雑談の達人

初対面の人と下らないことで適当に話を合わせるという軽薄な技術―これがコミュニケーション能力とよばれるものらしい―を求めて

恵まれた者の転落を心待ちにする社会

2009年08月30日 | 政治の雑談
選挙である。どうやら、民主党が優勢らしい。前回の総選挙の時とは逆に、無名の民主党候補が続々当選し、自民党の大物議員が次々落選するのだろう。

で、民主党の勝因であるが、さまざまなことが言われている。総理の失言とブレ、景気の低迷、格差の拡大、年金・医療・子育てなど、将来への不安… 筆者は、どれも違うと思っている。もちろん、いつもの如く根拠はない。敢えて根拠を挙げるとすれば、底辺を這いつくばって生きる者の肌感覚、とでも言っておこう。

要は、恵まれた人間の転落を、皆見たいだけではないかと感じている。前回の総選挙のときもそうだった。郵政民営化の是非など、どうでもよかった。大して苦労もせず、既得権からさんざん甘い汁を吸ってきた「抵抗勢力」の皆さんが、自民党の公認から外され、刺客を送りこまれ、あたふたするのを見たかっただけだ。今時、安定度バツグンの仕事についている幸運な郵便局員たちが、民間のサラリーマンと同じような悲哀を味わう危機感に、恐れ慄く姿を見て、留飲を下げたかっただけだ。

こんどもまた同じである。実のところ、政権交代などどうでもよいのだ。民主党のマニフェストなど、よくよく読めば、きっとツッコミどころ満載なのだろうが。誰もそんなものマトモに読んでいないだろう。読んでも何が正しいかなど判断できないし、そもそも、そんなヒマなどありはしない。

世襲議員、元首相、元閣僚、ブ厚い地盤と腐れ縁に守られて、長年特権を謳歌してきた連中が、ドブ板選挙をせざるを得ないほど追い込まれるのをみて、ざまあみろ、と皆面白がっている。森元首相をめぐる報道など、まさにその典型だ。

この先、自分たちの人生にロクな未来は待っていない。おそらく努力をしても全くの無駄である。それだったら、幸運にも恵まれた状態にある人間どもが、自分たちのところまで転げ落ちてほしい。自分だけ惨めな暮らしをおくるのは耐えられないが、皆でビンボーになるのは、全く怖くない。それどころか、大歓迎だ。 …これが現代日本人の、一般的な心性ではないかと思っている。

酒井法子の逮捕、大原麗子の孤独死… もはや旬でも何でもないタレントの転落など、そっとしておけばいいものを、マスコミが殊更に連日取り上げるのも、同じ文脈だろう。ああ、あいつも落っこちたか、ざまあないぜ、面白い。調子に乗るから、こうなるんだ、どん底の生活を思い知ったか、と。

民主党は束の間の勝利のあと、恵まれた者の転落を心待ちにしている社会からの要請に応えるべく、次々と新たなスケープゴートを必要とするだろう。とりあえず、次の生贄は決まっている。官僚である。天下り根絶、給与カット、退職金返納、許認可権の廃止、最後は、労働権の付与と引き換えに公務員を自由に解雇できる法律を通して完成だ。官僚は、タダのサラリーマンになる。ざまあみろ、俺たちと同じだぜ…

当面は、何とかそれぐらいで持つだろう。だが、次々と新たな生贄を見出し続けなければ、こんどは民主党自身がターゲットになる。民主党の面々をよくよく見てみれば、大富豪や世襲議員、元エリート官僚、大企業の労組の利益代表者、何だコイツら。庶民の味方ヅラをして、勝ち組の集合体じゃねぇか… 皆がそう気づく日も、そう遠い日ではない。

筆者自身は、こういう現代日本の現実を良しとするわけではない。かといって、それを良くないと言うつもりも全くない。身も蓋もない現実を前に、如何に自分は生き抜くか。それだけである。


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