物の刑務官が、先だった妻が遺した謎めいたメッセージに導かれながら一人旅に出て、佐藤浩市、ビートたけし、草剛らの抱える、さまざまな人生模様と出会う話。
健さんが主人公でありつつ、一種の狂言回しとなっている点が、快い意外性と工夫だと僕はとりわけ感じた。法の側を遵守して長年生きてきた男が、道を踏み外した者たちと関わりあい、情を通じ合うことで、こなれていく。裁かないことで、どこか楽になっていく。ワケありの再婚だった妻の真意をたどる旅(ミステリーの構造になっているのが巧い)の過程で、いつしか、自分もひとの人生をつなげるメッセンジャーになっていく。
つまり、「不器用ですから」なパブリック・イメージのセルフ・パロディという洒落っ気をそっと織り込みつつ、こういう風に老いの仕舞い支度に向かえたらステキだな、と思える役を健さんにあてがうことで、ずっと主役を張り続けてきた大スターのイメージを温かくほぐしている映画なのだ。
健さんの好きな俳優、ジャン・ギャバンでいうと、ジャン・ドラノワの『首輪のない犬』に近い。老境のギャバンが演じるのは児童保護施設を経営する神父役。適度にナマグサで、時には「最近の子どもはギャング映画ばかり見たがる……」とボヤいてみせるのが楽しい映画だった。

降旗康男といえば、深作欣二、中島貞夫らと比べると格段にアクの弱いところが東映ではむしろ異色で、フランス映画に憧れた世代らしいモダンさが好ましくありつつ(東大ではフランス文学専攻。そういえば『あなたへ』の作りは、ジュリアン・デュヴィヴィエの『舞踏会の手帖』と似ている)、前にドンと出てくるタイプの映画監督ではなかった。
ところがこの、昔からのサラッとした淡白さと落ち着きが、力まず、辛気くさくなく老いを描くのにはピターッとハマッているのだ。降旗康男の目立たない上手さというものの魅力を、僕自身が『あなたへ』を見てかなり再認識した。

同時に、ベースにある柔らかさは、実は監督デビュー作『非行少女ヨーコ』から一貫していると気づく。
『非行少女ヨーコ』は、経済成長のレールに乗りそこなった上京の若者(緑魔子と谷隼人)が、外国へ旅立つことに再起を賭ける映画だった。
『あなたへ』とは、エネルギーが逆だけれど、旅というモチーフを通じて描きたい人間への目線は通じている。

その作風、信念について降旗が(おそらく)珍しく時間をかけて語っているインタビューは、「キネマ旬報」2012年9月上旬号で読める。聞き手=金澤誠・前野裕一/文=前野裕一。
僕が今回の仕事で、いちばんの参考にさせてもらった、すごくいい記事だ。


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