V=4/3πr³

詩と物語を紡ぎます

2023-03-09 01:00:00 | poem

あのひとの声を、
  聴いていると、
    とても深い、
      深い、深い、
        深い海の底で、
          じっと息を潜め、
            抱き締められて、
              包み込まれて、
            指の腹が
          爪の先が、
        てのひら、が、
      さはさは、と、
    さは、さはと、
  髪を撫で乱し、
素肌を産毛を擽っては、
  内臓の奥へ、奥へと、
    そは、そはと、
      そはそは、と、
        精神の底の底まで、
          沁み込んでいく、
            あのひとの声の、
              波動、周波数?
            否今迄知らなかった
          無償の愛そのものが、
         心臓に刺さる一欠片の、
      無関心な闇を手放し、
    一粒の、頬伝う涙に、
  光が灯ったことを、
わたしは知ったのです。






written
2023/02/18,19,20.
2023/03/04,05,06,07,08.

photograghed
2023/02/23,24.

rewritten
2023/03/09.

Copyright 2011 - 2023 ©Tsukasa allrights reserved.

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たびだち

2022-12-18 14:00:00 | poem
たびだち



きがつけば
いつのまにやら
ねむりいて
どこにもたまし
とばせずにいた

いつになく
ひどくこころが
ゆれている
ろうそくにほん
ひはきえていた

ろうそくに
ひをつけようと
こころみた
ゆびさきふるえ
ともせなかつた

(ああつ)

あのひとの
たいせつなひと
たびだつた

(そうなのだ)

あのひとの
たいせつなひと
たびだつた

なみだひとつぶ
ひとつぶおちて

あのひとの
たいせつなひと
たびだつた

だれもがいつか
むかえるこのひ

あのひとの
たいせつなひと
たびだつた

からだはつちに
たましはそらに

あのひとの
たいせつなひと
たびだつた

ときはなたれて
ゆかれたのだと

しんじたい
はれやかにえみ
ゆかれたと

しがらみもなく
こうかいもなく

やすらかに
ございますよう
ただいのる

ひたすらいのる
いのるだけ

いのるだけ

わたしのこころ
からつぽになる

わたしのこころ
からつぽになる

からつぽになる

からつぽに

なきませう
かなしみませう

からつぽに
なるまでないて

なきませう
かなしみませう

からつぽに

わかれうしなう
かなしみが

からつぽになる
ことはなくても

なきませう
かなしみませう

なきませう
かなしみませう

あゆみだす
いっぽいっぽと
あゆみだす
おもかげいだき
またあゆみだす

そのひまで

そのひまで
いつぱいないて
あゆみだす

そのひまで
なみだながして
かけてゆく

そしてかなしみ
のりこえてゆく

そのひまで


(ともに、ささぐ)

written
2022/12/17,18

Copyright 2011 - 2022 ©Tsukasa allrights reserved
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釣瓶落し

2022-10-30 00:30:00 | poem
釣瓶落し


1.小春日和

ベンチで丸まっていた猫が欠伸する。
前に伸びて後ろに伸びて。
日光が散乱する落ち葉を渡ってゆく。

宇《そら》を仰げば。
天球は何処までも澄み渡り。
大気の乱反射するこの星の色。

眼を閉じる。
太陽の熱が瞼を透過して。
血液の流れと同期する。

生きている。
とも。
生かされている。
とも。
感じる。

秋の日の。

不愉快。で。不条理。な。わたし。と。
不思議。で。不可解。な。この星。の。

神秘。




2.釣瓶落し

からからからから
からからからから

とつぷうううん!

からからきいきい
からからきいきい

ざつぱあああん!

陽が翳つたかと思つたら
あつと言う間に陽の沈む

朱く染まつた夕空の叢雲に
暗蒼色の陰が刻刻と広がつて
黄昏の帳《ゔえいる》を一枚
一枚また一枚と重ねる中を
子供の白い脚が走り抜ける

秋の陽は釣瓶落し

「そんなこといつて」
つるべつてなんだか」
「しらないくせに」

「ふつふつふつふつふつ」
「へつへつへつへつへつ」
「あつはつはつはつはつ」

子供たちに囲まれて
「かごめ」「かごめ」
揉まれて蹴られて殴られて
「うしろのしようめん、だあれ?」

今日は二番目の姉さんが
幼い妹の手を引いて
赤子の弟を背に負うて

頬を夕焼け色に染めている

ひやくきゆうじゆうねんさきの、せかいから、きたつて?」
「らいねんに、なると、『てんめいの、だいききん』が、おこるんだつて」
「なにそれ? つるべ、も、しらないくせに」

「あつはつはつはつはつ」

からからからから
からからからから

とつぷうううん!

からからきいきい
からからきいきい

ざつぱあああん!

豆腐小僧、も、嗤笑うだけ
豆腐を、運んで、戯けたら
「あつ、おちた!」

とつぷうううん!





3.雨

 きょうは雨が降ります。
 と、朝起きがけに仙人掌がわたしに言った。
 雨?
 外は雲ひとつない快晴で|音声放送受信機《ラジオ》の気象情報でも、お気に入りの予報鶯嬢が爽やかな美しい声で、
 きょうの帝都は一日快晴で気温も上がり絶好のお出かけ日和となるでしょう。
 と伝えている。
 でも、降ると言ったら降るのです、それが、この星の定めですから。
 と仙人掌も引かない。
 出かけるんでしたら、傘を持っていくです。

 わたしはその日、傘を手放す事なく、帝都古書店街を歩き詰めた。その間、〇.一㎜たりとも雨は降らなかった。帰宅すると仙人掌は涼しい顔をして窓の外を眺めている。わたしは疲れていたのでそのまま寝てしまった。
 夜遅く、ふと目が覚める。虫の音がすっかり絶えている。仙人掌が枕元に座っていてそっと
(そっと!)
囁く。

 雨、です。

 わたしは、歌を、詠む。

霜降の
夜の深みに
ふと目覚め
雨の気配に
身を欹てる

そうこうの
よるのふかみに
ふとめざめ
あめのけはいに
みをそばだてる





written by
2022/10/28,29,30
photograghed by
2022/10/11,21,29

Copyright 2022 ©Tsukasa allrights reserved

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雨音

2022-07-04 19:20:00 | poem



ⅰ. あまね


夜が明けて間もない【空】では
点在していた青が急速に消えて
音も無いまま【雨】がぱらつき
それは確実に月曜日の朝を湿し
駅にゆく人が増えた舗道を湿し
あろうことかわたしまでも湿し
何と駅前ベンチを本降りに浸し
雨音の響きは【あまねのうた】
水の匂いの【ハミング】だとか
滴の弾ける【スキャット】など
音色に包み抱かれ束の間微睡み
石榴か木通のように夢を喰んだ


written:2017/10/25
     【再掲載】



Ⅱ.あまね 短歌三首

めをとじて
ねむりがふちに
たたずめば
あまねのうたの
きこえこすかな


眼を閉じて眠りが淵に佇めば
あまねのうたの聞こえ越すかな




あめかほり
きりさめこさめ
ふりはじめ
あまねのゑみて
かけゆくすがた


雨香り霧雨小雨振り始め
あまねの笑みて掛け行く姿




ものかげに
かくれひつそり
うたいをる
はじらひおとめ
あめふりあまね


物陰に隠れひっそり謳ひをる
恥じらひ乙女雨降り雨音


written 2022/07/04





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薔薇の名前

2022-06-22 19:00:00 | poem
薔薇の名前


 彼ご自慢の庭に
 歩を進めた時
 軽い目眩を憶えた

 久しぶりに日光と
 まともに衝突したからに
 違いない

 立ち竦んていると
 彼は察したのか
 口の端に笑みをたたえ

 五月の日光量は
 盛夏のそれに等しいのです
 お気を付けて

 と言った


 充分に広い
 だが手入れのよく行き届いた庭は
 『溢れて零れる薔薇の楽園』
 と呼ばれているだけのことはある

 薔薇に興味が深いのか
 と問われたら
 正直わたしには
 殆ど――否
 全く興味はなかった

 ただ薔薇に一生涯を
 掛けてきたという彼に
 好奇心をそそられたのだ

 そして彼も
 それをわかっているかのように
 庭園の中央へと私を導いた

 パラソルに丸テーブルと椅子

 ワイングラスが二個
 何やらチーズを盛り合せた大皿
 氷水を張ったボウルに
 ワインが二本冷やされていた

 本来は常温で頂くものですが
 冷たい方が私の好みでして
 お赦しを願います

 彼はそう言いながらコルク栓を抜き
 濃赤色の液体をグラスに注いだ

 さあ
 と促され
 グラスを鳴らして
 ワインを口に含む
 意外と
 さらりとした
 冷えた口当たり

 ……だがその後を
 濃厚な酸味の香りと
 主張の強い
 渋みとえぐ味が
 組んずほぐれつ取っ組み合う

 ……互いに
 相容れない味わいに
 わたしは
 自然と
 顔を顰めていたのだろう

 彼は無言で
 チーズを盛り付けた皿を勧めた

 これが
 絶妙!
 だった

 香りと
 渋みと
 えぐ味とを宥め
 間を取り持つ

 わたしは
 思わず頷き
 もうひと口
 ワインを含むと
 彼は声に出して笑い
 豪快にグラスを呷った

 こうして一本目のボトルが空いた


 年齢は
 八十近くかと思われる彼は
 豪く気難しい
 との噂に違い
 自分の年齢の
 半分にも満たない
 『ひよっこ』の
 わたしに対して
 実に慇懃だった


 美の譬喩にひと言
 『薔薇の花』
 を持ち出し

 また希望を形容するに
 やはりひと言
 『薔薇色』
 と言いますが
 これが実に多種多様です

 ご覧ください
 この庭だけで幾種類あることか


 私等男性群と異なり
 貴女方女性群は
 精神面においても
 肉体面においても
 実に神秘的ですが

 それは薔薇と共通している


 私の庭は
 もはや其々に
 経緯の違う女性たちを
 ひと時招待しているようなものです

 勿論
 相応の代償を払って

 彼は棘傷だらけの両手を晒した
 まだ血濡れた傷もある

 二本目のワインボトルの栓を抜くと
 彼の語気に
 不思議な力が宿り始めた


 其々の
 薔薇の名前と色彩こそが
 『薔薇の意識と生命』
 を象徴し
 かつ具象してもいるのです


 濃厚で鮮烈な
 生涯の歴史です


 わたしは
 知らず知らず
 彼の話術に
 惹き込まれていた


 生涯の歴史?

 名前と?
 色彩と?


 薔薇たちが花としての
 己が意識を織りなして
 生涯を名前と色彩に
 重ねていったとすれば

 まさに
 ――La vie en rose
 と申せましょう


 陽が緩やかに陰った
 すでに二本のボトルは空いていた

 ……ノスタルジー
 ロイヤルプリンセス
 モナリザ
 ボレロ
 スイートメリナ
 エバーゴールド……

 薄い唇が告げる
 色とりどりの薔薇の名前は
 即座に空気に溶けて色褪せていく

 彼は
 ふらりと
 バラの群生の前に立って
 両手を広げた

 
 と突如爆発が起こり
 爆煙幕が彼とわたしを遮って
 わたしは地面によろめき倒れていた

 そこは戦場の最前線で
 取り囲む敵兵士の
 激しい機銃掃射の
 轟音が止まず
 反撃は疎か撤退も
 不能な密閉空間と化し
 味方兵士の肢体を
 銃槍だらけの死体に
 再生産していた

 (こんなに簡単に)
 (人は?)

 (殺し合うのか?)

 背中で
 年齢若い女が
 叫ぶ声がした

 恐る恐る振り返ると
 瓦礫の狭間で白い腿が
 無機質に揺れている

 銃声はなお止まず
 死は免れないと思った瞬間

 轟音は
 残響に

 代わった


 手を広げた彼を
 『黒い薔薇』
 が幾重にも取り囲んていた

 それはモノクロームな黒ではない
 密度を濃厚に凝縮した
 『黒』に限りなく近い
 ――血液の『赤』を凝縮した
 『黒』だった


 そう
 それは決して
 甘ったるい色などではない
 鮮血の密度が
 凝縮した色に違いないのです

 
 人間の歴史など
 道化の骨頂だと思いませんか?
 所詮
 奪い合いと
 殺し合いの

 繰り返しに過ぎない

 何故かって?

 それが
 『人間の本性』
 だからです

 ゆえに
 悲しみと憎しみに濃縮された
 『赤』
 は限りなく
 『黒』
 なのです!

 この薔薇の
 『黒』を

 この色を
 どうか
    お忘れなく

 ワインの色と味も
 どうか
    お忘れなく

 ambivalentな
 人間の本性もまた
 どうか
    お忘れなく

 この薔薇の名前は……




 ……ほんの数秒の
 微睡みの夢
 だった

 午後のカフェは
 呆気なく空いていた

 ノートパソコンの
 カーソルの点滅を
 眺めるともなく眺めて

 わたしはひどく
 もやもや
 していた

 これは
 見てはいけないもの
 ではなかったか?

 不安がよぎる

 自分の夢に
 何か得体のしれない
 魔物が紛れ込んでしまった
 ような気がしたから


 その時

 わたしは
 存在しては
 ならない物を

 見つけてしまった



 薔


 薇


 の


 名


 前


 は



 ?




 斜向かいの席に
 『黒い薔薇』の
 花束が


 置き忘れられている





written  2017/05/24〜28.
rewritten 2022/06/16〜22.

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