独創(岡 潔)
「多変数解析函数について」の第十論文
「擬凸状領域を創り出す一つの新しい方法」 (日本数学輯報、一九六二年)
この序文では技術上の細部には立ち入らずに、私がこの論文を書き終えて感じ
ていることを説明するために、遠い昔から日本民族に固有の感情である季節感
に訴えたいと思う。今日の数学の進展には抽象に向かう傾向が見られる。われ
われの研究分野においてさえも、諸定理はますます一般的になり、それらのう
ちのいくつかは複素変数の空間から離れてしまった。私はこれは冬だと感じた。
私は長い間、もう一度春がめぐってくるのを待ち続けた。そうして春の気配を
感じさせてくれる研究をしたいと思った。
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