スイス ヴァリス アルプス 天空散歩記 (続) By 山口 一史
7月21日 ブライトホルン(4163m) 登山
ツェルマット=(ロープウエイ)=(8:40)マッターホルン グレーシャー パラダイス(9:00)-(10:45) ブライトホルン(10:55)-(12:10) マッターホルン グレーシャー パラダイス=(ロープウエイ)=ツェルマット
ホテルで朝食を済ませ、ロープウエイ乗り場に急ぐ。6人乗りのゴンドラは箱根の早雲山のそれのように途中3か所ほどでゴンドラごとロープウエイを中継してぐんぐん高度を稼ぐ。眼下の緑の急斜面にはホテル、レストラン、別荘が点在、車道はないから皆歩きで来るのだろう。
森林限界を超えると草原で耳のない兎に似たマーモットが遊んでいるのを見かける。2939mの地点で大型ゴンドラに乗り換え、マッターホルン グレーシャー パラダイス(3883m)へ、眼下にはテオドル氷河の表面に青く不気味な横縞模様を見る。まさに氷が流れている証拠だ。山頂駅はクラインマッターホルンという岩峰をくりぬいて作られている。その寒いトンネルを抜け南側、イタリア側に出ると目の前に雪原が広がる。広大な台地。スキーリフトがいくつもかけられ、太陽がまぶしい。ここでハーネス、アイゼンを付け、ガイドをトップにアンザイレンを組む。僕はセカンド、年齢順にロープにつながって出発。スキーリフトの下を緩く下降気味に少し南へ歩き、途中で左に折れ、ブライトホルンプラトーに入り、ブライトホルンパスに向け東に進む。ほとんど平坦な雪原で雪もしまっている。ちょうどスイス、イタリア国境を歩いていることになる。左手上にはブライトホルンの丸い雪のピークが見えているのだがブライトホルンパスまでは意外に長い。登山者も多く点々と列がつながっていて登山ルートは山頂までよくわかるのだがパスにはなかなか着かない。今日は快晴なので平坦な広い雪原でも難なく歩けるがガスっていたら大変だななどと思いながら汗をかきかき足を前に出す。パスで休憩。オーバーズボンにパーカーは防寒対策のし過ぎであった、パーカーを脱ぎ、高所帽の耳カバーを跳ね上げてから出発。パスからは山頂まで雪の急斜面、傾斜は30~40°はあるだろう。左上に斜めトラバース気味にときどき大きくターンをしながら喘ぎ登る。山頂に着いた。山頂は東西に延びる山稜になっていて北側、スイス側は雪の急斜面の下に岩壁を抱えゴルナー氷河へと切れ落ちている。東側にモンテローザの高く丸い白い頂、西側にマッターホルンの薄茶色の矢尻のピーク、四周に尖ったアルプスの峰々が並んでいる。いくら見ていても見飽きることのない展望、しかし長居はできない。記念写真をバチバチ撮って下山開始。
上り1時間45分、下り1時間15分の行程であった。少し早いピッチだ。最長老の僕のみが少ししんどそうであった。やはり若さにはかなわないな。
7月23日 アラリンホルン(4027m) 登山
ホテル(7:20)-(7:40)ロープウエイ山麓駅(7:45)=(ロープウエイ・全地下式ケーブルカー)=(8:10)ミッテルアラリン駅(8:20)―(9:35)コルー(10:17)アラリンホルン山頂(10:35)-コルー(11:45)ミッテルアラリン駅(11:55)=(全地下式ケーブルカー・ロープウエイ)=ロープウエイ山麓駅―ホテル
昨日ツェルマットから電車でシュタルデンまで下り、そこからバスに乗り換えてツェルマットの東のザース谷を遡りザースフェーに入る。ここがアラリンホルンの登山口、標高はツェルマットより100mほど高い。リゾート地ザースフェーでは僕ら日本人が異様に感じる光景に出合う。両耳の前に長く伸ばした髪の毛をカールさせてたらし、頂部には小さなお皿のような黒い帽子または黒いシルクハットの帽子、真っ白なシャツの上からこの暑いのに真っ黒なコートを着た、そう伝統的な服装のユダヤ人を多く見かけるのだ。その理由はよくわからない。ザースフェーの北端に近い小奇麗なホテルに泊まる。
ホテルで朝食ののち小30分歩いて一汗かきロープウエイ乗り場へ。90人乗りゴンドラで一気に3000mまで、さらに全地下式ケーブルカーで3500mのミッテルアラリン駅まで上る。ここはスキー場にもなっていて3本ほどのリフトが雪原にかかっている。アラリンホルンから西南へアルフーベル(4206m)、タッセホーン(4491m)、ドーム(4545m)と鋭く尖った岩峰山脈が連なっている。この山脈がツェルマットの谷とザース谷を分けるミシャベル山群なのだがその岩峰山脈の下部山腹全体が広いフェー氷河となっている。一般に氷河は谷筋に流れるように発達するがこの氷河は山腹全体が氷河となり、ザースフェーの谷に押し出している。壮観な眺めである。
ミッテルアラリン駅を出てハーネス、アイゼンを付け、しばらくスキー場の雪上車が付けた幅広の雪道をたどり、アラリンホルンを左に見上げ山腹をトラバース気味に登り始めるところでアンザイレンを組む。順番は一昨日と同じだ。途中2か所のクレバスを越える。ガイドの熊田さんの話ではこのクレバスは時々崩れ事故が起こるのだそうだ。またクレバスが大きい時は直登できないのでアルフーバル峰の方まで大きく迂回しなければならないとのこと。1時間15分でコルに出る。眼前にパッと広がるマッターホルンからモンテローザまでの大パノラマ。モンテローザの左肩には雲が湧いているが大展望を眺めるに支障はない。お茶を飲みながらの大展望満喫。コルから山頂はもう近いが傾斜は40°以上ありそうだ。一歩一歩アイゼンをクラストした雪面に叩き込みジグザグに登る。左上岩場の山頂に十字架を見つけてからも山頂を左に巻くように回り込み、最後に雪稜を渡ってコンクリートの台座に十字架のキリスト像が建てられた山頂に立つ。一昨日のブライトホルン登頂の時は重かった足も今日は快調、ほとんど汗もかかずに登ってきた。高度にも順化したのだろう。
思い思いに記念撮影。四周見渡す限り4000m級の岩峰の連なり、しかしもう今日で4日目、どんなにおいしい料理でも続けて食べれば飽きてくるものだ。
これで今回目的の2つの山は登頂できた。天空散歩と銘打って出かけてきた今回の山行、2つとも時間は3時間、標高差は最大500m前後だから日本でなら散歩に違いないが、4000m級の山は山、一旦天気が崩れれば夏でも吹雪の高嶺と化す。なめてはならぬ。
しかし連日の好天にも恵まれ、歳の差トリオとも親しくなり毎晩の宴会とダベリング、楽しい山旅であった。 完
全体行程図(実績)