大航海時代初心者日記。→大航海星空日記。

マリィナ=ファリエル@NOTOS のんびりだらだら――のんだら系。

オスマンを防いだ盾~たて座を中心に(MDSS25)

2009-06-02 21:32:57 | 星のこと・MDSS
Ciao,マリィナです。DOLの全天走査計画MDSS(マリィナ・デジタル・スカイ・サーベイ)。今回の主役は歴史的事実から設定された星座である、たて座を中心にお伝えします。夏の大三角形を作るわし座に隣接した小さな星座ですけれど、設定者ヘヴェリウスと彼の祖国ポーランドにゆかりの深い人物が縁となっている星座ですので、世界史に興味のある方はご存じかもしれませんね。
 今回の星空は他にも情報が盛りだくさんですので、文章量が多くなってしまっています。ご了承下さいませ。では早速今週のスクリーンショットから参りましょう。マラガからアルジェのバレアレス諸島沖で撮影したものです。



◎東の空、大三角

◆はくちょう座(Cygnus)
 この北十字は画面端で引き延ばされて、羽のバランスが非常に悪いですけれど…。
 昇り始めた星空に、十字の形が見えるのはなかなか壮観です。

Deneb
 星の色と明るさ、大きさは密接な関係があると言われていて、このデネブは「白色超巨星」です。青とか白は輝き始めた若い星などに多いのですけれど、こうした色の星の中には、爆発的にエネルギーを放出して一気に燃焼し尽くし、数百万年という星の寿命の中ではごく若いまま超新星爆発を起こす星があります。
 デネブもおそらく同じくらいの短い時間で爆発するとみられています。1,500光年以上の遠くにありながら、デネブは1.2等星です。Wikipediaによれば、シリウスの位置にデネブが来ると、なんと満月より明るいのだそうです。

Albireo
 アルビレオは双眼鏡でみると金色の星、青い星の二重星となっているのが見えます。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』ではトパーズとサファイヤにたとえられました。
 同じ方向に見えているだけの見かけ上の二重星と思われていましたけれど、実は引き合っている連星ということがつい最近解りました。10万年周期でお互いぐるぐる回っているそうです。
 銀河鉄道の夜ではくるくると回る信号灯になっていましたけれど…10万年とわ。

◆こと座(Lyra)
 菱形の星の並びがわかりやすい、小さな星座です。トカイの空でも見やすい星座ですね。今頃の時期ですと24時前の空が、ちょうどこのような見え方になります。

Vega
 1等星より明るい0等星の星です。白い輝きは夏のシリウスと言った趣があります。
 歳差のお話(MDSS研究編4-2)で、12,000年後にはベガが北極星になると言うお話をしましたとおり、将来北極星として輝くことになるでしょう。

◆こぎつね座(Vulpecula)
 ぱっとみて分からない星座ではありますけれど、重要な話題がある星座です。
 世界で初めて『規則的な信号(パルス)を放つ星』つまりパルサーがこの星座の中で発見されました。
 また『アレイ星雲(亜鈴状星雲)』と呼ばれる天体があり、これは鉄アレイによく似た形と色を持っています。双眼鏡でもみられる有名な星雲です。

◆や座(Sagitta)
 なんとここにはおうし座のアルデバランの回りに散らばる『ヒヤデス星団』に属する星があります。
 おうし座は冬の星座なのに、どうしてこんな所にその星があるのでしょう?

 恒星はその場所にとどまって動かないから「恒(つね)」という漢字が当てられていますけれど、実際はこの広大な宇宙空間を移動しています。渦巻き状になった銀河を思い起こせば解るとおり、ある方向に星は動いているのです。

 何万年も経ちますと今見えている星座もその形は崩れ、例えば北斗七星などはひしゃくが反対側にできるようなかんじになると言われています。
 このような星々の運動を一つ一つ追っていくと、その移動速度や星の成分、それに星の年齢などが同じ、つまり同じ所から発生した星であることが突き止められます。特にその運動を巻き戻していくとある収束点が導かれたりします。
 そうした一つの星の流れを『星流』と呼んでいて、ヒアデス星団に属するこの星流を『おうし座星流』といいます。

 そうした流れの中にあるために、夏の星座の中にも星が輝くというわけです。

◆ヘルクレス座(Hercules)
 ヘルクレス座の手先の部分だけが見えています。ここは星座絵ですとヘラクレスの手に握られた枝と三つ首の蛇が描かれています。

Cerberus
 元々このヘルクレス座に描かれた枝と蛇の絵はヘヴェリウスが設定した、こと座とヘルクレス座のあいだにあった星座『ケルベルス座』だったのですけれど、88星座に定められた星座からは外れました。
 MDSS24でご紹介したまんが『聖闘士星矢』には『地獄の番犬星座のダンテ』というキャラクターが出てきますけれど、これがこのケルベルス座です。

◆わし座(Aquila)
 星座絵には鷲に連れ去られる少年の姿が描かれたりしますけれど、これはみずがめ座で瓶を持つ美少年ガニュメデスといわれています。
 ゼウスが宴の給仕をさせようと鷲をつかわして、ガニュメデスをさらうというのを描いているとのことです。

 ローマ神話のゼウスはユピテル(ジュピター)です。つまり木星の周囲を回る衛星を給仕係にみたてたのが四大衛星のガニメデです。

Altair
 アルタイルは飛ぶ鷲を意味する言葉です。…が、星の固有名は、訳すとなんだかものすごく複雑なのに、ぱっと1単語になっているのがヘンですよね?
 アルタイルが飛ぶ鷲とか、ヴェガは「落ちつつあるハゲワシ」とか。落ちつつあるとか意味がわかんないですw
 これは当然のことながら文章を縮めて一言にしているためにこのようになります。

◇夏の大三角形(Summer Triangle)
 どなたもご存じの夏の大三角形です。南に行くに従ってわし座の角の部分が上がって三角形が見えるようになります。
 夏の大三角形という名前でこの三つの星を星群と呼ぶようになったのは最近のことで、1930年代ころから言われるようになったようです。もちろんその三角形は原型として19世紀後期の星図に表れてはいますけれど、でもそれより昔には三角形として結びつけてみられる事はありませんでした。
 夜の街灯などの明るさが多少なりとも影響しているのかな、と言う気もしますけれど…。

◆へびつかい座(Ophiuchus)
 ティコ・ブラーエがカシオペア座に発見した新星(ティコの新星)の観測から32年後、弟子のケプラーはへびつかい座に新星(ケプラーの新星)を発見しました。

 キリスト教は天動説を支持しています。つまり神が作った天は完全であり、不変であるから新しくなにかが生まれることはないというわけです。
 ところが二度にわたってこのような現象が起こり、新しい星(NOVA)が生まれました。これはガリレオのような地動説を唱える学者が天動説の学派に反論するきっかけとなりました。

◆へび座(尾部)(Serpens Cauda)
 尾部は一部が天の川に浸るかんじで伸びていますが、わし星雲(M16)という星雲があります。この星雲は光っている部分よりも暗黒星雲の部分のほうが有名で、星が作られている過程にあると言われています。
 ところが超新星爆発も相次いで起こっている場所でもあるらしく、最近の研究によると、現在は暗黒星雲の部分が見えていても、今この瞬間には既に存在していないかも知れないと言うのです。

 その結果がもし見られるならば、それはいまから1,000年は後のことだろうと言うことです。

◆たて座(Scutum)
 イギリス王室御用達の服飾品ブランドに『アクアスキュータム』と言うのがありますけれど、『スキュータム』がこれです。Aqua(水)+Scutum(盾)で防水。防水ができる服(レインコート)をさしています。

 88星座はその多くが神話に関連するか、それと違う完全オリジナル(南天の星座など)の星座ですが、ヘヴェリウスによるこのたて座はかみのけ座とならんで史実が反映されている星座です。

 88星座が決定される前までは、天文学者や星図・天球儀の作成者達が自らの著作や制作物にそれぞれ星座を設定しており、王様に献呈するなど何かを記念する星座というのがかなり作られたようです。
 1690年に発行の、彼の表した星図に設定があるこの星座は、88星座に残って今も語り継がれています。

歴史の話
 ポーランド王ヤン三世の盾といわれていますが…ポーランド王ヤン三世。てだれ?

 ヘヴェリウスはポーランドの生まれです(1611年-1687年)。ヤン三世は1629-1696年(在位1676年-1696年)ですから、ちょうどヤン三世の治世にヘヴェリウスは生きていました。ダンツィヒ出身であることはろくぶんぎ座の解説(MDSS23)で書きました。

 年代をみておわかりの通り、日本では江戸時代が始まっています。ヘヴェリウスのなくなった翌年1688年から、元号『元禄』になっており、いわゆる元禄文化というのが発展していきます。

 さてさて。
 ポーランドは私からみると東欧諸国の一つでどんより雲が垂れ込めた寒い国(言っていいことと悪いことがw)っていう…

 そんなかんじのーくにー(フィンランドはどこですか?風)

 それ以外よく知らない国です。

 もちろん、コペルニクスがこの国の人ってことは知っています。ショパンとかキュリー夫人(マリア・スクォドフスカ)とか。
 人を知ってても国の歴史はよく知りません。

 なにしろ東西冷戦の記憶が濃すぎてなんだかよくわからないんですよねー…。

17世紀初頭のヨーロッパ諸国
 いまでこそ東欧の一国家という位置づけのような印象のある国ですけれど、17世紀のポーランドは、なんとヨーロッパ最大の国家でした。匹敵するのはイベリア半島を牛耳っていたイスパニアくらいのものだったらしいです。
 17世紀初頭はロシアが大動乱と呼ばれる内乱状態で、スウェーデンやポーランドが介入ししのぎを削っていました。ロシアは結局これらを撃退してかの有名な『ロマノフ王朝』を開きます(オペラで言えば『ボリス・ゴドゥノフ』がこの大動乱に関連します)。
 このロシア大動乱(スムータ)は大変ドラマチックですから、よくご存じの方もいらっしゃるかと思います。

 また、この頃はネーデルラントがイスパニアから独立(オペラ『ドン・カルロ』)、オランダ東インド会社を設立してポルトガルから香料貿易を奪い取る時期にもあたっています。

 ヴェネツィア共和国は1571年にオスマン帝国と対決、レパントの海戦が行われて勝ちます(『ドン・キホーテ』の作者セルバンテスが従軍)が、結局講和条約においてはファマガスタの街を含むキプロス島はオスマン帝国に割譲されます。東地中海のヴェネツィアの覇権がどんどん削れ、その歯止めがかからない状態にきているといえます。
 もう少しお話しますと、DOLでヴェネツィアの領土になっているトリエステ、ザダール、ラグーザは、実は領土といえたものではなく、常に反発がありました。つまりこれらの街にはヴェネツィアに敵対する勢力の後ろ盾が潜んでいたわけですね。
 ラグーザは1個の国『ラグーザ共和国』として存在しており、ヴェネツィアの交易とは海賊や関税のふっかけなどいろんな手段で対立していました。
 また、ハプスブルグ家を後ろ盾として持つトリエステや、その資本が入り込んで十分武装化したウスコク海賊らが常にヴェネツィアの近海で交易の妨害を行っています。

 大航海時代という大洋を渡る造船・航海技術が発展した時代とはいっても、交易の主力はあくまで近海・沿岸交易です。大きな船よりも小さな船での交易が主体でしたので、DOLのアドリア湾にいるウスコク海賊などが操る小さな船が、やはり小さな船で積み荷を運ぶ交易船を襲っていて、ヴェネツィアの政治的課題になっていました。

…と、ヴェネツィアはこのくらいにしましてー。

 とにかく、オスマン帝国の強大化は1453年のコンスタンティノープルの陥落以降ゆるぎなくどんどん進んでいますから、キリスト教国のヨーロッパ諸国はオスマン帝国をとにかく最大の脅威ととらえていました。

17世紀のポーランド
 17世紀初めこそヨーロッパ最強国家として版図を広げていったポーランドですけれど、スウェーデン王国との抗争が絶えず、17世紀中期になると「大洪水」と呼ばれるスウェーデン王国との本格的な戦争に陥り、あっという間に国力を疲弊させ影響力を失っていきます。

 ここでちょっと日本の戦国時代などを思い起こしてみて欲しいのですけれど…。
 一つの国家が別の国家を滅ぼして自分の国に組み込むことは普通に行われますよね。戦国時代のある武将に焦点を当てた大河ドラマなどでは、国同士の合戦が行われたりして戦い、版図を広げようとします。
 ところが「ある国家AとBが、その政府をそのまま残して、君主だけが両方の国に共通している」なんて状況があります。
 にわかには理解しにくい状況ですけれど、こういう事はヨーロッパでは良くあることだったりします。「同君連合」と言うのがそれです。

 ポーランドはまさしくその「同君連合」がしかれていた時期があり、スウェーデン王国とポーランドが同じ君主をいただいていました。
 その君主の王位継承問題のこじれから二つの国家の抗争がはじまり、前述したロシア大動乱でははっきりと敵対しました。

ヤン三世
 ヤン三世(在位1676年-1696年)が治めはじめたころのポーランドは、以上のように国力がどんどん落ちていく過程にありました。従って、「大洪水」で疲弊しきった国家の立て直しがこの王に課せられた使命でした。
 いったん没落し始めた国家が復活することはほぼありませんけれど、復活に近い華々しさが一時期花開くことはあります。ヤン三世は軍事的才能に秀でていた王様でしたので、内政に治世を費やすと同時に反乱や他国の侵略を巧みに防ぎ英雄とたたえられ、ポーランドはまさに最後の輝きを見せるのです。

 盾という防御するための道具がヤン三世の盾といわれるのは、オスマン帝国によるレパントの海戦以来の大規模なヨーロッパ侵攻を撃退したことから来ているのでしょう。
 ポーランドは黒海方面に展開するオスマンとは領土問題などで敵対しており、対岸の火事とはいえないこの「ウィーン包囲戦」の戦いに身を投じます。

 諸国どうしの対立を遙かに超える「純粋な脅威」としてのオスマン帝国を撃退したことはヤン三世を英雄とたたえるのにためらいなどありません。ポーランド国家の誇りを見せた、ヨーロッパ中にとどろくヤン三世の勇名はヘヴェリウスをして星座になさしめるのに十分だったと思います。

 黒海北岸にあたる東欧の国々の歴史はなかなかイメージがわきにくいかなぁって思いますけれど、俯瞰できる簡単な資料でもあれば良いかなーとか、思ったりします。
 たしかフリーウェアでヨーロッパの版図の移り変わりを年単位で表示できるのがあったような…。

◆いて座(Sagittarius)人馬宮
 案外大きめの星座です。脚に当たる部分が山の向こうに隠れています。さそりを射るように弓で狙っている姿が星座絵に当てられます。

Nanto RokSei
 南斗六星は死を司る北の北斗七星に対して、生を司る星の並び(星群)です。いて座の星の結び方はティーポットというのがあって、南斗六星はミルクディッパー(ミルクのさじ)と呼ばれたりします。

◇Milky Way
 真横に走っています。これは銀河を平らにみていることになります。
 そして、その水平にみた銀河の中心は、いて座の方向にあって、赤い十字で表した『Sagittarius A*』の辺りが中心になります。
 銀河中心がこのみている方向にあるのですから、もっとも銀河の濃い部分に当たっています。以前、MDSS4にてこれは画像付きで簡単に解説しました。

 それに対して黄道はかなり傾いており、約60度の角度となっているとのことです。

 つまりそれは銀河を水平にみた場合、太陽系は60度ほど傾いて存在していると言う意味になります。


◎銀河に対して約60度傾いている

◇Ecliptic
 天蠍宮、人馬宮です。天蠍宮の前が天秤宮、人馬宮の後が磨羯宮です。

◇Sagittarius A*
※Sagittarius A*の場所は、赤経赤緯の情報から、あくまでこの辺りというみつもりに基づいています。
 いて座の方向は銀河の中心に向いていることはこのブログで何度かご説明しています。銀河中心からは非常に強力な電波が観測されていて、天文学ではその電波源をいて座A*(いて座Aスター)とよんでいます。

 この電波源は太陽を公転する地球の軌道くらいの大きさという観測がなされています。電波の強さに比較するとあまりに範囲が狭く、それはとてつもなく大きな質量が集まっていて、銀河の中心に超巨大ブラックホールがあると言われるゆえんとなっています。ブラックホール自体の大きさは水星軌道と同じくらいと計算されています。
 そのくらいの大きさに、太陽質量の400万倍の質量が存在するとのことです。想像もつきませんねー…。東京ドーム1,000個分! とかいうじゃないですか。ドーム一度しか行ったことないし、いったからといって解るわけもなし…。

 ちなみに、ブラックホールそのものは全く見えません。光や電波などの電磁波はブラックホールの重力に引かれて外に出ないからですね。

 ですからその回りの状況を詳細に調べることでブラックホールの存在を証明するやり方をとります。例えば電波ですが、これはブラックホールに落ち込もうとして周囲にたまっている分厚いチリの層が大きく加熱されていて、その結果つよいX線が発振されているのです。

 望遠鏡に入ってくる光(可視光)では銀河中心はみられませんので、その観測には赤外線やX線などの電波を使用します。なので目でみたような色とか解りませんけれど、26,000後年の彼方にある何か巨大な力を観測するというのは、ちょっと背筋がぞくっとする怖さがありますね。

◆さそり座(Scorpius)天蠍宮
 ちょうどしっぽの毒針部分だけ見えています。物騒ですねー…

◆おわりに
 いかがでしたか? 歴史上の人物のなかでも時の権力者に献呈された星座は残らず、ヨーロッパの誇りとして英雄をたたえた星座が残ったというのは、たとえ天文学の主流がヨーロッパにあったとしても納得いくことだったのではないか、と思いました。ヘヴェリウスがポーランドの人ですからそれも有利に働いたのは確実でしょうけれど。
 今回は他にも銀河についていろいろと興味深いお話を書くことが出来ましたが、これらについては研究編で取り上げ、もう少し掘り下げて解説できたらなーなんて思っています。
 来週はいよいよ88星座で唯一ご紹介していない星座『レチクル座』を取り上げようと思います。お楽しみにー。

 でわ~☆


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