タイトル
「翠海の夢」
大まかな世界観
ファンタジー世界と古代ファンタジー世界が入り混じってる話。
イメージ的には「王家の紋章」とかそういうノリ。
現代人二人が、滅びてしまった王国に「何故か」紛れ込む。
メインキャラ
・ルオン
多分現代の高校生。ツッコミがいつでも秀逸。
・ドラグ
多分現代の大学生。ルオンちゃんの親戚。きらふわ好きのオトメン。
・ミージュ
次の女王になることが決定している少女。チート候補。
・フォーチューン
女王様。神様と結婚したチート。
・アンティエルド
王子。もう直ぐ国を出て新しい国を建てるらしい。チート。
特色
きらふわハスハスハスハス!!!!!!から始まったお話
なので特色はまだきめてないです
専門用語解説
・マーディア(メルディア?)
中原の至宝、とよばれた国。昔は海の近くだったらしい。
・アカデミア
ドラグやルオンが通ってる、要するに大学。
多分幼稚園から大学まで一貫だとおもう。
語りたいこと
きらふわハスハスハスハス!!!
イメージ映画・音楽等
風の回廊
滅びし煌めきの都市
異邦人
日記一回目
日記二回目
―小さい頃、何もない筈の草原に、虹色の雲が城を建てるのを見たことがある。
中原の至宝、と呼ばれた国がそこにあったと知ったのはもっと後。一面の翠の海の中にその栄華の名残をとどめるのは、世界が始まったころに生きていたという大きな獣の骨でできた真っ白な柱だけ。
(きれいだよ、ねぇ…)
雨風に晒されて、当時施されていた複雑な紋様などは殆ど削れてしまっているが、それでも、そっと手を近付けてみれば掌には石とは違うほのかな温かみが伝わる。千年を経て、骨になってもまだ温もりを残す生き物はいったいどんな姿をしていたのだろうと考えると無性にわくわくしてきて、琉遠は無造作に転がされたその柱にじっくりと目を凝らした。よく眼を凝らせば、渦巻きにもにた、何かが…見えないことも無い。
「ねぇ、これは何の模様?」
…振り返って、自分をここにつれてきた従兄を見やるが、ガイドを名乗った従弟は、といえば。
「………」
それこそ彫刻のように整った横顔をこちらに向けたまま立ちつくしていた。
見る人が見れば「なにこのイケメン!」と騒ぎ立てる立ち姿であるが、これはまったく駄目なサインだということを琉遠はよーく知っていた。これは明らかに、周りの風景の美しさにやられてポワーッとなっている状態である。
「おーい、お兄さん、聞いてますかぁー??」
目の前でぶんぶん手を降ると、やっと彼―ドラグはルオンがなにかしら騒ぎ立てているのに気付いたらしい。エマージェンシーエマージェンシーと続けてやろうとおもっていた矢先に、「なんだ。」と返されて拍子抜けしたルオンは、「これこれ、何の模様なの?」と指でその渦巻きを示した。
「これは…随分、掠れているな。」
ドラグは難しい顔をしてそれを覗き込む。
「それは魔除けの文様よ。何してるの?こんな入り口で。」
突然かけられた声に、ルオンとドラグは振り返り…そして、ぽかん、と口をあける羽目になった。
「……」
一体どこから現れたのか、不思議そうな顔をしてこちらを見ている少女が一人。
だが。その少女はといえば。よっぽどこっちのほうが不思議な顔をしたくなるわ!!と声をあらげて突っ込みを入れたくなるようなものだった。
なんといっても、ちょvvvおまvvvvとなるほどの美少女である。まず目を引くのは長い銀色の髪と聡明そうなぱっちりとした瞳。白い頬や桜色の唇は思わずつついてみたくなるような滑らかさで、人形でもこうはいかないだろうと思わされてしまう。細い布を幾重にも巻いたような胴着に、スカートは玉虫の羽を織り込んだようなうすい紗で…映画の中でしかお目にかかったことのないようなものだった。
となりでポワーッとなっている従弟のようにはなるまい、なるまい…と思いつつも、何を言うべきか判らずにルオンは立ちつくす。
「こっちよ。」
二人の動揺など気付かないかのように、少女は身を翻して歩き出した。
先程まで草むらだった辺りの景色は、足を踏み出すごとに虹色のもやに包まれて、虹色のもやが雨のように地面に零れ落ちれば、そこには滑らかな石畳が現れる―気がつけばそこは、沢山の人が行き交う街の中。ブルルッと馬のいななきにぎょっとして振り返れば、栗色の毛並みの馬がぽくぽくと路を横断していくところだった。
(何これ、夢…?)
夢にしてはやたらとリアルな夢であるが、「あり得ない」のならば夢なのだろう。
それならついていかなきゃソンソン!とルオンは従弟を引っ張って少女の後に続いた。街を抜け、小高い丘の上に設けられた、神殿のような建物の中に入ろうとした時、琉遠はふとその柱に刻まれている模様に気付いた。
(あ、さっきの…)
世界史には強くない。全く以て強くない。どうしてアカデミーで地理なんてとってしまったんだろう―これがどんな夢かわかるのに。少しの後悔を胸に、建物の中に入ると―そこはまるで、劇場か美術館のように広い空間だった。周りがすべて石造りなのに圧迫感も暗さも感じないのは、天井が二層になっていて自由に光りが入ってくるからだろう。
そして、その最も奥。一段高くなっている台の上に置かれた椅子には、女性が一人座っていた。「この人たちなの?」と少女が問いかけると、女性は「そうよ」とおっとりと微笑んで返した。
女王様だ(勿論、変な意味ではない)と直感したのは、「冗談は顔だけにして!!!」と言いたくなるようなその見た目のせいかもしれない。少女もとんでもだが、この女王様もまたぶっ飛んでいる。
こんな綺麗な人がこの世にいるのかとあいた口がふさがらなくなるような面立ちに、どこか憂いを含んだ優しげな目もと。何か特別な繊維で織り込んであるのか―光沢のある布を重ねたような服を着ていて、、最早スリットというレベルではないレベルで割れたドレスのすそから覗く肌は驚くほど真っ白である。
「…ようこそ、蜃気楼の国へ。」
そこまで観察したところで、女王は口を開き、ルオンは慌てて「おじゃまします」と頭を下げた。殆ど反射的な行動だった。
そして隣の従兄はといえばやっぱりポワーッとなっている―いや―いつ卒倒してもおかしくないかもしれないとルオンは本気で考えた。
(キラキラ×ふわふわ×キラキラ×フワフワ=キラキラの2乗×ふわふわの2乗。それ即ち、ドラグ昏倒の公式…)
「なんというドラ得ワールド…」
ぼそりと呟くと、女王はその言葉の意味をつかみ損ねたらしい。僅かに首を傾げて問いかけてくる…ルオンは慌てて付け足した。
「いえ、あの、なんでもないですごめんなさい…。」
******************************************************************************
中原の至宝と呼ばれた国は―そのはるか昔、碧海の女王として名を馳せた国であったらしい。気候と地理の変化から海が遠のき、そこから新しい国が生まれたらしい―。
女王様の前では緊張とトキメキできゅぅっとぶっ倒れるから全く語り部として失格なんじゃなかろうかとおもっていたが、そこはひらふわ大好きなオトメン。ドラグはひらふわ服を着ていた時代の背景についてもやたらと詳しかった。
彼の話によると、ここは2000年以上前の国で。
時期的には、国が別れるとき―つまりこの国の王子が外へ出て、新しい国を立てる前にあたるらしい。
彼らをここに案内した少女―ミージュは神妙な顔でそれを聞き、
「つまりあなたたちは、【明日】からきたってことになるのね?」
と、首を傾げた。
「【明日】…私たちは未来って呼ぶけどね。先からやって来たって意味ではそうかも。」
「ねえ、じゃあ、王子がどうなるか、知ってるの?」
「………海の見える国を建てる。―というか、海を囲む国を建てる、というべきか。」
「海を…覆う国…。」
*******************************************************************************
強い風がどっと吹き抜けた。風に煽られた細い草が、細漣のように震えるのを見ると、ここもまた海であるといった人の気持ちがわかるような気がした。
(―風、が。)
かつてこの窓からは紺碧の海が見えていたと言う。
だがそこから見えるのはどこまでも広がる草の海。空だけが―突き抜けるように青い。
***********************************************************************
周りに意地悪なことを言われたら「おたんこなす」と返してやればいい。
勉強に飽き飽きしていたのか、アンティエルドは欠伸交じりにミージュにそう告げた。王子様がどこからそんな言葉を覚えてきたのと精一杯の嫌味で返すと、彼はにやにやと笑いながら内緒と片目をつむって見せる。「知らなくてもいいことを知っているのと、知らなくてもいことを全く知らないのと、しらなくてもいいことに知らないふりをするのは全く違うことだからね。」さらりと言われた言葉は、とても外見通りの子供の発言とは思えなかった。純粋に口や頭が回るというよりは達観している、そんな喋り方だ。
神様の子供。そんな言葉がふと頭をよぎって、ミージュは唇を尖らせる。「あひる口になるよ」「しらない。おたんこなすの言うことなんか聞かないわ。」とぼそりと返すと、まさか自分が「おたんこなす」第一号になるとは思っていなかったらしく、彼は声をあげて大爆笑した。
アンティエルドが教えたことだけがミージュの「悪口」のレパートリーだったわけではない。修行の最中、ひょっこり木の上から現れて邪魔をした王子に、彼女はとっておきの「新兵器」を披露する。
「あんたのせいで集中力が途切れたでしょっ!アンティエルドのっ…おたんこきのこ!」
「おたんこ…きのこ?」
「キノコみたいににょっきり出てきたから!」
「…ぷっ。」
おたんこなす、応用編。おたんこきのこ。
これは効くだろうと思いきや…やはりアンティエルドは爆笑し、再びミージュは憮然と頬を膨らませることになった。
****************************************************************************
「僕、死ぬみたいだから。」
何でいきなりそんなこというの。ばか。おたんこなす。どてかぼちゃ。―普段のミージュならばそう叫んだかもしれないが、簡単な悪口すら出てこなかった。言葉は全て咽喉につっかえて、その代わり目の奥に何かがこみあげてくる。水晶の欠片を通したかのように世界が歪んで滲んで、自分が泣いているのだと言うことにやっと気付いた。
「でもまぁ神様の子供だからね、僕は。普通の人間の【死】とはちょっと違う。」
不敗を約束されてきて産まれた神の子。
この王子に敗北なんて無い。この王子は絶対に負けない。死は彼にとって敗北ではなく、恐らくは―。
「神様になるの?」
「…そんな感じかな。だから、僕のことで泣く必要は無い。」
「全人類にマザコンを推奨する神様になるの?」
「かもしれない。」
***********************************************************************
フォーチューンは物悲しげに笑って首を降った。
「神には神の、生き方があり、人には人の死に方があるわ。」
タナトス ヒュプノス
人の死とは死にして眠り。
「翠海の夢」
大まかな世界観
ファンタジー世界と古代ファンタジー世界が入り混じってる話。
イメージ的には「王家の紋章」とかそういうノリ。
現代人二人が、滅びてしまった王国に「何故か」紛れ込む。
メインキャラ
・ルオン
多分現代の高校生。ツッコミがいつでも秀逸。
・ドラグ
多分現代の大学生。ルオンちゃんの親戚。きらふわ好きのオトメン。
・ミージュ
次の女王になることが決定している少女。チート候補。
・フォーチューン
女王様。神様と結婚したチート。
・アンティエルド
王子。もう直ぐ国を出て新しい国を建てるらしい。チート。
特色
きらふわハスハスハスハス!!!!!!から始まったお話
なので特色はまだきめてないです
専門用語解説
・マーディア(メルディア?)
中原の至宝、とよばれた国。昔は海の近くだったらしい。
・アカデミア
ドラグやルオンが通ってる、要するに大学。
多分幼稚園から大学まで一貫だとおもう。
語りたいこと
きらふわハスハスハスハス!!!
イメージ映画・音楽等
風の回廊
滅びし煌めきの都市
異邦人
日記一回目
日記二回目
―小さい頃、何もない筈の草原に、虹色の雲が城を建てるのを見たことがある。
中原の至宝、と呼ばれた国がそこにあったと知ったのはもっと後。一面の翠の海の中にその栄華の名残をとどめるのは、世界が始まったころに生きていたという大きな獣の骨でできた真っ白な柱だけ。
(きれいだよ、ねぇ…)
雨風に晒されて、当時施されていた複雑な紋様などは殆ど削れてしまっているが、それでも、そっと手を近付けてみれば掌には石とは違うほのかな温かみが伝わる。千年を経て、骨になってもまだ温もりを残す生き物はいったいどんな姿をしていたのだろうと考えると無性にわくわくしてきて、琉遠は無造作に転がされたその柱にじっくりと目を凝らした。よく眼を凝らせば、渦巻きにもにた、何かが…見えないことも無い。
「ねぇ、これは何の模様?」
…振り返って、自分をここにつれてきた従兄を見やるが、ガイドを名乗った従弟は、といえば。
「………」
それこそ彫刻のように整った横顔をこちらに向けたまま立ちつくしていた。
見る人が見れば「なにこのイケメン!」と騒ぎ立てる立ち姿であるが、これはまったく駄目なサインだということを琉遠はよーく知っていた。これは明らかに、周りの風景の美しさにやられてポワーッとなっている状態である。
「おーい、お兄さん、聞いてますかぁー??」
目の前でぶんぶん手を降ると、やっと彼―ドラグはルオンがなにかしら騒ぎ立てているのに気付いたらしい。エマージェンシーエマージェンシーと続けてやろうとおもっていた矢先に、「なんだ。」と返されて拍子抜けしたルオンは、「これこれ、何の模様なの?」と指でその渦巻きを示した。
「これは…随分、掠れているな。」
ドラグは難しい顔をしてそれを覗き込む。
「それは魔除けの文様よ。何してるの?こんな入り口で。」
突然かけられた声に、ルオンとドラグは振り返り…そして、ぽかん、と口をあける羽目になった。
「……」
一体どこから現れたのか、不思議そうな顔をしてこちらを見ている少女が一人。
だが。その少女はといえば。よっぽどこっちのほうが不思議な顔をしたくなるわ!!と声をあらげて突っ込みを入れたくなるようなものだった。
なんといっても、ちょvvvおまvvvvとなるほどの美少女である。まず目を引くのは長い銀色の髪と聡明そうなぱっちりとした瞳。白い頬や桜色の唇は思わずつついてみたくなるような滑らかさで、人形でもこうはいかないだろうと思わされてしまう。細い布を幾重にも巻いたような胴着に、スカートは玉虫の羽を織り込んだようなうすい紗で…映画の中でしかお目にかかったことのないようなものだった。
となりでポワーッとなっている従弟のようにはなるまい、なるまい…と思いつつも、何を言うべきか判らずにルオンは立ちつくす。
「こっちよ。」
二人の動揺など気付かないかのように、少女は身を翻して歩き出した。
先程まで草むらだった辺りの景色は、足を踏み出すごとに虹色のもやに包まれて、虹色のもやが雨のように地面に零れ落ちれば、そこには滑らかな石畳が現れる―気がつけばそこは、沢山の人が行き交う街の中。ブルルッと馬のいななきにぎょっとして振り返れば、栗色の毛並みの馬がぽくぽくと路を横断していくところだった。
(何これ、夢…?)
夢にしてはやたらとリアルな夢であるが、「あり得ない」のならば夢なのだろう。
それならついていかなきゃソンソン!とルオンは従弟を引っ張って少女の後に続いた。街を抜け、小高い丘の上に設けられた、神殿のような建物の中に入ろうとした時、琉遠はふとその柱に刻まれている模様に気付いた。
(あ、さっきの…)
世界史には強くない。全く以て強くない。どうしてアカデミーで地理なんてとってしまったんだろう―これがどんな夢かわかるのに。少しの後悔を胸に、建物の中に入ると―そこはまるで、劇場か美術館のように広い空間だった。周りがすべて石造りなのに圧迫感も暗さも感じないのは、天井が二層になっていて自由に光りが入ってくるからだろう。
そして、その最も奥。一段高くなっている台の上に置かれた椅子には、女性が一人座っていた。「この人たちなの?」と少女が問いかけると、女性は「そうよ」とおっとりと微笑んで返した。
女王様だ(勿論、変な意味ではない)と直感したのは、「冗談は顔だけにして!!!」と言いたくなるようなその見た目のせいかもしれない。少女もとんでもだが、この女王様もまたぶっ飛んでいる。
こんな綺麗な人がこの世にいるのかとあいた口がふさがらなくなるような面立ちに、どこか憂いを含んだ優しげな目もと。何か特別な繊維で織り込んであるのか―光沢のある布を重ねたような服を着ていて、、最早スリットというレベルではないレベルで割れたドレスのすそから覗く肌は驚くほど真っ白である。
「…ようこそ、蜃気楼の国へ。」
そこまで観察したところで、女王は口を開き、ルオンは慌てて「おじゃまします」と頭を下げた。殆ど反射的な行動だった。
そして隣の従兄はといえばやっぱりポワーッとなっている―いや―いつ卒倒してもおかしくないかもしれないとルオンは本気で考えた。
(キラキラ×ふわふわ×キラキラ×フワフワ=キラキラの2乗×ふわふわの2乗。それ即ち、ドラグ昏倒の公式…)
「なんというドラ得ワールド…」
ぼそりと呟くと、女王はその言葉の意味をつかみ損ねたらしい。僅かに首を傾げて問いかけてくる…ルオンは慌てて付け足した。
「いえ、あの、なんでもないですごめんなさい…。」
******************************************************************************
中原の至宝と呼ばれた国は―そのはるか昔、碧海の女王として名を馳せた国であったらしい。気候と地理の変化から海が遠のき、そこから新しい国が生まれたらしい―。
女王様の前では緊張とトキメキできゅぅっとぶっ倒れるから全く語り部として失格なんじゃなかろうかとおもっていたが、そこはひらふわ大好きなオトメン。ドラグはひらふわ服を着ていた時代の背景についてもやたらと詳しかった。
彼の話によると、ここは2000年以上前の国で。
時期的には、国が別れるとき―つまりこの国の王子が外へ出て、新しい国を立てる前にあたるらしい。
彼らをここに案内した少女―ミージュは神妙な顔でそれを聞き、
「つまりあなたたちは、【明日】からきたってことになるのね?」
と、首を傾げた。
「【明日】…私たちは未来って呼ぶけどね。先からやって来たって意味ではそうかも。」
「ねえ、じゃあ、王子がどうなるか、知ってるの?」
「………海の見える国を建てる。―というか、海を囲む国を建てる、というべきか。」
「海を…覆う国…。」
*******************************************************************************
強い風がどっと吹き抜けた。風に煽られた細い草が、細漣のように震えるのを見ると、ここもまた海であるといった人の気持ちがわかるような気がした。
(―風、が。)
かつてこの窓からは紺碧の海が見えていたと言う。
だがそこから見えるのはどこまでも広がる草の海。空だけが―突き抜けるように青い。
***********************************************************************
周りに意地悪なことを言われたら「おたんこなす」と返してやればいい。
勉強に飽き飽きしていたのか、アンティエルドは欠伸交じりにミージュにそう告げた。王子様がどこからそんな言葉を覚えてきたのと精一杯の嫌味で返すと、彼はにやにやと笑いながら内緒と片目をつむって見せる。「知らなくてもいいことを知っているのと、知らなくてもいことを全く知らないのと、しらなくてもいいことに知らないふりをするのは全く違うことだからね。」さらりと言われた言葉は、とても外見通りの子供の発言とは思えなかった。純粋に口や頭が回るというよりは達観している、そんな喋り方だ。
神様の子供。そんな言葉がふと頭をよぎって、ミージュは唇を尖らせる。「あひる口になるよ」「しらない。おたんこなすの言うことなんか聞かないわ。」とぼそりと返すと、まさか自分が「おたんこなす」第一号になるとは思っていなかったらしく、彼は声をあげて大爆笑した。
アンティエルドが教えたことだけがミージュの「悪口」のレパートリーだったわけではない。修行の最中、ひょっこり木の上から現れて邪魔をした王子に、彼女はとっておきの「新兵器」を披露する。
「あんたのせいで集中力が途切れたでしょっ!アンティエルドのっ…おたんこきのこ!」
「おたんこ…きのこ?」
「キノコみたいににょっきり出てきたから!」
「…ぷっ。」
おたんこなす、応用編。おたんこきのこ。
これは効くだろうと思いきや…やはりアンティエルドは爆笑し、再びミージュは憮然と頬を膨らませることになった。
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「僕、死ぬみたいだから。」
何でいきなりそんなこというの。ばか。おたんこなす。どてかぼちゃ。―普段のミージュならばそう叫んだかもしれないが、簡単な悪口すら出てこなかった。言葉は全て咽喉につっかえて、その代わり目の奥に何かがこみあげてくる。水晶の欠片を通したかのように世界が歪んで滲んで、自分が泣いているのだと言うことにやっと気付いた。
「でもまぁ神様の子供だからね、僕は。普通の人間の【死】とはちょっと違う。」
不敗を約束されてきて産まれた神の子。
この王子に敗北なんて無い。この王子は絶対に負けない。死は彼にとって敗北ではなく、恐らくは―。
「神様になるの?」
「…そんな感じかな。だから、僕のことで泣く必要は無い。」
「かもしれない。」
***********************************************************************
フォーチューンは物悲しげに笑って首を降った。
「神には神の、生き方があり、人には人の死に方があるわ。」
タナトス ヒュプノス
人の死とは死にして眠り。