雑記-白堂別館-

雑記なう
無職止めました。
出来ることからやってみよう

第十四節

2010-05-01 18:43:20 | Dear to me
良し!決まり~と、お姉さんは奥の部屋に自分の携帯を取りに行った。
しかし、帰って来たお姉さんは少し不満そうな顔をしている。
聞くと携帯を自分のアパートに忘れたとぼやいた。
だけど、手にはしっかりと携帯を持ってる・・・?

その携帯は雄二君のモノだった。ひとまずはこれでお願い~とお姉さんはシブシブ言いながら、私の携帯と赤外線通信で番号の交換をした。
だけれど内心ごめんなさいと思いつつ、私はこの小さな偶然がとても嬉しかった。
別に雄二君の番号が分かったからと言って、すぐに何かあるって訳じゃない。だけど今まで何も無かった所からほんの少しでも繋がりが出来た。
それが素直にとても嬉しかったのだ。

雄二君の家を出て自分の家に着くと、奥から母の声でみんな食べてるから早く荷物下ろして来なさいと聞こえたので、急いで着替えて食事を済ませた。
食事の間も、今日のことは二言三言聞かれただけでそれ以上は何も言われなかった。

お風呂に入ってさっぱりした所で、部屋に戻る。
携帯を見ると、メールが来ているのに気が付いた。
フォルダを開いて確認すると雄二君の携帯からのメールで、たぶんお姉さんからだろうなと思いつつ少し期待を込めて本文を読むと、

プリントとノート助かった
届けてくれてありがとう
雄二

思いもしない雄二君からの言葉に声にならない声が出た!
サプライズにしたってこのメールは嬉しすぎる。
お姉さんに感謝しつつすぐにメールを保存して、何度もメールを眺めながらその日はぐっすりと眠りに就いた。
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第十三節

2010-05-01 10:16:27 | Dear to me
プリントを届けに来ただけなので、あまり長居し過ぎるのも迷惑かもしれない。
そろそろ失礼しようと香奈穂が横に置いたカバンを自分の方に引き寄せた時、横ポケットに入れていた携帯から着信を知らせるライトが光っているのが見えた。
着信が数件入っていて、そのすべてが母親からだった。
お姉さんに断りを入れてから慌てて電話するとほとんど間を置かずに繋がって、すぐに受話器の向こうから「もしもし香奈穂?今どこにいるの?」と畳み掛けてくる母親の声が聞こえて来た。
かいつまんで、ノートを届けていたことと話し込んでいて遅れたことを伝えると、
「何も無いなら良いけど、一応テストなんだから早く帰らないとお友達にも迷惑がかかるんだから。こっちもご飯ももう出来てるからね」
そう言って電話は切れた。
怒っていたって訳じゃなくて、ただ心配してくれたのだろう。
携帯をカバンに入れようとするとお姉さんに手を掴まれて一言

「カナちゃん番号交換しよ!」

空いた手で人差し指を立てながら、

「ほら、ユウが学校でどんな風にしてるのか知ってたいし」

「それにほらこの前みたいに何かあった時に私が対応しようにも連絡先が都合上私の実家にしてもらってるから、こっちに届けてもらう時にひとクッション入って遅れるのよ」

「それにアパートは近所でもこの時間じゃ、おしゃべりする人がいないから退屈なのよ。ユウも部屋にいて全然構ってくれないし・・・」

矢継ぎ早に迫られて私は勢いのまま、教えます!教えますから!!と返してしまった。
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第十二節

2010-05-01 10:15:49 | Dear to me
私をナンパしてきた女の人は、自分の事を雄二君の従姉さんなのだと名乗った。
今、家に一人しかいない雄二君のために時々様子を見に来ているのだそうだ。

「ホントは私の実家の方に呼んでも良かったけど、この時期の転校は色々と大変だしねー。それに、今はあの子の周りの環境を変えない方がいいんじゃいかと思ってね。私の方は、住んでるマンションが近いし。」

それでか・・・と、香奈穂は部屋の中を見ると雄二が一人でやっているとは思えないほどに片付けられていた。
色々と喋る内、最初の頃の緊張感は無くなり、ちょっとした疑問が浮かんだ。

(お姉さんって何をしてる人なんだろ?度々来てあげてるみたいだけど、今日は平日だし時間もまだ早いし・・・)

「どっかした?」
その声で「はっ」と我に返ると、すぐ目の前でお姉さんが私の顔を覗き込んでいた。
思わぬ不意打ちにビックリして、ヒャッ!とひっくり返ってしまった。
「そんなに驚かなくてもぉ~」とむくれるお姉さんはまるで同い年に見えて、そのギャップに笑いを堪えることが出来無くなった。
笑う私を見ながら、不思議そうな顔をして一緒に笑い出したお姉さんを見て、私はますますお姉さんの事が好きになった。
こんなに力強いお姉さんが居るならば雄二君の元気もきっとすぐに戻ってくるに違いない。
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第十一節

2010-05-01 04:02:11 | Dear to me
「はいはい、どちら様~?」
玄関口を勢いよく開けて出て来たのは、見たことの無い若い女の人だった。
・・・・・・誰?
さっきの表札を見る限り雄二君にお姉さんはいないみたいだし、お母さんにしてはあまりにも若すぎる。
どうみたって二十代だ。
委員長もまったく知らない人の登場に、二の句を継げないようでいる。
鳩が豆鉄砲をくらったみたいな顔をしている私達を、しげしげと見ていた女の人の目線は委員長の胸の辺りで止まった。
何を見てるのかと女の人の目線を追うと、その目的が解った。
私達が着ている学校指定のカッターシャツ、その胸ポケットには校章の刺繍がワンポイントで入っている。
それを確認して納得した女の人は、そのまま顔を委員長の目線まで上げて、雄二の通ってる学校の子?と聞いて来た。
委員長は半ばパニックになりながら用件を伝えて、預かってきたノートを女の人に手渡した。

受け取ってお礼を言った女の人は、もう一度私達を見ながら

「君たち、おヒマ?お茶してかない?」

おどけた調子で、まるでナンパされているみたいだ。
委員長は塾があるからと言って断り、そちらの君は?と聞かれた私は少し考えてから心の内がばれてしまわないよう、控えめに返事をした。
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