V=4/3πr³

詩と物語を紡ぎます

2017-10-10 21:00:00 | monologue


酔、の中に居る。三回忌、厳かに伯父を偲んだ後の、宴の席だ。老住職と真向かいの上座に、わたしはほろ酔うて居る。

住職に日本酒を酌む。日本酒を飲んでいるのは住職だけ、一人では淋しいというので返杯に預かる。住職は、伯父の二歳下、父の一歳上、の幼馴染で、祖母に地域の信仰の風習を学んだ、我が一族とは縁の深いお方だ。祖母については、未だに『XXさま』と呼んで敬慕の念を隠さない。

幾つかの、伯父や父の知らぬ思い出を聞いた。記憶に焼き付ける。何れたれかに伝えるために。

見渡せば、たれも彼も、話に興じはしゃいで居る。一年ぶりの笑顔は、眩しい。血を想う、縁を想う、今を想う。ここに集うたれかひとりでも欠けたら、今はない、のだ。

お開きの時、住職は「ご馳走になりました」と伯父の遺影に合掌したあと、「でもまだそっちには行かないよ」と、悪戯っ子の表情で言った。どっと皆が笑った。わたしは泣きそうになり、住職に合掌した。

本家でさらに二次会と飲んだ。本家の従兄弟は三兄弟、我らは二兄弟。酒を酌み交わせば、五人、兄弟となる。

八年前に母が逝き、四年前に父が逝き、都度本家には世話になった。父の三回忌の後、僅か二年で、伯父が、

本家のお父さん

が逝くとは、夢にも思わなかった。思えば、もうひとりの『お父さん』だった伯父。照れてしまい、面と向かって『本家のお父さん』と呼べなかったことが、今の心残りだ。

ほろ酔うて居る。
酔は冷めない。

熱いままだ。

その熱を我が身に灯して、私と弟は帰京の途につく。叔父と父と生まれ育ち、最期を迎えた『故郷』は、我ら兄弟を故郷として、向かい入れ送り出す。

背中に、父の伯父の祖母の祖父の、先祖の熱を感じて目眩が揺らめいて、振り返ると、一瞬皆々が一斉に笑って手を振った、幻を観た。


written
  2017/10/08〜10

**
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

くずねゆ

2017-10-10 20:30:00 | daily tsukasa

くずねゆ

ゆかりちやん、おそくなりました、ただいまです。

おかえりなさい、つかささん。おくすりもらえましたか?

はい、ちやんともらいましたよ。

ええと、?くず、ね、ゆ?、えええ?くずねちやんの、おふろ、ですか?

おしい、かつこんとう、です。

?かつこんとう?、くずねちやん、と、かんけい、ありますか?

あります、くずのねに、まおう・たいそう・けいひ・しやくやく・かんぞう・しようきよう、をくわえ、せんじたかんぽうやくです。

かんぽうやく?、くずねちやんは、つるつる・ぷるるんの、おもちになります。

くずもちですね、くずのねは、おかしにも、おくすりにもなるんです。

わああっ、すごいこ、だつたんだ、くずねちやん。

ゆかりちやん、だつて、すごいじやないですか。

ええ??、わたしがですか??

わなほららら、うたえるじやないですか。

!!、ろくんろおる、も、です。

あはははは。

うふふふふ。

そろそろ、おみず、どうですか。

おねがいします、そのまえに、おくすりのんで、くださいね。

ごくごくごく。

ごくごくごく。




2017/10/10
20:30 pm

**
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

秋闌ける

2017-10-10 15:44:00 | daily tsukasa

秋闌ける

実石榴が、割れている。
束の間の夏の中、秋の歩は確実に進んでいる。
豊饒な生命の香りがそこにある。実りの匂いは同時に、瑞々しい新生の匂いだ。


2017/10/10
15:44 pm

**
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

臥待月

2017-10-10 00:05:00 | daily tsukasa

臥待月

月がまた、高くなった。
季節は、ゆっくり冷えてゆく。


2017/10/10
00:05 am

**
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする