ネットオヤジのぼやき録

ボクシングとクラシック音楽を中心に

王者の本懐 - GGG VS 村田決定へ・・・? -

2021年10月04日 | Boxing Scene

■12月28日/神戸/IBF・WBA世界ミドル級王座統一12回戦(?)
IBF王者 ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン) VS WBAスーパー王者 村田諒太(帝拳)

「ボクシングが大好きな人たちは、僕よりも強いミドル級のチャンピオンがいる事を知っています。そこを目指します。」

今を去ること4年前の10月22日、ハッサン・エンダム・ヌジカム(仏)との再戦を7回終了TKOで制した直後、リング上で行われた勝利者インタビューで、村田はそう言い切った。

同じフジTVのバックアップを受ける井上尚弥が、リアルな世界の頂点へと突き進む姿を目の当たりにして、「僕も近い将来、”本当の勝負”ができるような選手になります。」と決意を新たにしてもいた。


そして、目指すべき「僕よりも強いチャンピオン」との対決,「本当の勝負」が、具体的なスケジュールも含めて現実味を帯びている。

村田は雑誌「Number」に「王者の本棚」という小さな連載コラムを持っているが、GGGとの一騎打ちが本当に実現すれば、それこそが「王者の本懐」に他ならない。


先月21日~25日にかけて、在米専門サイトの多くが、「12月28日神戸開催で確定」との記事を掲載した。

慎重居士で知られる本田会長の口が堅すぎるぐらい堅い為、日本国内ではなかなか第一報が出なかったけれど、今月2日にようやくスポーツ各紙が関連した記事を報じている。

在米サイトの記事を読むと、ほとんどフィックスされたと考えて間違い無さそうに思えるが、DAZN公式サイトの試合スケジュールには反映されていないので、現時点では「内定」との表現に止めておくのが適切か。


※DAZN BOXING SCHEDULE 2021
 FIGHT DATES AND LIVE STREAM FOR CONFIRMED CARDS
https://www.dazn.com/en-GLOBAL/news/boxing/dazn-boxing-schedule-2021-fight-dates-and-live-stream-for-confirmed-cards/jfayyf6536jp17kityknul24l


若い人たちへのワクチン接種が進捗し始めたのか、日本国内の武漢ウィルス禍(第5波)もようやく落ち着きを見せ始めたとは言え、選手本人のみならず、スタッフ関係者の感染による延期・中止の可能性は結構な確率で残り続けるし、高齢選手に特有の練習中の怪我も、お互い何時でも起こり得る緊急事態。

正式発表されたとしても、それだけで楽観視する事はできない。「ラスベガスじゃないのか・・・」と、そんな声もどこかから聞こえてきそうだが、2013年のプロ・デビュー以来、村田が一貫して念願してきたビッグ・ファイトが、実現に向けて着実に動いていると分かっただけでも、素直に朗報として受け止めよう。


昨年1月~2月にかけて、カネロ戦の風聞が出回った時は、「最悪のマッチメイクじゃないか・・・」と、暗澹とした思いに落ち込んだ。

現在のミドル級で1,2を争う(GGGとタメを張る)豪打者の村田を相手に、サイズでも大きく劣るカネロが、まともに打ち合ってくれる筈がない。

アウトボックスとクリンチワークであしらわれ、ロブ・ブラントとの第1戦どころじゃ済まない完封負け。それ以外の何を想像しろと言うのか・・・。


※メイウェザーの跡目を継いでボクシング界随一の稼ぎ頭となったカネロ
 向かって左はトレーナー兼マネージャーのエディ・レイノソ,右はエディの父で”チェポ”の愛称で知られるホセ・レイノソ


村田の良さ,持ち味が最大限に活きるのは、真正面から打ち合いに応じてくれるであろう、天下のゴロフキン(しかも加齢による凋落傾向が明らか)しかいない。

フェザー級に上げた長谷川穂積の相手に、よせばいいのに大型のメキシコ人パンチャーばかり連れて来たり、揉み合い上等の乱戦を大の苦手にする粟生隆寛のチャレンジャーに、マリーシアを前面に押し出して駆け引きするガマリエル・ディアスをわざわざあてがう。

かねてから帝拳のマッチメイクには疑問を感じるケースが目立ち、巨額の先行投資を回収せねばと焦り急ぐ(?)DAZNの思惑に、現在地の村田は必ずしも叶うオポーネントではない筈だがと、カネロ戦へと突き進む雰囲気に「それだけはご勘弁」と心底思った。


幸いにもカネロ戦の噂は立ち消えとなり、一息ついたのも束の間、S・ウェルター級のWBA王者エリスランディ・ララがミドル級進出を宣言。

今年5月の転級第1戦でWBAの正規王座を獲得。対戦相手のトーマス・ラマナは、ランカーとは名ばかりの東部を根城にする中堅選手だったが、同胞の大先輩リゴンドウと同様、「ララと言えば塩漬け判定」が代名詞になっていたのに、なんと初回1分20秒のKO勝ち。

頭を下げた低い態勢(死角)から、右のフェイント(ボディ)を見せて置いて、一瞬の隙を逃さず振り上げる左フックの一撃。

このパンチをまともに食って昏倒したラマナは、暫くの間意識を失ったまま起き上がれない。どうなることかと心配したが、担架が運び込まれることもなく、ラマナが回復して事無きを得た。

ララはスーパー王座に格上げされた村田の後釜に座ると、154ポンドのベルトを放棄するや否や、WBA内の統一戦履行を声高に要求した。

「WBAに言いたいのは1つだけ。ムラタとの指名試合を、直ちに指示して貰いたい。」



ロブ・ブラントのジャブにいとも容易く態勢を崩され、いいところなく打ちまくられて惨敗した第1戦の村田を見れば、ララが「赤子の手を捻るようなものだ。簡単に勝てる。」と考えても無理はない。

ララのコーナーを率いる現在のチーフが、プロ入り当初の村田を教えていたイスマエル・サラスだという点も、嫌な場面をこれでもかと脳内スクリーンに映し出す。


※快心のKO奪取にサラスもこの表情/お馴染みの「グッド!」ポーズにもキレが増す


WBO王者のデメトリアス・アンドラーデ(34歳/40戦37勝30KO3敗/元WBA・IBF王者:WBA正規王座をV4)、WBCのベルトを持つジャーモール・チャーロ(31歳/32戦全勝22KO/暫定時代から連続V4)ら、ララと同じく154ポンドから参戦してきたボックスが得意な対立王者たちも、「村田?。何時でも大歓迎さ。」と、ためらう事なく言い放つだろう。

昨年11月、パンデミックによる休止から実戦に戻り、S・ミドル級契約でガブリエル・ロサドに想定外の苦闘を強いられ、僅差の2-1判定で辛くもかわしたダニー・ジェイコブス(34歳/40戦37勝30KO3敗/元WBA・IBF王者:WBA正規王座をV4)も、「ムラタに挑戦できるなら、もう一度160ポンドに戻してもいい」と言い出しかねない。


※左から:デメトリアス・アンドラーデ(WBO王者)/ジャーモール・チャーロ(WBC王者)/ダニー・ジェイコブス(元WBO・WBA王者)


2019年12月のスティーブン・バトラー戦以来、2年近くリングから遠ざかっていることも、35歳という年齢(年明けの1月には36歳になる)以上に、大きなマイナス要素と捉える人たちもいる。

日本のファンの1人として無念ではあるものの、リング誌の階級別ランキングにおいて、上述したライバル王者たちの後塵を拝するポジション(5位/ESPNは4位)は、まだ好意的な評価と言わなければならず、ミドル級のトップ10から外したTBRB(Transnational Boxing Rankings Board)の判断を指示するマニアも少なからずいると思う。

◎専門ランキング・サイトのミドル級トップ10
(在米マニア&関係者から寄せられる信頼と権威に関するBEST 3)

<1>リング誌(2021年10月16日更新)
https://www.ringtv.com/ratings/?weightclass=98
C:空位
1位:ゴロフキン(IBF王者)
2位:アンドラーデ(WBO王者)
3位:チャーロ(WBC王者)
4位:セルゲイ・デレヴィヤンチェンコ(ウクライナ/WBC2位)
5位:村田(WBAスーパー王者)
6位:ハイメ・ムンギア(メキシコ/WBC1位/元WBO J・ミドル級王者)
7位:ジャニベク・アリムハヌリ(カザフスタン/WBO2位/2013年世界選手権金メダル)
8位:クリス・ユーバンク・Jr.(英/イングランド/WBA1位)
9位:リアム・ウィリアムズ(英/ウェールズ/WBA・WBC6位)
    ※今年4月アンドラーデに挑戦して12回0-3判定負け
10位:フェリックス・キャッシュ(英/イングランド/WBO8位/英国及び英連邦王者)

<2>ESPN
https://www.espn.com/boxing/story/_/id/21675272/divisional-rankings-best-top-10-fighters-per-division#MID
1位:チャーロ
2位:ゴロフキン
3位:アンドラーデ
4位:村田
5位:ムンギア
6位:デレヴィヤンチェンコ
7位:ユーバンク・Jr.
8位:Z・アリムハヌリ
9位:エリスランディ・ララ(キューバ/WBAレギュラー王者)
10位:エスキーヴァ・ファルカン(ブラジル/ロンドン五輪銀メダル)
   ※「ファルカオ」表記有り

<3>TBRB(Transnational Boxing Rankings Board)
https://tbrb.org/rankings-archive
C:空位
1位:ゴロフキン
2位:チャーロ
3位:アンドラーデ
4位:ムンギア
5位:デレヴィヤンチェンコ
6位:Z・アリムハヌリ
7位:マチェイ・スレツキ(ポーランド/WBC5位/アマ:110勝30敗)
    ※2019年6月アンドラーデに挑戦して12回0-3判定負け
8位:L・ウィリアムズ
9位:ユーバンク・Jr.
10位:F・キャッシュ


そして不惑を目前にしたかつての絶対王者はと言えば、2019年10月のセルゲイ・デレヴィヤンチェンコ戦(僅差の3-0判定勝ち/MSG/IBF王座に復帰)の後、パンデミックの影響で試合から離れたが、昨年12月18日、フロリダのインディアン・カジノでカミル・シェルメタを7回終了TKOに下して無事に復帰。

打ち合い勝負ならまだまだ強いと思われていたGGGだが、IBF王座を懸けた決定戦では、初回にフラッシュ気味のダウンを奪いながら、タフなデレヴィヤンチェンコに粘られ、圧力と連打を受けて後退を余儀なくされた上、左ボディを効かされて腰を落としかけるなど、ウクライナ人の手が挙がってもおかしくない接戦だった。

現にDAZNのアン・オフィシャル・ジャッジを努めたクリス・マニックス(SportsIllustratedのシニアライター)のスコアは、第11ラウンドを終った時点で2ポイント挑戦者の優位に付いていた(103-105)。


デレヴィヤンチェンコは当然のように自らの勝利を主張し、GGGには「年齢的な限界」が公然と囁かれる。

「(ロールス並みに)力の差が明白なシェルメタにも苦しむようだと・・・」

GGGの落日を予感する多くのファンが注視する中、1,2,4回とダウンを積み重ねて、7回に4度目を追加。ラウンド終了後のギブアップに追い込んだが、倒し切れなかった恨みは残る。


格下のシェルメタも、序盤は恐れることなく強打を打ち返していただけに、「健在ぶりを示した」とまでは言い切れないと、GGGに対して辛らつな評価を口にする専門記者もいた。

ゴロフキンに明白な凋落傾向が見られ出したのは2016年~17年にかけてだったが、2017年9月に行われたカネロとの第1戦で、WOWOWのライヴ中継を観戦した村田は、「実力的には、(ミドル級の中で)抜きん出ているという印象はもう無い。下り坂だと思うし、だから(GGGを避け続けてきた)カネロも対戦に応じた。」と本音を語っている。

その上で、「魔法は解け始めている。」と上手いことを言った。ダニー・ジェイコブスに判定まで食い下がられ、連続KO防衛が17で途切れた後、カネロとのドローを経て連続V19が懸かったヴァネス・マーティロジアン戦(2018年5月5日/カリフォルニア州カーソン)の時も、各社のインタビューを受けて同じ言葉を発していた。


磐石の強さを誇った安定チャンピオンが、一度び綻びを見せるや否や、以前なら怯えて腰が引けていた筈のアンダードッグたちが、シェルメタのように少々打たれても怯むことなく、懸命に打ち返して立ち向かうようになる。

S・フライ級に上げた途端、「階級の壁」に捕まって神通力を喪失したロマ・ゴン(GGGとのセット=P4Pコンビ=で本格的に米国内で売り出した)も、状況は異なるけれど「魔法が解けた」典型例として記憶に新しい。


勤続疲労と加齢による衰えを否定できなくなったGGGには、カネロとの早期の決着を求めてDAZNを選んだ筈のマッチメイクにも、あれやこれやと批判的な意見が少なくない。

2018年9月のリマッチでカネロに統一王座を奪われた後、HBOのボクシング中継撤退に伴う去就に注目が集まり、一時はESPNとの妥結合意を確実視されながら、2019年3月にDAZNとの契約を発表。

直後の2019年6月、再起戦の相手はカナダ国籍の中堅黒人選手スティーブ・ロールス。10月にデレヴィヤンチェンコ戦があり、1年2ヶ月置いて組まれたのが、ロールスよりも実績は上とは言いつつ、客観的に見れば大差がないシェルメタ。


「キャリアの総仕上げ(バラバラになったベルトの再統一)に取り掛かるべき時に、いったいGGGのハンドラーたちは何をやってるんだ。」

「カネロとの第3戦を本気で望んでいるなら、今すぐS・ミドルに上げて然るべき相手とテストマッチをやるべきだし、このままミドルに留まるつもりなら、まずはアンドラーデかチャーロとの交渉を急ぐべき。グズグズしている時間はない。」


GGGに対してどれだけのファン(在米マニア)が、どれだけの期待値を持ち続けているのかは不明だが、カネロとの2試合について、「第1戦は間違いなくGGGの勝ち。2戦目もGGGが取っていたと思うし、悪くても引き分け。だからミドルのNo.1は今でもGGGだ」と主張する人たちも、大分数は減ったかもしれないがそれなりにいる。

カネロ戦2試合に関する見方について言えば、村田もGGG寄りの発言をしていた。私も「第1戦はカネロではなくGGGの勝ち。第2戦は引き分け。」との意見に賛同するが、「あの拮抗した内容では、稼ぎ頭(集客力No.1)のカネロに判定が流れても仕方がない」とも思う。

厳しい視線をGGGに送り続けるマニアや記者たちには、村田とのマッチメイクも「甚だ物足りない」ものと映るに違いない。このカードについてESPNが最初に報じた今夏以降、「ムラタも結局5番目の男に過ぎない。この期に及んでそれはないだろう。」と、痛烈に断じる記事も散見された。

「DAZNがGOを出し渋るのは、ムラタのバリューを真っ当に評価した結果であり、止むを得ない現実と知るべきだ。」

 

確かに一理あると頷かざるを得ない面はあるが、40歳を目前に控えたGGGに10年前と同じパフォーマンスを要求することはできないし、まだまだ先が見込めるカネロと違って、GGGは1試合(の内容と結果)ですべてが終る確率が低くない。

マッチメイクに対して一層慎重に構えるのは当然で、村田以外に統一戦の選択肢があるとすれば、PBC(Premier Boxing Champions)傘下のチャーロではなく、エディ・ハーン&DAZNをバックに戦うアンドラーデという事になるけれど、「条件(報酬)とリスクの多寡」を考慮すれば、黙っていても村田に落ち着く。

2001年に大阪で行われた東アジア大会(5月19日〜5月27日/9日間)に参加した経験もあり、母親が韓国系という事情も考え合わせれば、報酬以外にもGGGが来日(神戸/ノエビア・スタジアム?)に応じる条件は揃っていると言えなくもない。

そして、GGGと村田が火を噴くような打ち合いを繰り広げたら、村田の仕上がり具合にもよるけれど、「ファイト・オブ・ジ・イヤー」を総ナメにする激闘が期待できるのではないか。DAZNには、是非ともその辺りを考慮に入れて欲しいものだ。


DAZNの動き出しの鈍さは、一にも二にもブラントとの初戦が影響していると見ること自体に間違いはない。ハッサン・エンダムとの初戦はともかく、ラスベガスでブラントに喫した2敗目(負け方)の出来がなにしろ酷過ぎた。

再戦での2回TKO勝ちを持ってしても払拭し切れず、そのまま尾を引きずっている。両陣営がいくらその気になっても、肝心要のDAZNが思い切れない最大の原因は、在米専門記者とマニアたち(有料放送の購入者)の反応を無視できないからだ。

いずれにしても、両陣営がここまで情報を明らかにした以上、残る関所はDAZNのみ。ここさえ通過できれば、正式決定の運びになる筈。


詳しいプレビューは正式に決まってからと考えているけれど、”万馬券の安全パイ”と思われても仕方の無い村田にも、今のGGGなら少なからず勝機はある。

若くて元気一杯だった頃のGGGは、全力で攻め込んでいるように見える時でも、常にステップバックで相手の反撃に対応することができた。

独特の「後傾バランス(体重を軸足に残して前に出た左足に乗せ過ぎない/重心を移し過ぎない)」と、伝統的なボディワークがその反応を可能にしていたのだが、加齢とともに「後傾バランス」を維持できなくなり、ボディワークのヴォリュームも減衰する。

距離を詰めて強打を打ち始めると、前に出た重心を元に戻す余裕がなく、ボディワークが以前ほど使えない為に、前のめりになったところをしたたかに打ち据えられてしまう。


カギになるのは、村田の左。リードジャブを徹底的に磨き直して、余計な力を入れず引き手の戻りに注意しつつ、タイミングで可能な限り数多く打つ。そして、アマの頂点を極めたレバーブロー。

デレヴィヤンチェンコのボディアタックで息を上げていたGGGを見返す度び、村田の左ボディがまともに右の脇腹を抉れば、「絶対に立っていられないだろう」との確信に近い思いが、打ち消しても打ち消しても浮かんで来る。


もっとも、ブラント第1戦のようにパンチに体重が乗らず、重心が上がってジャブに対応できなくなり、ガードがバラけてオフ・バランスを繰り返す「悪い状態」が健在化すれば、低い姿勢からGGGが放つ左フックを顔面に浴びて、淵上誠と石田順裕(2人とも僅か3ラウンドで玉砕)の再現になりかねない。

そんな取り留めのないことを考えつつ、一刻も早いDAZNの試合スケジュール掲載を待とう。


◎ゴロフキン(39歳)
現IBFミドル級(V1),前WBAミドル級(V19),前WBCミドル級(V8),元IBFミドル級(V4/はく奪)統一王者
戦績:43戦41勝(36KO)1敗1分け
アマ通算:350戦345勝5敗
※8敗説有り
2004年アテネ五輪ミドル級銀メダル
2005年世界選手権(綿陽/中国)ミドル級2回戦敗退
2003年世界選手権(バンコク)ミドル級金メダル
2002年アジア大会(プサン)L・ミドル級金メダル
2001年東アジア大会(大阪)ウェルター級金メダル
2000年ジュニア世界選手権(ブダペスト)L・ウェルター級金メダル
身長:179センチ,リーチ:178センチ
右ボクサーファイター


◎村田(35歳)
WBAスーパー(V0),前WBA正規(V1/スーパー昇格),元WBA正規(V1)王者
戦績:18戦16勝(13KO)2敗
アマ通算:138戦119勝(89KO・RSC)19敗
2012年ロンドン五輪金メダル
2011年世界選手権(バクー)銀メダル
※いずれもミドル級
南京都高→東洋大
身長:183.5センチ,リーチ:190センチ
※スティーブン・バトラー戦の予備検診データ
好戦的な右ボクサーファイター


※写真上/ロンドン五輪・左から:エスキーヴァ・ファルカン(ファルカオ/銀/ブラジル),村田(金),アボス・アトエフ(銅/ウズベキスタン),アンソニー・オゴゴ(銅/英・イングランド)
※写真下/2011年世界選手権(バクー)・左から:村田(銀),イェフゲン・キトロフ(金/ウクライナ),エスキーヴァ・ファルカン(銅/ブラジル),ボグダン・ジュラトニ(銅/ルーマニア)


拙ブログでも何度か触れているが、五輪(金)と世界選手権(銀)の両方でメダルを獲った日本人ボクサーは、後にも先にも村田しかいない。なおかつ村田は、プロでも世界王者となった史上初の日本人メダリストでもある。

これだけでも、ボクシング・ファンにとってはもはや国民栄誉賞ものなのだが、ウェルター級と並ぶ最激戦区のミドル級でやってのけたのだから、まさしく破天荒と表する以外にない。

そして、あらためて言及するまでもないと思うが、東洋圏から出現したミドル級の世界チャンピオンは、1930~40年代にかけて米本土で活躍したセフェリノ・ガルシア(比)、90年代を代表する日本人王者の1人,竹原慎二と村田の3人だけ。


※画像/160ポンドのトップに立った東洋の3王者・左から:セフェリノ・ガルシア(1939年10月~1940年5月/ニューヨーク州公認王者/V1)/竹原慎二(1995年12月~1996年6月/V0),村田(第1期:2017年10月22日~2017年5月20日/V1・第2期:2019年7月12日~V1/合計V2)


東洋圏のボクサーによるミドル級王座奪取は、150年近い近代ボクシングの歴史上、たった3名しか成し遂げられなかったミラクルであり、今後2度と現れないかもしれない異能と表して間違いない。

ガルシアには「2度防衛説」もあるけれど、公式に確認されている防衛回数は1回。3階級同時制覇の伝説的拳豪,ヘンリー・アームストロングとも拳を交えたガルシアは、大変残念なことにNBA(WBAの前身)のベルトを巻くことができなかった。

それだけが理由ではないが、ガルシアを正統の世界チャンピオンと呼ぶことに意義を唱え、実際に王者として認めない識者とヒストリアンも少なからずいる。

ガルシアと同時期に米本土で活躍して、ニューヨーク州公認のフライ級王者(1935年9月~1937年1月/V1)となったフィリピンの雄スモール・モンタナもまた、やはりNBAのタイトルを獲得することができず、東洋初の世界王者パンチョ・ビラ(ビリャ)の後に続く王者とみなされていない。


アルゼンチンのスーパー・タフガイ,ホルヘ・カストロから必殺の左ボディで奪い、スーパーも暫定も休養もゴールドもいなかったWBAの王座に就いた竹原は、眼疾(網膜はく離で3度の手術)の影響も大きかったけれど、ウィリアム・ジョッピーとの初防衛戦でTKO負け。防衛することなく引退を余儀なくされた。

そして村田のベルトは、WBOを除く3団体を統一したゴロフキンと、1階級に最低でも3人の王者を平然と並立させるWBAのチャンピオンシップ運営のお陰で得たものであり、村田自らが認めている通り(ボクサー個人の責任ではけっしてないが)、大変残念なことに、世界チャンピオンとしての正当性を主張することには無理がある。

GGGとのドリームマッチが幻に終わり、ララでもアンドラーデでも誰でもいいけれど、適当なオポジションやチャレンジャーにベルトを奪われて引退ということになれば、在米識者とヒストリアンたちの視界から村田の存在は消え失せるだろう。

だからこそ、記事の冒頭に記した発言(ファンは自分より強い本物の王者がいることを熟知している)になったのだが、村田は一度失ったベルトの奪還に成功しており、それぞれ1度づつ、合計2回の防衛に成功している。


GGGとの対戦が陽の目を見て、なおかつ特大のアップセットを引き起こして勝利を収めることができれば、村田に対する(歴史的な)評価が一変するのは間違いない。

ちなみに、近代ボクシングが産声を上げた19世紀後半以来、最激戦区の称号を脈々と受け継ぐウェルター級の頂点に立った東洋人は、遂に引退を表明したマニー・パッキャオただ1人。

ヘビー級とともに近代ボクシングの歴史を築いてきたミドル,ウェルター,ライトの3階級は、東洋圏のボクサーにとって挑戦すること自体が難しい分厚い壁であり、「高嶺の花」であり続ける。


ゴロフキンもまた、世界選手権(金)と五輪(銀)でメダルを獲得したトップ・オブ・ザ・トップの1人で、プロでも一度はP4PのNo.1に輝いた別格的な存在。


※写真上/アテネ五輪・左から:ゴロフキン(銀),ガイダルベク・ガイダルベコフ(金/ロシア),スリヤー・プラーサントヒンピマーイ(銅/タイ),アンドレ・ディレル(銅/米)
※写真下:2003年世界選手権(バンコク)で金メダルを獲得した若きゴロフキン


アマチュア時代の華々しい戦果は、プロでの成功を約束保証してはくれないけれど、高く分厚い壁を乗り越えてヒマラヤの頂きに一度は立った男と、今まさに8合目に立って頂上に挑まんとする2人の男が、鍛え上げた己の拳と頭脳と肉体のすべてを懸けて対峙する。

KO必至の魅力溢れるカードに背を向けるTV局と配信会社は、いったい何をどうしたいのか。

より多くのファンに観戦を呼びかけ、視聴者数を増やす努力をするのが、プロモーターとTV局が果たすべき最大の責務ではないのか。


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■GGGと村田は旧知の間柄

村田はプロ・デビューした翌年、2014年7月上旬に、ビッグベアにあるゴロフキンのキャンプを訪れている。

そこで10日間、村田はゴロフキンとトレーニングを共にした。勿論スパーリングも行われたが、GGGは7月26日にダニエル・ギール(豪/WBAとIBFの統一王座を失った直後)との防衛戦を控えていた。

会場はニューヨークの殿堂マディソン・スクウェア・ガーデン。これまでGGGは5回MSGのメイン・アリーナに登場しているが、その初陣に当たる。

2012年に米本土に活動拠点を移して以降、GGGは無名の下位~二桁台ランカーを相手に、15~25万ドルのギャランティ(軽量級の王者と同等)で我慢を強いられていた。

既に丸腰になっているとは言え、直前まで2本のベルトを巻いていたギールとの対戦は、渇望するビッグファイトを引き寄せる為にも、良い勝ち方(できれば前半でのKO)が求められる重要な試合だった。


追い込みに入ったGGGをヘルプするという一応の建前はあったけれど、承知の通りギールと村田はまったくタイプが違う。

プロ入りしてファイト・スタイルに迷うロンドンの金メダリストを、プロとしての成功に近付きつつあったアテネの銀メダリストが、快く迎え入れてくれた格好。

渡米後のGGGを長く支えたチーフトレーナー,アベル・サンチェスが、念願叶ってビッグベア(カリフォルニア州内の著名な景勝地でアスリートの高地トレーニングでも有名)に開いた宿泊施設付きのジムで、王国アメリカでの認知を得る為に懸命の努力を続けるGGGと一緒に、村田はいい汗を流した。


※旧チーム/左から:トム・レフラー(GGGを支え続けるマネージャー/現在はプロモーターに転身),GGG,アベル・サンチェス(前任のチーフ・トレーナー)


GGGとのスパーを経験した村田は、モンテカルロであえなく撃沈した石田順裕と異口同音に、「尋常ではないパンチの硬さ」に言及している。

「右が強いのはわかってましたけど、左ジャブが凄い。あんなに硬くて痛いパンチを受けたのは初めてです。」

独特の「後傾バランス」と「異常に硬い拳&驚異的なパワー」で、思うがままにKOを量産してきたGGGもトシには勝てない。一番良かった頃の決定力を望むのは難しく、もともと鉄壁とは言いづらいディフェンスの穴も増えて大きくなった。


パックマン&ローチ,フロイド&ロジャー・メイウェザー,ウラディーミル・クリチコ&エマニュエル・スチュワートに肩を並べる名コンビと称され、円満な関係を露ほども疑われなかったサンチェスを、DAZNとの契約を機にGGG(チーム)は更迭。

亡くなる直前のマニー・スチュワートの遺言で、クリチコ弟のコーナーを引き継いだクロンクの住人ジョナサン・バンクスが、後継のチーフに就任。



デレヴィヤンチェンコ戦の苦戦を理由に、バンクスもまた更迭の憂き目に遭うのではないかと思ったが、幸いにも関係は継続して、シェルメタ戦もバンクスが担当した。


現代のトップボクサーの多くが、大事な試合を落としたり、負けないまでもミソの付く試合をやったりすると、すぐにチーフトレーナーを交代するケースが目立つ。

先鞭をつけたのは、キャリアを左右する試合の都度、猫の目のようにチーフを変え続けたデラ・ホーヤだと思うけれど、キャリアの最終盤にトレーナーをチェンジするのは勇気が要る。

ミゲル・コットとフレディ・ローチのように上手く行く場合もあれば、デラ・ホーヤからフロイド・メイウェザー・シニアを借り受けたリッキー・ハットンのように、大失敗に終る事もある(パッキャオに壮絶な2回KO負け)。


GGGのチームから契約の終了を申し渡されたサンチェスは、悔しさを押し殺して次のように語った。

「今の気持ちを、一言で言い表すのは難しい。彼(GGG)とは親子のような関係だった。決めたのは彼のチームであり、彼との間に(わだかまりや軋轢)は何もない。残念だが、彼も私もプロである以上仕方がない・・・。」

メイウェザーとの再戦を実現する為に、PBCへの参入を決めたパックマンが一旦ローチと離れた時、「彼のスタッフから(別れを)告げられた。」と、ローチも寂しそうに話していた。

ローチとパックマンは目出度く(?)復縁したが、GGGとサンチェスはどうだろう・・・?

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