ネットオヤジのぼやき録

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祖国・領土(最愛の人々)を守る為に・・・ /独裁国家の狂気に身を挺して抗戦するアスリート - ロマチェンコ VS J・オルティズ プレビュー II -

2022年10月29日 | Preview

祖国ウクライナが遂に迎えた最大の危機。

長過ぎる独裁に骨の髄までどっぷりと浸かり、およそ30年前に破滅したソビエト連邦の再興実現にのめり込み、行くも地獄,戻るも地獄の只中に自らを追い込んだ狂気の大統領から、領土と最愛の人々を守るべく軍服に身を包み、銃を手に取ったアスリートはロマチェンコだけではない。

2014年から首都キーウ(キエフ改め)の市長を務めるヴィタリ・クリチコ(戦争開始時:50歳/現在:51歳)は、昨年来複数回の軍事訓練に参加していたことが報じられているが、ロシアの攻撃が始まってすぐに「最後まで戦う。命にかえてもこの地を守り抜く。他に選択肢はない」と、TV向けのインタビューで不退転の決意を語っていた。

4つある世界ヘビー級の王座をヴィタリと分け合った実弟ウラディーミル(46歳)も、「予備役(陸軍)への登録を終えた」と述べ、国際社会に向けて生活や軍事物資等の手厚い支援と継続を懸命に呼びかけている。


<1>Michael Benson/@MichaelBensonn
2022年2月25日



<2>Michael Benson/@MichaelBensonn
2022年2月24日



<3>“STOP THIS WAR!” - WLADIMIR KLITSCHKO EMOTIONAL MESSAGE ON RUSSIA INVADING UKRAINE; PLEA FOR HELP
2022年2月25日



4団体を完全制覇したクルーザー級に次いで、WBCを除く3団体のヘビー級王座をジョシュアから奪い取り、名実ともにクリチコ兄弟の後継者となったオレクサンドル・ウシクは、クリミアが併合された2014年に設立された「ウクライナ領土防衛大隊(Ukrainian territorial defence battalions)」に志願兵として入隊。

ドネツィク州とルハンシク州内で活動するロシア人民兵組織「ノヴォロシヤ連合軍(ウクライナ政府によりテロ集団指定を受けている)」に対する抗戦が主な役割で、国土を死守するべくウクライナ内務省の管轄下で組織され、実務を国防省がバックアップする義勇軍(民兵組織)と考えれば分かり易い。


「祖国・領土の防衛=愛する家族を守る」為に立ち上がったのは、何もボクサーだけに限ったことではなく、従軍を志願したウクライナのトップ・アスリートは他にもいる。


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■従軍した著名なウクライナ人アスリート

□ドミトロ・ピドルチニ(ピドルチヌイ:Dmytro Pidruchnyi/30歳)
バイアスロン
2014年ソチ,2018年ピョンチャン冬季五輪代表
2019年世界選手権パシュート金メダル
※五輪競技としてのバイアスロンは6種目でメダルを争う。「パシュート」はその中の1種目。
※生まれ故郷のテルノーピリ(ウクライナ西部:ポーランド,ハンガリー,スロヴァキアに近接)で、やはり2014年に創設された「ウクライナ国家親衛隊(National Guard of Ukraine)」に入隊。

◎Ukrainian athletes join military after Russian invasion
2022年3月2日/AP
https://apnews.com/article/russia-ukraine-winter-olympics-sports-europe-biathlon-0f33595e9061481d59a89a979691b76b


□セルジー・スタホフスキー(Serhiy Stakhovskiy/36歳)
テニス(今年1月に引退)
2010年~2015年:4大大会の常連プレイヤーとして活躍
2013年ウィンブルドン2回戦でロジャー・フェデラーに勝利(セットカウント:3-1)
※1月に引退を表明した後、家族とともにドバイで長めの休暇を取っていたが、ロシアの軍事侵攻と同時に妻の反対を押し切り単身帰国。子供たちはまだ幼く、従軍に関する説明は行っていないという。ウラディーミル・クリチコと同様、軍の予備役に登録を行い、首都キーウで警戒警備の任務に着いている。

◎Tennis Star Sergiy Stakhovsky Returns To Kyiv To Fight For Ukraine
2022年3月12日/MSNBC



□レーシャ・ヴォロトニク(Lesya Vorotnyk)
バレエダンサー
キーウ国立バレエ団所属(ファーストではないらしいがSNSや各種の報道ではソリストとして紹介されている)
※ロシア軍の侵略開始に伴い、志願して従軍。銃を持ち、閉鎖された国立歌劇場のホール入り口を警備する写真がTwitterで拡散され話題になった。

□キエフ国立バレエ団のバレリーナLesya Vorotnyk。彼女はウクライナ国立歌劇場でキエフを守っています
3月2日/Tetiana Danylenko @tdanylenko




□オレクシー・ポチョムキン(Oleksiy Potiomkin)
バレエダンサー
キーウ国立バレエ団所属(ファースト・ソリスト)
※国立歌劇場の閉鎖を受け、レーシャ同様志願して従軍。迷彩服を着用し肩から銃を提げ、首都キーウの警備防衛に当たる写真がTwitterで紹介されている。

□The dude on the left is Oleksiy Potyomkin. The dude on the right is also Oleksiy Potyomkin. The ballet dancer has joined up, like many people from all walks of life in Ukraine.
2022年3月3日/Natalia Antonova @NataliaAntonova


□ヤロスラフ・アモソフ(Yaroslav Amosov/29歳)
MMA:ベラトール・ウェルター級王者(26戦全勝9KO,10タップアウト,7判定勝ち)
コンバット・サンボ(黎明期の総合ファンだった私には”コマンド・サンボ”の呼称が好ましい)の世界選手権で3連覇を含む4度の金メダルに輝き(獲得したメダルは5個)、プロ転向後ドローを含まない26連勝をマーク。
同じくサンボ世界王者からプロに進み、コナー・マクレガーを破ってUFCライト級王者となり、29戦して無敗,かつ王者のまま引退(昨年3月)したハビブ・ヌルマゴメドフ(ロシア)の連勝記録更新に注目が集まっていた。
※2月中旬~後半にかけて、アモソフは来るべき防衛戦に備えてタイでキャンプを張っていたが、ロシアの軍事侵攻がいよいよ現実味を帯びた2月22日に緊急帰国。首都キーウ郊外にある故郷イルピンに残した最愛の妻と誕生間もない我が子(と家族)を「安全な地域(非公開)」に逃がすと、アモソフ自身は単身キーウに戻り従軍。
統一ヘビー級王者ウシクと同様、「祖国の名誉と同胞の命は、チャンピオン・ベルトよりも重い。何があっても守り抜く」と語った。
※4月2日には、武装した兵士の姿で荒れ果てた実家に戻り、ロシア兵に戦利品として持ち去られることがないよう、母親が床下に隠しておいたベラトールのベルトを見つけ出す場面を撮影した動画(短く編集済み)が公開されている。

<1>WATCH: Bellator welterweight champion Yaroslav Amosov recovers title belt in Ukraine in full military uniform
2022年4月2日
https://www.cbssports.com/mma/news/watch-bellator-welterweight-champion-yaroslav-amosov-recovers-title-belt-in-ukraine-in-full-military-uniform/

<2>‘This is not saving, this is destruction’: Ukrainian MMA champion Yaroslav Amosov recounts the horrors of war
2022年5月17日
https://edition.cnn.com/2022/05/10/sport/yaroslav-amosov-mma-bellator-ukraine-russian-invasion-spt-intl/index.html


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■従軍に加えて獲得したメダルやトロフィー等を競売にかけて義援金に換えたウクライナ人アスリート

□スタニスラフ・ホルナ(Stanislav Horuna/33歳)
空手:2020(21)年東京五輪及び2014年世界選手権銅メダル(組手/男子75キロ級)
※2月24日の緊急事態を受け、故郷リヴィウ(ポーランドと国境を接するリヴィウ州の州都/ロシア語:リヴォフ)で従軍。軍による保護が可能な地域に、住民を移送する任務に着いた。
※オークションは「eBay」のオンライン上で行われ、東京大会の銅メダルは20,500ドル(1万ドルでスタート)で落札されたという。落札者は東京在住の日本人男性で、戦争が終結して事態が落ち着き次第、日本への招待とメダルの返還(おそらく無償)を申し出ているとのこと。

◎Ukrainian sells Olympic medal to fight Russia, may get it back
2022年4月28日
https://www.asahi.com/ajw/articles/14604084


SNSや動画配信を利用して、ウクライナへの支援と対ロシア批判を呼びかけるアスリートは、ウクライナ人に止まらず国や地域を越えて拡大。


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■戦死が確認されたアスリート,芸術家

□オレクサンドル・シャポヴァル(Oleksandr Shapoval/47歳)
バレエダンサー(キーウ国立バレエ団所属プリンシパル)
※9月中旬、オデッサから程近いマヨルスク(Maiorske)という街で、ロシア軍との戦闘中に迫撃砲に撃たれて死亡。著名なプリマ・バレリーナ,クリスティーナ・シシュポル(シシポル/Christina Shishpor)とのコンビで人気を博した。

<1>Ukrainian National Opera ballet dancer Oleksandr Shapoval killed in combat. 
The Kyiv Independent/@KyivIndependent
2022年9月13日
https://twitter.com/KyivIndependent/status/1569442852509487106

<2>Guerre en Ukraine : Un danseur etoile de l’Opera National tue au combat
15/09/2022
https://www.radioclassique.fr/classique/guerre-en-ukraine-un-danseur-etoile-de-lopera-national-tue-au-combat/

<3>Ukrainian ballet dancer Oleksandr Shapoval is killed on the battlefield
Updated September 15, 2022
https://www.npr.org/2022/09/13/1122659509/ukrainian-ballet-dancer-oleksandr-shapoval-is-killed-on-the-battlefield


□ニコライ・イゴレヴィッチ・ズヴャギンツェフ(Nikolai Igorevich Zvyagintsev/39歳)
ピアニスト(ドネツィク・フィルハーモニー管弦楽団所属)
※まさにロシアの侵略が開始されたマウリポリで、4月12日に戦死が報告された。最愛の夫人と1歳の女の子は無事が確認されている。


<1>Musicians of Ukrainian orchestra mourn their pianist, killed in the battle for Mariupol
13 April 2022, 17:25 
https://www.classicfm.com/music-news/ukrainian-orchestra-mourns-pianist-mariupol/

<2>Guerre en Ukraine : Le pianiste du Philharmonique de Donetsk tue au combat a Marioupol
By Philippe Gault
20/04/2022 に 17:00 に公開
https://www.radioclassique.fr/classique/guerre-en-ukraine-le-pianiste-du-philharmonique-de-donetsk-tue-au-combat-a-marioupol/


□イェウヘン・マリシェフ(Yevhen Malyshev/19歳)
バイアスロン:2020年ユース五輪(ローザンヌ/スイス)代表
※生まれ故郷ハルキウ(ロシア語:ハリコフ)で陸軍に入隊。3月1日付けで戦闘による死亡が報告されているが、2月28日(月末)にロシア軍が行った無差別爆撃によるものと思われる。
※ロシアと国境を接するハルキウ州での攻防は、4月の後半から徐々にウクライナ軍が盛り返し、各国の注目が集まるヘルソン州でも、先月末から今月上旬にかけてロシアに制圧されていた多くの地域の解放が伝えられるとともに、州都ヘルソンの奪還も日々現実味を増している。

◎R.I.P.(Rest in Peace)
Yevhen Malyshev was a talent in biathlon. He was only 20 (19) years old when he was killed in combat in the war in Ukraine. 
2022年3月1日/Global Athlete/@GlobalAthleteHQ




□トマス(トマシュ)・ヴァレンテク(ポーランド)
MMA(アマチュアの競技選手)
ドンバス(親ロ派が多いとされるドネツィクとルハンシク2州を併せた地域の通称)での戦闘において、ロシアの無差別爆撃による死亡を確認。同地域での武力抗争は、2014年に勃発(クリミア併合に続くロシアの進攻)した後、一時停戦を挟みながら現在に至っており、「ドンバス戦争」と名付けられている。

プロイセン,モンゴル,オスマン帝国等の侵略に晒され,18世紀~19世紀にはプロイセン,フランス,帝政ロシアの三国に100年超に渡って支配され、第二次対戦時にはナチス・ドイツと旧ソ連が領土を東西に分けて統治した。

「分割と統合」の連鎖に苦しみ続け、1989年の「ベルリンの壁」崩壊により遂に民主化を実現し、第二次大戦時から駐留を続けていた旧ソ連軍(ロシア連邦軍)が全面徹底した1993年以降、宿願だった独立を回復した祖国の歴史に思いを馳せたヴァレンテクは、「このままロシアのやりたい放題を許してしまったら、次にやられるのは我々だ。黙って見ている訳にはいかない。」と家族や親しい友人たちに話し、ウクライナ政府が設立した外国人傭兵部隊(後述)に志願。

コソボ紛争(1998年~99年)とアフガニスタン紛争(2001年から続くタリバンとアメリカの抗争)にも傭兵として参戦した経験を持ち、2012年にアフガニスタンから無事生還した時には、「二度と戦争には行かない」と決心していたという。


<1> ヴァレンテクの戦死を伝える「MMAポルスカ」の公式ツィート
Spoczywaj w pokoju(Rest in Peace)
2022年7月23日/mmapolska_org/@MMAPolska_Org

※MMAポルスカ
ポーランド国内にある総合格闘技の統括組織。国際総合格闘技連盟(IMMAF:International Mixed Martial Arts Federation/別称:世界アマチュアMMA連盟)に加盟する同国唯一の団体とのこと。


各地の局地戦においてウクライナ軍を強力に支える精鋭部隊は、その多くが2014年に創設されている。

正式に陸軍の領土防衛大隊に加えられた「アゾフ大隊」以外にも、「ドンバス大隊」や「アイダール大隊」などが良く知られているが、クリミア併合に強く反対するクリミア・タタール人によって結成された「ノーマン・チェレビシハン大隊」、旧ソ連による支配時代から長く深い因縁を持つジョージア(グルジア)の退役軍人が組織した「ジョージア民族軍団」など、ウクライナ以外の関係国も部隊を組みロシアに対抗。

「ジョージア民族軍団」には、米・英・独・仏・イスラエル・豪州のみならず、アルバニア,クロアチア,モルドヴァ,セルヴィア,アルメニアなどの旧ソ連諸国、メキシコや日本などからも志願兵が参集している。

ぜレンスキー大統領は国家として正式に海外からの志願兵受け入れを表明し、「ウクライナ領土防衛部隊外国人軍団( International Legion of Territorial Defense of Ukraine)」を設立。応募してきた傭兵志願者は、各国に置かれたウクライナ大使館と領事館で受付と面接を行っているとのこと。


<2>MMA fighter Walentek dies in Ukraine following Russian bombing
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2022年8月5日
https://www.insidethegames.biz/articles/1126636/tomasz-walentek-dies-in-ukraine

<3>Kim jest Tomasz Walentek, wolontariusz, ktory zgin?? na Ukrainie? Niesamowita biografia polskiego wojownika
1:27, 2022.07.26
https://www-stefczyk-info.translate.goog/2022/07/26/kim-byl-tomasz-walentek-ochotnik-ktory-zginal-na-ukrainie-niezwykly-zyciorys-polskiego-wojownika/?_x_tr_sl=pl&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc


Part 3 へ続く

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