雑記-白堂別館-

雑記なう
無職止めました。
出来ることからやってみよう

第三十一節

2011-04-01 22:54:24 | Dear to me
スーパーからの帰り道。
バックを担いだ雄二君と歩く。
私は一緒に運ぶのを手伝う代わりに、潰れやすい卵と苺を任された。
10kg近い荷物を、易々と運ぶ雄二君はとても頼もしく見える。
けれど数ヶ月前に疲労で倒れた事を思うと、無理をしているんじゃないかと不安にもなる。

「・・・カナ?」
雄二君の声で、はっと我に返る。
考えるのに気を取られて、立ち止まっていたみたいだ。
心配そうに声をかけてくれる雄二君に、なるべく明るい声で返して再び歩きだす。

家に着いて、コタツにお茶で一息いれる。
「あとは作るだけだねー」
つぶやいてみるけど、コタツの魔力に逆らうことが出来ない。
でも作る時間のことを考えると、そろそろ始めないと間に合わない。
名残惜しくコタツから抜け出てバックの中からエプロンを取り・・・
「わすれた」
先に台所に行っていた雄二君が、私の声を聞いて戻ってきた。
「何か買い忘れた?」
「ううん、そうじゃないんだけどね。エプロン入れてたと思ったんだけどなぁ・・・」
粉をふるったり泡立て器を使うと、間違いなく服が汚れるので忘れないようにしたのに。
「エプロンくらい言ってくれれば幾らでも・・・は無いけど出すよ」

雄二君が持ってきてくれたちょっと大きなエプロンを身に付けて、いざ台所へ。

第三十節

2011-01-19 04:49:32 | Dear to me
「えーと、私の分はこれでよしっ!・・・かな?」
改めてカゴの中を見ると、私が選んだ量と同じくらいの商品が並んでいる。
(・・・いつの間に)
「雄二君も結構入れてたんだねー。これで全部?」
「いや、あとひとつ・・・」
今まで迷いなく商品を選んでいたはずの雄二君が、ここに来て探すような目付きで店内を見回した。

たぶんここだろうと着いた先は店の一角にある百円均一のコーナーだった。
「姉さんに持っていかせるケーキ入れる箱をね・・・」
そう言われて納得した。
確かにケーキを裸のままでお姉さんに持っていってもらうわけにいかない。
お姉さんの好みも参考にしつつ、箱を選んでレジへと向かった。

レシートには中学生では中々払うことのない金額が書かれていた。
もちろん雄二君の物も合わせた額なのだけれど、ケーキへの期待度がどんどん上がって気がして少し複雑である。

そして、金額も多い分量も結構なものである。
「薄力粉減らした方が良かったかな?」
大丈夫、大丈夫、と雄二君がポケットから出したものを広げると大きなバックになった。
いつもは一週間分くらいまとめて買うんだよ。
袋に品物を移しながら、雄二君が話してくれた。
(同い年なのになぁ・・・)
私の中に、うまくまとまらない気持ちがあるのを感じた。

第二十九節

2010-10-18 13:33:27 | Dear to me
何故かダチョウの卵が置いてある卵売り場の中から難無く卵を手に入れ、最後に残った苺を求めて青果コーナーへと向かった。

この季節とあって青果コーナーには『イチゴフェア!!』と書かれた看板のある一角に、数多くの苺が並んでる。
中には普段見ないような種類もあって、それぞれの苺のパックの前には品種名と簡単な説明の書かれた貼り紙がある。
「苺って結構種類あるんだな」
「私も初めて見たよ」
ちょっとの間二人で試食を味わいつつ、紅い絨毯さながらの苺を見て回った。

「どの苺がするとか決めてるの?」
「お母さんから幾つか教えてもらったけど・・・」
普通ケーキに使う苺は甘いものより、少し酸味のあるものの方が向いている。
並んでるものの中に教えてもらった名前は二種類あった。
私は『女峰』という品種のパックを一つ取り出した。
「うー・・・これにしよっか」
「にょ・・・ほうって読むのか。へー・・・初めて見たな。これだけなの?」
雄二君が隣に来て、横からパックをのぞき見た。
「あるにはあるんだけど・・・」
私はちょっと離れた所に置いてある貼り紙をゆっくり指差す。
「レッドパール?こっちの方が大きくて紅の色が濃くて良いんじゃないの?」
「雄二君・・・それの値段見て」
「値段?あー貼り紙に書いてあるけど・・・うわっ!」
そうなのだ。女峰とレッドパールだと三倍近く値段が違うのだ。
お母さんのお店でも、この苺を使っているのは一部の特別なケーキだけだ。
私の話を聞いた雄二君は、
「そっか。じゃぁこっちにしよっか」
レッドパールのパックを手に取った。
「えっ!?雄二君『じゃぁ』の使い方おかしくない!!?」
「年一回のイベントなんだし、ちょっとの贅沢くらい姉さんも文句は言わないよ。むしろ安いのを選んだ方がブーブー言うと思うよ。姉さんの性格上」
それでもまだ納得出来てない私に、気にしない気にしないと雄二君はレッドパールのパックをカゴに入れていった。

第二十八節

2010-10-14 05:43:01 | Dear to me
気恥ずかしい空気を引きずらないように、カートを押して目的の品へと向かった。

手始めの薄力粉は雄二君家の残りも少ないからと、お家で使っている物をちょっと多めに1kg入りを3袋。
そのまま近くの乳製品のコーナーで手頃な大きさのカットバターと生クリームをカゴに入れる。

「後は?」
「え~・・・と、あと必要なのは卵と苺で全部だね」
カゴの中身を覗きながら確認して、そこで明らかに私が入れた覚えの無い食材を見つける。
(い・・・いつの間に!)
ホントに途中で拾ってるなんて、隣で歩いてたのに全然気付かなかった。
香奈穂が驚いている間にも、雄二は陳列棚からひょいひょいと取ってカートに入れている。
「卵の方が近いからそっちを先に行こうか」
雄二は香奈穂に指で売り場の方向を差した。
「雄二君って、もしかしてどこに何が置いてあるか全部把握してるの?」
「さすがにそれはなー。いつも大体買う物は変わらないからなぁ」
あんまりレパートリー無いんだよと雄二君は苦笑いで続けた。
「家庭科の教科書に載ってるので簡単に出来るのだったり、最近だと・・・姉さんが材料だけ全部持って来て作らされたりとかね」
『雄二君が作ってる後ろで指示を出してるお姉さんの図』が簡単に想像できて、二人して笑ってしまう。

第二十七節

2010-09-22 13:05:18 | Dear to me
中に入ると、広い店内の奥の方まで商品が所狭しと並んでいる。
確かに、ここなら何でも揃いそうだ。

さて・・・と、雄二君は一言おいて
「カナの買う物から見て行こうか。俺の分は適当に拾ってくから・・・え~っと、何が要るんだっけ?カナは・・・」
雄二君はそこまで言ってから、気恥ずかしそうに頬を指で掻いた。
先日の一件から私の事を名前で呼んでくれるように意識してくれているけど、まだ慣れていないみたい。

(お姉さんがいたら、ニヤニヤしながら弄られそうだなぁ)

香奈穂は出来るだけそこの処に触れないようにしつつ、先に進めた。
「ケーキの材料って言っても、そんなに沢山じゃ無いんだよ。基本は薄力粉と砂糖と卵とバターと生クリームと・・・」
香奈穂は指折り数えながら、材料の名前を挙げていく。
「それと今日は苺のケーキだから、主役の苺もだよね~」

すらすらと話す香奈穂を、雄二は感心した面持ちで見ていた。
「へぇ~、すごいんだな」
「でしょ!でもパウンドケーキなんてもっとね・・・」
雄二君は横に手を振って、
「いや、確かに思ったよりも材料が要らないのは少し驚いたけど。すごいと思ったのはそっちじゃなくて、カナはホントにお菓子作るのが好きなんだなぁって」
「えっ!?そう・・・かな?」
突然の言葉に驚く香奈穂。
「変な意味じゃなくてさ。ケーキの話してる時すごい楽しそうだし、この前持って来てくれたお菓子もそこらへんのお店で売ってるのよりも美味しかったし」
「そんな!褒めすぎだよ。それに雄二君は料理得意なんでしょ?そっちの方が絶対すごいよ」
雄二は首を横に振って
「俺のは必要にだったから仕方なくだよ。嫌いって訳でも無いけど、趣味って言える訳でも無いから。」
そして、香奈穂には聞こえないくらいの小さな声で「最近はそうでもなくなったけど・・・」と呟いた。