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大英帝国の逆襲 I /WBSSの覇者C・スミス,話題の異端児J・ケリーが米国初見参,女帝ケイティも4団体統一へ - A・ジョシュア VS A・ルイス アンダーカード プレビュー -

2019年06月02日 | Preview

<1>6月1日/MSG N.Y./WBA世界S・ミドル級タイトルマッチ12回戦
※WBCダイヤモンド王座も懸けられる
スーパー王者 カラム・スミス(英) VS WBA13位/元WBAミドル級王者 ハッサン・エンダム・ヌジカム(仏)



WBSS(World Boxing Super Series)の第1シーズンに出場し、決勝でジョージ・グローブスを7回KOに屠って引退へと追い込み、S・ミドル級の覇者となったカラム・スミスが、満を持して米国デビュー。

トーナメント初戦(準々決勝)で獲得したWBCダイヤモンド王座に加えて、グローブスから奪い取ったWBAスーパー王座を携え、ニューヨークの殿堂マディソン・スクウェア・ガーデンのメイン・アリーナで迎え撃つのは、日本のファンにもすっかりお馴染みとなったハッサン・エンダム7・ヌジカム。

村田とのリマッチ(2017年10月)に完敗した後、1年以上のスパンを開けて昨年暮れに渡英。ジョシュ・ウォーリントンがカール・フラプトンを振り切ったIBFフェザー級タイトルマッチの前座で、GGGやフェリックス・シュトルム,アルトゥール・アブラハムらに善戦したマーティン・マレーを2-0のマジョリティ・ドローに下して再起していた。


S・ミドル級での調整も過去に数戦経験済みとは言え、35歳のヌジカムに伸び白を期待するのは酷で、気が遠くなるほどかけ離れたオッズを確かめるまでもなく、「判定まで持ち込めたら大したもの」との前評判は、極めて妥当かつ適正な評価と言える。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Bovada
C・スミス:-4000(1.025倍)
ヌジカム:+1300(14倍)

<2>5dimes
C・スミス:-4000(1.025倍)
ヌジカム:+2000(21倍)

<3>SportBet
C・スミス:-3700(約1.03倍)
ヌジカム:+2300(24倍)

<4>ウィリアム・ヒル
C・スミス:1/50(1.02倍)
ヌジカム:12/1(13倍)
ドロー:25/1(26倍)

<5>Sky Sports
C・スミス:1/33(約1.03倍)
ヌジカム:12/1(13倍)
ドロー:25/1(26倍)


長兄ポール(36歳/S・ミドル級),次男スティーブン(33歳/S・フェザー級),三男リアム(30歳/S・ウェルター級)とともに、4人兄弟全員がプロボクサーというリヴァプールのボクシング・ファミリーに生まれ育ったカラムは、ロンドン五輪への出場を逃してプロに転じてから、無傷の25連勝(18KO)中。

WBSS第1シーズンのS・ミドル級は、メジャータイトルの王者がグローブス1人きりで、4団体の王者がすべて揃ったクルーザー級に比べて見劣りしたのは事実である。話題の中心は、同じブロックに入ったクリス・ユーバンク・Jr.とグローブスの対決のみという寂しさだったが、好調を維持するカラムがグローブスをまさかのノックアウトで追い落とし、一躍168ポンドの寵児となる。



プロモーターのエディ・ハーンが、GBPを率いるオスカー・デラ・ホーヤにカネロとの大一番(WBA内のスーパー VS 正規統一戦)を打診中とあって、在米メディアの関心は高い。

年齢相応の老いは避けられないが、確かな技術に顕著な錆付きはなく、誰と戦ってもしぶとく食い下がり、一定のレベルで試合を作るヌジカムをすっきりとした内容で突き放すことができるかどうか。


コーナーを守るジョー・ギャラガー(リング誌が2018年度のトレーナー・オブ・ジ・イヤーに選出)は、3人の兄弟以外にも、スコット・クィッグ,アンソニー・クローラ,ポール・バトラーらをサポートするベテランで、「彼(ヌジカム)の事は良く知っている。対策?。カラムが普通にやってくれれば何の問題もないが、まあ抜かりはないよ。」と余裕綽々。



サイズだけならヘビー級でもおかしくない大型にもかかわらず、スピード&アジリティに不足はなく、パンチング・パワーも充分。チャンスにし止め損ねると集中を欠いて攻防のキメが粗くなり、余計な被弾で反撃を許す悪い癖も大分修正され、長丁場における安定感もアップした。

正攻法のボクシングだけに、歴戦のカメルーン人にとっても手が合うタイプにはなるが、体格&パワーの違いは大きく、2020年中にカネロ戦を引き当てる為にも、判定,KOのいずれにせよ、手際よくヌジカムに対処する姿を披露したい。


◎スミス(29歳)/前日計量:167.6ポンド
戦績:25戦全勝(18KO)
アマ戦績:不明
2012年ロンドン五輪欧州最終予選銅メダル(L・ヘビー級)
2010年コモンウェルス・ゲームズ銀メダル(ウェルター級)
2011年ABA(全英)選手権優勝(ミドル級)
2008年ユースABA(全英)選手権優勝(ウェルター級)
2007年ジュニアABA(全英)選手権優勝(L・ウェルター級)
身長:191センチ,リーチ:198センチ

◎ヌジカム(35歳)/前日計量:166ポンド
WBAミドル級暫定王者(WBA.WBO同級元暫定王者)
戦績:40戦37勝(21KO)3敗
アマ通算:84戦77勝4敗3分
2016年リオ五輪L・ヘビー級代表(初戦敗退)
2004年アテネ五輪ミドル級代表(ベスト8)
※いずれもカメルーン代表
身長:180.5センチ,188センチ
※村田第2戦の予備検診データ
右ボクサー



○○○○○○○○○○○○○○○○○○

□リング・オフィシャル:未発表


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<2>WBA・WBC・IBF・WBO4団体統一女子世界ライト級王座統一10回戦
3団体統一王者 ケイティ・テーラー(アイルランド) VS WBC王者 デルフィーヌ・ペルスーン(ベルギー)



主要4団体の完全制覇を目指すアイルランドの女帝ケイティが、残る1つWBC王座の吸収に乗り出した。成功すれば、ウェルター級のセシリア・ブレークフス(ノルウェイ/コロンビア),ミドル級のクラレッサ・シールズ(米)に続いて、3人目の快挙ということになる。

緑のベルトを保持するデルフィーヌは、鉄道警察官との二束のワラジをこなす才女で、元々柔道の選手だったという。ボクシングに転向した時期や動機は判然としないが、2009年にプロデビューした10年選手。唯一の敗北は修行時代(2010年11月/8回戦)に喫したもので、ゼルダ・テキンという同胞の無名選手に4回TKO負け。

1ヶ月前に6回戦で顔を合わせており、経緯や詳細はわからないが、第2ラウンドでデルフィーヌが反則勝ちを収めている。1ヶ月後に組まれたダイレクト・リマッチで、よもやの雪辱を許してしまった格好だ。


この黒星を最後に、ここまで8年半に渡って無敗を維持。年間3~4試合をコンスタントにこなして経験と実績を積み、2011年3月欧州(EBU)王座を獲得。このベルトを一度守った後、2012年2月にWIBF(※)の王者となる。
※主要4団体が女子の王座を承認する以前から活動していた老舗団体の1つ

さらに同年9月には、エリン・マクゴーワン(豪)を7回TKOに下して、IBFの初代王者となっているが、1度も防衛することなく返上。WIBF王座の防衛をコツコツ続け、GBU,WIBA,WBFの3団体を制したルチア・モレッリ(伊)に10回TKO勝ちを収め、WIBFと併せて4つのベルトを保持(2013年12月)。

WBC王座を獲得したのは、2014年4月。エリカ・アナベラ・ファリアス(亜)を地元で3-0の判定に下して以来、丸5年に渡る在位で9連続防衛中(4KO)。伏目となるV10で、初渡米が実現した。

2015年にスイスで一度戦ったことがあるだけで、国外へ出るのは2度目だが、打倒ケイティに賭ける意気込みは本物でモチベーションも高い。

「ケイティがこの階級で最強を名乗るに相応しい実力者であることに、疑いを差し挟む余地はない。彼女はアマチュアで素晴らしい成績を残して、人気も知名度も評価も私よりずっと上だけど、身長とリーチだけじゃなく、プロとしての経験と実績では私に分がある。」

「彼女のような最高の選手を相手に、しかもこのような大きな舞台で、ライト級のNo.1を証明するチャンスを得た。勝利を譲るつもりはありません。」


3団体を統一して受けて立つ立場のケイティもまた、「デルフィーヌはWBCのベルトを9度も守り、10年近く負けていません。世界的に見ても、最強の選手の1人です。アマ時代も含めて、おそらく私のキャリアで最も手強い相手になるでしょう。」と語り、まずはリスペクトを表明。

その上で、「4団体のタイトルをすべて手にする機会は、そう簡単に得られるものでありません。デルフィーヌは強い決意で挑んで来るでしょう。タフな試合になるのは間違いないけれど、私も勝利のみを目指している。」と揺るぎない自信を述べる。

さらには、リング誌が昨年のクラレッサ・シールズ VS クリスティーナ・ハマー(独/カザフスタン)戦に続いて、女子史上2番目のタイトルマッチを承認したことにも言及。

「リング・マガジンが伝統のチャンピオン・シップを認めてくれたことを、本当に嬉しく、そして誇りに思います。この試合に勝って、5つのチャンピオン・ベルトを手にしたい。」

気負いが感じられなくもないデルフィーヌに比べて、4戦続けての米本土参戦となるケイティは、興行を主催するエディ・ハーンとともに余裕の笑みを絶やさない。フェイス・オフでも一瞬火花は散るものの、笑顔とシェイク・ハンドで綺麗に離れる淑女ぶり。




気になる賭け率は、圧倒的な差でケイティを支持。プロ入りしてからずっと母国で戦い続け、米国のみならず英国やドイツでの試合経験もないデルフィーヌは、自ら認めている通り米国内での認知は皆無に等しく、大差が付くのも致し方無し。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Bovada
ケイティ:-1800(約1.06倍)
デルフィーヌ:+850(9.5倍)

<2>5dimes
ケイティ:-1500(約1.07倍)
デルフィーヌ:+1000(11倍)

<3>SportBet
ケイティ:-1656(約1.06倍)
デルフィーヌ:+800(9倍)

<4>ウィリアム・ヒル
ケイティ:1/12(約1.08倍)
デルフィーヌ:6/1(7倍)
ドロー:20/1(21倍)

<5>Sky Sports
ケイティ:1/16(約1.06倍)
デルフィーヌ:8/1(9倍)
ドロー:20/1(21倍)


女子にしては充分大柄な部類に入るデルフィーヌは、本格派の右ボクサーファイター。パンチは重く、フィジカルの強さもまずまずだが、女子特有のドアスウィング(筋力で劣る女子選手は男子のようにキレるパンチが容易に打てない)+押すような打ち方がどうしても気にかかる。

サイズを考えれば機動力もけっして不満を感じるレベルではないが、”女子離れ”したケイティのスピード&シャープネスとの比較は流石に厳しく、いつも通り3冠王の調整が万全で、試合中のアクシデント(バッティングによるカットや突発的な故障)が無ければ、中差程度の3-0判定でケイティの勝利は堅い。


◎ケイティ(32歳)/前日計量:134.6ポンド
戦績:13戦全勝(6KO)
アマ戦績:155勝7敗
2012年ロンドン五輪金メダル
世界選手権5連覇
2014年済州島(韓国),2012年秦皇島(中国),2010年バルバドス(西インド諸島),2008年寧波(中国),2006年ニューデリー(インド)
2016年アスタナ(カザフスタン):銅メダル
欧州選手権6連覇及びEU選手権5連覇
2015年ヨーロピアン・ゲームズ(バクー/アゼルバイジャン)金メダル
※階級:ライト級
身長:165センチ,リーチ:166センチ
右ボクサーファイター

◎デルフィーヌ(34歳)/前日計量:130.6ポンド
戦績:44戦43勝(18KO)1敗
アマ戦績:不明
身長:175センチ
右ボクサーファイター



デルフィーヌの計量が軽過ぎると、ご心配になる方々がおられるかもしれない。しかし、彼女は直近の2試合を131ポンド,129ポンド1/4で調整しており、WBC王座の防衛戦では、最も重い時でも133~134ポンドの間で仕上げてきた。ケイティのスピードに対抗する為、今回無理に絞り込んできたという訳ではけしてない。


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□リング・オフィシャル:未発表


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<3>WBAインターナショナル ウェルター級タイトルマッチ10回戦
王者 ジョシュ・ケリー(英) VS レイ・ロビンソン(米)



ナジーム・ハメドを彷彿とさせるノーガードの変幻自在なスタイルを操り、国際的な認知を高めつつあるケリーが、いよいよ王国アメリカに上陸。偉大なP4Pキングと同じ名前を持ち、一時はプロスペクトとして期待もされた黒人サウスポーとの10回戦は、正直なところ期待外れのマッチメイクとも言えるし、「いや、プロ10戦目のテスト・マッチならこれで充分か・・」と納得できなくもない。

イングランド北東部の港湾都市サンダーランド出身のケリーは、幼い頃からサッカーとボクシングに熱中していたという。地元のプロチーム,サンダーランドAFCのユース・アカデミーに進んだというから大したものだが、実父ポールの手解きでボクシングも続けていたケリーは、10代前半で人生の重大な決断を迫られる。

「このままサッカーで頂点を目指すべきか、それともボクシングで世界一(五輪の金メダルとプロの世界王座)になるか・・・」


かのウェイン・ルーニーもボクシングとフットボールの二刀流で、プロ契約を目前にしていたエバートンから、「本気で成功したいのなら、いい加減1本に絞るべきだ。」と忠告され、15歳でボクシングジムへ通うのを止めたが、ケリーが見切りを着けたのはフットボールだった。

「1対1で戦うボクシングの方が、性に合っていると思ったんだ。サッカーは90分間走りっ放しで大変だしね(笑)。」


ボクシング1本に絞ったケリーは、父だけでなく、同じサンダーランド生まれの元五輪代表選手トニー・ジェフリーズのサポートも受け、ジュニアの地方大会ですぐに活躍を開始。”白人離れ”した独特のムーヴィング・センスと、センシブルかつスピーディなファイト・スタイルで、瞬く間に注目の存在となったらしい。

「確かにハメドの試合は良く見たけど、影響を受けたのは彼だけじゃない。シュガー・レイ・レナードとウィリー・ペップのビデオも、穴が開くほど熱心に見た。彼らがアイドル?・・・そうだね。」

まさかウィリー・ペップの名前が、ケリーの口から出てくるとは思わなかった。多くのヒストリアンや識者たちから、「史上最高のディフェンス・マスター」の尊称で呼ばれるフェザー級のレジェンドは、類稀なハンド&フットスピードと眼の良さを誇り、「1発もパンチを出さず、華麗なディフェンスワークだけでポイントを取った」という逸話はつとに有名だ。

ケリーが使う挑発半ばのノーガードと、左右のスイッチ(流れの中でごく自然に軸足を切り替えるシフト・ウェイト)を含む変則的なヘッド&ボディムーヴは、ペップやニコリノ・ローチェ,パーネル・ウィテカーら、ごく限られた歴史的偉人の域には及ばないながら、大きな可能性を感じさせてくれる。


ABA(全英)選手権で結果を残し、2012年のユース世界選手権(アルメニア)に派遣されると、見事銅メダルを獲得。シニアに進んでからも代表チームの常連となり、2015年のヨーロピアン・ゲームズ(アゼルバイジャン)でも銅メダルに輝くと、リオ五輪前年の世界選手権に出場。

ベスト8でモハメッド・ラビー(モロッコ)に敗れてしまい、代表枠の確保はならなかったが、欧州最終予選へのエントリーを見送り、文字通り最後のチャンスとなる2016年6月の世界最終予選(突如として発表された既存のプロ受け入れ=完全オープン化に伴うクォオリフィケーション)で準決勝進出を果たす。

セミ・ファイナルで破れたスレイマーヌ・シソコ(仏)が優勝した為、5つしかない代表枠の1つを死守。
※シソコも今回のN.Y.興行に呼ばれており、8回戦に登場予定

五輪への切符を手にしたケリーは、意気揚々とリオに乗り込む。エジプト代表を破り初戦(R32)を突破すると、2回戦(R16)でぶつかったのが、優勝候補に挙げられていたカザフスタンのダニヤル・イェレウシノフ。

サウスポーのカザフ人は、ケリーに引けを取らないボディワークの名手で足も良く動く。高度な駆け引きとテクニックの応酬を仕掛けられ、カウンターを取り合う技術&神経戦となったが、僅かな隙を突かれたケリーは右フックでダウンを奪われ、0-3の判定で敗退。

イェレウシノフは順調に勝利を積み重ね、決勝で難敵シャクラム・ギヤソフ(ウズベキスタン/2017年の世界選手権で優勝)をかわして見事金メダルに輝いた。ちなみに今回は呼ばれていないが、イェレウシノフ(7連勝3KO)とギヤソフ(8連勝6KO)もマッチルームと契約してプロ転向済み。




今や英国最大のプロモーターと言っても過言ではないエディ・ハーンは、売り出し中のケリー&金・銀メダリストの3人に、銅メダルのシソコ(8連勝6KO)も加えた四つ巴を計画中。ケリー自身は、直接対決で敗れている金メダリスト(イェレウシノフ)がお目当てらしく、リベンジの機会を熱望している。

アマ時代のケリーは、ガードを上げている時間が長く、ノーガードのまま深い前傾姿勢を取らない(アマでは反則のチェックを受け易い)点を除けば、ファイトスタイルはずっと一貫しており、ほとんど変わっていない。

アマよりも自由度が高く、自分本来の動きを制限せずに済むプロのルールとスタイルなら、雪辱の可能性が拡がるのは確かだろう。

閑話休題。


リオから戻ったケリーは、マッチルームからのオファーに応じてプロ転向。実父のポールが、そのままトレーナー兼マネージャーとして腕を振るうのかと思いきや、チーフ・トレーナーにアダム・ブースを招く。

クルーザー級で3団体を統一した後、ヘビー級に進出して”ロシアの大巨人”ことニコライ・ワルーエフを攻略し、一度はWBAの正規王座に就いたデヴィッド・ヘイとの名コンビで知られるブースは、S・ミドル級に大きな足跡を残したジョージ・グローブス、ミドル級で人気を博したアンディ・リー、WBSSで井上尚弥との対決が期待されていたライアン・バーネットらのコーナーを歴任したベテラン(現在50歳)。



ポールから「是非見てやって欲しい」と頼まれ、一緒にジムにやって来たケリーの動きとパンチを一目見るなり、「この若者は、間違いなく世界チャンピオンになる。」とブースは断言。ポールと上述したジェフリーズは、今もチームの一員としてケリーを支えているが、ヘッドとしてチームをまとめるブースへの信頼は厚い。


フィラデルフィア出身のロビンソンは、麻薬中毒で暴力癖のある父から虐待を受け、階段から放り投げられて首と脊椎を損傷。自分のお尻の骨を移植する大手術を受け、一命と健康を何とか取り留める。この父から逃れる為、母と6人の兄弟姉妹とともにホームレスの避難所で4年暮らすなど、艱難辛苦の少年時代を経てプロボクサーになった。

「すぐに信じては貰えないかもしれないが、酷い飢えと貧困は現代のアメリカにも存在する。雨漏りのする小さな部屋で、私たち7人の家族はたった2つしかないベッドを分け合い、空腹を抱えたまま眠れない夜を幾晩も過ごした。」

「母は私たちのために死に物狂いになって働いたが、良い稼ぎは得られない。1日も早く仕事に就いて母を助けたかったけど、首に大怪我を負った子供に出来ることなどタカが知れている。家族と一緒に暖かく清潔な部屋に住み、みんなでお腹一杯食べたい。ただそれだけの為に、私はボクサーになった。そして実際に、ボクシングは私たち家族の命を救ってくれた。」


絶望の淵から蘇っただけでなく、ボクシングで身を立てようと必死になって練習に励むロビンソンを導いたのは、ハワード・モーゼス・モズリーというトレーナーだった。

「彼が助けたのは私だけじゃない。貧しく恵まれない多くの子供たちの面倒を見て、本当の父親のように接してくれた。彼がいなかったら、今の私もいない。」

ジュニア・オリンピックとシルバーグローブスでの活躍が認められ、早くから代表チームに召集されたロビンソンは、国際大会を経験して成長。奨学金を得てミシガンの大学へ進んだが、2006年に二十歳でプロデビュー。

「とにかく金を稼ぎたかった。明日のメダルよりも、今日の食事が先だった。」


ボクシングの歴史に燦然と輝く英雄と同じ名前で戦い続けるべきかどうか、「随分悩んだ」という。変に比較されても大変だし、売名行為と受け取られかねない。適当なリング・ネームを付けた方がいいと、わざわざ勧めてくれる関係者もいたらしい。

「偉大なシュガー・レイはリング・ネーム(本名はウォーカー・スミス・Jr.)だけど、私の場合は本当のバース・ネームだった。そのままでいいと覚悟を決めた。」


デビュー戦を担当したリング・アナウンサーが、シュガー・レイと識別する目的でコールした”The New”を、そのまま拝借してキャッチフレーズにする。

11連勝(4KO)をマークして記者とファンの認知をアップさせたが、12戦目でブラッド・ソロモン(ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝)とのホープ対決に惜敗すると、続く初の10回戦で修行時代のショーン・ポーターに完敗。

この連敗は余りにも手痛く、望んでいた早い出世を阻む原因となったが、ローカル・ファイトで12連勝(8KO)を積み重ねて、ブレイディス・プレスコット(コロンビア)に7回負傷判定勝ち(2017年6月)。

世界ランキングにも名を連ねると、IBF王座への挑戦権を懸けたエリミネーター出場のチャンスが巡って来る。対戦相手は、亡命キューバ人のヨルデニス・ウガス。北京五輪の代表(ライト級)にまで登り詰めたトップ・エリートも、マニー・ロブレス・Jr.とアミール・イマムに連敗するなど、プロでは厳しいキャリア・メイクを強いられていた。

後が無い者同士のサバイバル・マッチでもあった訳だが、第1ラウンドにいきなりダウンを奪われたロビンソンは、終了ゴング後の加撃をチェックされ第4ラウンドに減点を食らった挙句、第7ラウンドにダウンを追加されてTKO負け。
※ウガスは今年3月WBC王座に復帰したポーターに挑戦。1-2の判定負けで涙を呑む。


新生ロビンソンのキャリアもここまでかと誰もが考えたが、今年の3月30日(クァドラティロ・アブドゥカハロフと小原佳太のエリミネーターが行われた地元フィラデルフィアでの興行)、やはり北京五輪代表組みのエギディウス・カヴァリアスカス(リトアニア)と対戦。KO負けの予想が大半を占める中、1-0のマジョリティ・ドローまで粘ってファンを驚かせる。

この大善戦で首の皮一枚つながったロビンソンに、話題のケリー戦を断る理由はない。ウガスに敗れた直後、「ここまで辿り着くのに12年かかった。また這い上がるのは、容易な事じゃない。」と率直に語っていた。

「アンダードッグには慣れっこだよ。プレッシャーという点では、大きな期待を背負ってイングランドからやって来る彼の方が大変だと思う。ユニークなスタイルの持ち主だからこそ、ただ勝つだけではファンに満足して貰えない。まあ、見ててくれ。大きな事は言えないけど、戦い方がない訳じゃない。」


意外に接近したオッズは、プロ・キャリアの浅いケリーに対する不安があるからだろう。S・ウェルター級の元コンテンダー,カルロス・モリナをコントロールして、WBAインター王座を奪取した昨年3月の白星が、プロ入りしてから上げた最大の戦果になる。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Bovada
ケリー:-650(約1.15倍)
ロビンソン:+425(5.25倍)

<2>5dimes
ケリー:-650(約1.15倍)
ロビンソン:+475(5.75倍)

<3>SportBet
ケリー:-624(約1.16倍)
ロビンソン:+501(6.01倍)

<4>ウィリアム・ヒル
ケリー:1/6(約1.17倍)
ロビンソン:7/2(倍)
ドロー:22/1(23倍)

<5>Sky Sports
ケリー:1/6(約1.17倍)
ロビンソン:4/1(5倍)
ドロー:22/1(23倍)


ガードを保持して手堅く守りながら、右のリードを軸にしたベーシックな組み立てを崩さす、着実にポイントメイクするロビンソンと、「最も優れたハメド・クローン」との例えに相応しく、異端と正統の狭間を自由に行き来するケリーは、まさしく好対照のボクシング。

エディ・ハーンの目論見通り、気鋭の異端児がベテランの正統を難なく突破するのか、ベテランの域に突入した”The New”ロビンソンが、海千山千の経験と技術を総動員して僅少差の判定を握り、イングランドに強制送還してしまうのか。

三十路に突入して運動量と敏捷性に陰りが見える今のロビンソンに、ケリーのスピード&クィックネスは手に余ると見立てるのが筋ではあるけれど、オーソドックスに対するポジショニングが上手く、サイズでも見劣りがしない。

舐めてかかると、リトアニアのパンチャーよろしく、異端の才能が空転させられる恐れがゼロとまで言い切れないのは、ケリーのムーヴィング・センスとテクニックが、世界王者時代のウィリー・ペップやニコリノ・ローチェ、あるいはオリジンとも言うべき全盛のハメドのように、「手の付けようがない」と表するほどの領域に届いていないからだ。

ケリーの優位は動かし難いが、ロビンソンが強いジャブをしっかり突いて、毎ラウンド一定の時間距離をキープできさえすれば、ご本人が述べたように「やりようはある」と思う。


◎ケリー(25歳)/前日計量:146.4ポンド
戦績:9戦全勝(6KO)
アマ通算:
2016年リオ五輪代表(2回戦敗退)
2015年世界選手権(ドーハ/カタール)ベスト8
2015年ヨーロピアン・ゲームズ(バクー/アゼルバイジャン)銅メダル
※階級:ウェルター級
2012年ユース世界選手権(イェレバン/アルメニア)銅メダル(L・ウェルター級)
身長,リーチとも178センチ
右ボクサーファイター

◎ロビンソン(33歳)/前日計量:146ポンド
戦績:28戦24勝(12KO)3敗1分け
アマ戦績:不明
身長:178センチ
左ボクサーファイター




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”プリティ・ボーイ”のニックネームは、フロイド・メイウェザーにあやかったものではなく、二枚目の童顔がそもそもの発端で、アマ時代からずっとそう呼ばれているとのこと。

「誰がいつ頃言い出したのかはよくわからない。気が付いたら、みんながそう呼ぶようになっていた。(言い出しっぺは)おそらくジムメイトだと思うけど、はっきりとした記憶はない。」



今でこそ髭をたくわえ逞しさを強調しているが、プロ入りする前のケリーは、若い頃のトム・クルーズを思わせるハンサムぶり。ご本人はベイビーフェイスが気に入らないらしく、「もう子供じゃないんだから、いい加減”プリティ・ボーイ”は卒業したい。」と、幾つかのインタビューで答えている。

持たざる者には”贅沢な悩み”としか聞こえず、むさ苦しい髭面よりもすっきりとしてずっといいと思うのだが・・・。


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<4>L・ヘビー級10回戦
ジョシュア・ブァッツィ(英/ガーナ) VS マルコ・A・ペリバン(メキシコ)



リオ五輪L・ヘビー級銅メダリストのブァッツィが、メキシコのタフな元コンテンダーとの10回戦で、念願の米国デビュー戦を迎えた。

左右どちらでも倒すことのできる強打を、力みのない自然な構えとスタンスからスムーズに繰り出す。単発のスピードのみならず、連打の回転もなかなかのもの。昨今の重量級トップアマ出身者の中では、出色の身体能力と表すべきかもしれない。

打たれた際の耐久性や、6ラウンドを超える長丁場でのスタミナ等々、本当の意味で試されるのはこれからだが、6年前にS・ミドル級で世界挑戦経験(WBC王者だったサキオ・ビカに善戦)を持ち、バドゥ・ジャック.ジェームズ・デ・ゲイルとも対戦しているペリバンを引っ張り出してきた。

トルコ出身の元トップ・アマ,アヴ・ユルドゥルムに判定で敗れた前戦(2017年5月)から、丸々2年実戦から離れているのが最大の懸念材料ではあるものの、五輪メダリストの現在地を知る為には、まずまず適任の相手と言える。

ペリバンのモチベーションがしっかりしていて、真面目に調整している前提にはなるが、それでも中盤まで持つかどうか。


◎ブァッツィ(26歳)/前日計量:174ポンド
戦績:10戦全勝(8KO)
アマ戦績:不明
2016年リオ五輪銅メダル
2016年リオ五輪欧州最終予選金メダル
2015年世界選手権(ドーハ/カタール)2回戦敗退
2015年プレ五輪(リオ/ブラジル)金メダル
2015年欧州選手権(サモコフ/ブルガリア)銅メダル
2014~15年ABA(全英)選手権連覇
※階級:L・ヘビー級
身長:188センチ
好戦的な右ボクサーファイター


◎ペリバン(34歳)/前日計量:172ポンド
戦績:30戦25勝(16KO)4敗1分け
身長:188センチ,リーチ:197センチ
右ボクサーファイター


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エロール・スペンスに痛烈なKO負けを喫した後、昨年11月に2年半ぶりのカムバックを成功させて2連勝中のクリス・アルジェリ(米)が、イングランドの中堅選手トミー・コイル(英)を相手に、前戦で獲得したWBOインター王座(140ポンド)の防衛戦を行う。

また、リオ五輪メダリスト組みの1人で、現在8連勝(6KO)中のスレイマーヌ・シソコ(仏/セネガル/ウェルター級銅)も初渡米。S・ウェルター級の8回戦で、目の肥えたN.Y.のファンのご機嫌を伺う。

そして念願の米国進出を果たしたマッチルームが、GBPとの獲得競争に勝利を収めて傘下に取り込み、プロに転じた18歳のミドル級ホープ,ディエゴ・パチェコ(カリフォルニア出身のメキシコ系移民/アマ75戦超)がプロ4戦目(3連勝2KO/4回戦)に臨む。

やはりマッチルームと契約してプロ入りしたテキサス出身の黒人ミドル級,オースティン・ウィアムズ(22歳/アマ47戦)は、4月のデビュー戦(シーサケット VS エストラーダIIをメインにしたイングルウッド・フォーラムの興行で初回KO勝ち/4回戦)に引き続き、早くも2戦目のリング・イン。