魚に餌をやるの
部屋を出ていく姉
魚なんてどこにいるの
ゴヤがくるからお供えをしなくちゃね
ピチャッ
縁側のすぐ下まで生臭い水
庭は変に薄暗くて
隣の家とか見えない
いつもならきこえる車の音とかもしない
その静けさが耳の穴から染み込んでくるようだ
ボキッ
姉がキュウリを折る音で我に返った
ピチャッ
バレーボールくらいある魚の頭が
足元の水面からニューっと突き出した
タワシみたいな髭のあるナマズ? 鯉?
姉が手からこぼすキュウリを
待ちかまえるように巨魚の口が吸い込んでいく
足りないの、困ったわね
あなた手か指をあげなさいよ
えっ
姉の声音に怖くなってわたしは居間に逃げた
逃げたからって
テレビの音をわざと大きくして音楽番組をかけた
しばらくしてなにもなかったみたいに障子が開いて
あらあなたいつ帰ってきたの
入ってきたのはいつもの姉だった
お姉ちゃんその指どうしたの
うんちょっと戸棚で挟んじゃったのよ
血が出てるの
包帯したから大丈夫よ
それよりも雨が降ってきたから雨戸を閉めましょうね
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