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ネットオヤジのぼやき録

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不正は行われたのか? /振り分け採点の是非と弊害 Part 4 - ロマチェンコ VS T・ロペス ショートレビュー -

2020年11月10日 | Review

■10月17日/ザ・バブル(MGMグランド),ラスベガス/WBA・IBF・WBO世界ライト級王座統一12回戦
IBF王者 テオフィモ・ロペス(米) 判定12R(3-0) WBA・WBO王者 ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)


※写真左:ポスト・ファイト・カンファレンスで記者の質問に答える新統一王者ロペス
 写真右:試合終了直後,控え室に向かう途中で短いインタビューに応じたロマチェンコ


思わぬ敗戦にショックの色を隠さず、リング上でのインタビューに応じることもなく、憮然とした表情のまま足早に控え室へと向かう途中、ESPNのインタビュアーに捕まったロマチェンコは、自らの勝利と再戦への希望を主張した上で、「今は(判定について)争うつもりはない。」と語り、そのまま姿を消した。

MGMグランド内に設けられたプレス・スペースで、恒例のポストファイト・カンファレンスが開かれたが、会場に現れた選手たちの中にロマチェンコはいない。

テオフィモは前王者の欠席に対して、露骨なまでの嫌悪感を示し、ジャッジのスコアリングについて質問が飛ぶと、「採点がどうであれ、勝ったのは俺だ。」と気色ばむ。


「採点に文句があるなら、俺じゃなくジャッジに直接言えよ!」

記者たちに最低限の礼儀とリスペクトを要求したテオフィモの顔には、はっきりとそう書かれていたが、確かにその気持ちはわかる。


◎映像:ポストファイト・カンファレンス
※タイトル:TEOFIMO LOPEZ FULL POST-FIGHT AFTER BEATING LOMACHENKO; HOLDS NOTHING BACK ON "TALK MY SHIT" WIN
https://www.youtube.com/watch?v=C1c0trZbp4I

◎映像:ポストファイト・カンファレンス/フルバージョン
Loma vs Lopez: Post-Fight Press Conference
https://www.youtube.com/watch?v=YccRw7sJq9U


ファン目線のみで言えば、極めて残念かつ遺憾なことではあるが、早々と再戦を拒否したテオフィモは、「これだけはっきりとした点差で勝ったのに、何故リマッチが必要なのか?」と、そう主張していたに違いない。

20世紀のプロボクシングでは、国際的に大きな注目を集める試合にリマッチ(+第3戦)はつきものだった。不可避と表してもいいただろう。ロマチェンコが負けたのは間違いないけれど、再戦の機会は与えられて然るべき。


「再戦をやれば、手の内を知られたロペスに勝ち目は薄い。だからやりたくないのさ。」

ロマチェンコ押しの人たちの間から、批判とも愚痴ともわからない、そんな声が上がりそうだが、「お前も勝ち逃げを決め込むのか?」との謗りを自ら招くのは、最強の称号を名乗るチャンピオンに相応しくない。

「できればやりたくない」と本気で思っていたとしても、このレベルで戦うボクサーたちに、再戦の回避は本来許されてはいけないと、個人的にはそう考える。第1戦以上の展開とパフォーマンスを、否応なしに要求されるのだから、実際に戦うロペスには辛く酷な話だとは思うけれども。


※写真左:会見全般を通じて堅い表情を崩さなかったテオフィモ
 写真右:カンファレンスの後半ようやく笑顔も見られた


また、ポストファイト・カンファレンスを欠席したロマチェンコも、確かに潔くなかった。ロペスが怒るのも無理はない。右肩の状態が原因なら、はっきりとロペス陣営にも伝えるべきだ。トップランクの関係者にその旨を伝えていれば、確実にロペス陣営にも届く。

どんなに強がって見せても、勝者がどちらなのかは、ロマチェンコ自身が一番良くわかっている筈だ。

◎映像:ロマチェンコのポストファイト・インタビュー
※タイトル:Vasiliy Lomachenko: I Will Be Back
Top Ramk公式チャンネル
https://www.youtube.com/watch?v=4EKCIqtKRZE


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■絶対王者かく敗れたり

それでは、ESPNの録画映像を振り返りながら、ハイテク絶対王者がいかにして敗れたのか、スタートの2ラウンズを検証してみたい。

特に重要なのが初回。この3分間で勝敗の趨勢は決したと、そう断じても構わないぐらいの攻防と駆け引きがあったと、個人的(勝手)に考えている。


■第1ラウンド
オフィシャルスコア:ジャッジ3名とも9-10でロペス/ジョー小泉:9-10(L)/管理人KEI:9-10(L)

◎検証用映像1 第1ラウンド冒頭

開始ゴングの直後、先に動いたのはロペス。鋭く重い左ジャブを突き、素早く思い切り良く踏み込んで、右ストレートをロマチェンコのボディへ。ロマチェンコは普段よりも警戒レベルが高く、かなりの距離を取りつつ、さらに大きなステップバック(と前傾姿勢)でボディをかわす。

左回りに大きくリングを使って距離を取り続けようとするロマチェンコに対して、ロペスも前に出てけん制の左リードを数発継続。ロペスのジャブは想像以上にパワーがあり、かつキレもスピードも充分。

ロマチェンコは右構えのロペスが少しでも遠く感じるよう、半身の角度を深めに取る。高いガードの堅持は言うまでもない。

ロペスのパンチは1発もヒットしていないが、スタートとほぼ同時に、ロマチェンコの警戒度数をより一層アップする事に成功。そしてジャブからつなぐストレートの右ボディは、試合全般を通じてロペスのプレッシャーを奏功させるキー・パンチとなった。


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◎検証用映像2 第1ラウンド 26秒~

ロペスはハンド・フェイント気味に弱いジャブを敢えて使い、ロマチェンコの出方を探る。しかし絶対王者に出て来る気配が無いと判断すると、すかさずジャブをトリプルで突いて踏み込み、ロマチェンコがガードを固めてロープを背負うと、ブロックのど真ん中目掛けて強めの右ストレートを1発お見舞いする。

これもあくまで様子見の一貫であり、ロペスも深追いはしない。一旦下がってロマチェンコに仕切り直しの時間を与える。この右もガードを突き破るまでに至らないが、もしもフルパワーで打った場合、ブロックごと吹き飛ばすのではないかと思わせるのに充分過ぎる迫力。

ガードのド真ん中を狙う強めの右ストレートも、ボディと合わせてロマチェンコを下がらせる為に有効な武器となる。


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◎検証用映像3-1 第1ラウンド 1分59秒~

次なる場面は、丁度1分を経過しようとする頃。圧力をかけ続けるロペスに対して、けん制気味の軽いジャブをロマチェンコが振り出した瞬間、そのインサイドを左のスピードジャブでクロス気味に突くロペス。

これが浅く当たり、ロマチェンコは上体を屈めて右サイドへ身体を逃がすも、ロペスはエルボーブロックのやや後方(脇腹)目掛けてパワーアップした右フックを振るう。ロマチェンコは、リングを大きく旋回して離れようとする。

ロマチェンコも本気で打った右リードではないにしても、絶対王者がジャブの刺し合いで遅れを取るのは極めて稀なことで、プロでいい勝負に持ち込んだのは、3戦目でWBOフェザー級の決定戦を争ったゲイリー・ラッセル・Jr.と、WBAのライト級(とリング誌認定王座)を懸けて対峙した、我らがホルヘ・リナレスぐらいではないか。


ハンドスピードだけは定評のあったラッセル(現WBCフェザー級王者)は、なかなか見応えのある攻防を応酬したけれど、ロマチェンコより小さなサイズの不利も影響して、最終的に手数と精度で圧倒された。130ポンドまでの絶対王者は、フィジカルの強度でも容易に遅れを取らない。

また我らがリナレスも、右リードの打ち終わり(引き手が戻り切らないうち)に合わせて、実に鮮やかな右クロスカウンター(井上尚弥がジェイソン・モロニーをフィニッシュしたパンチと理屈はまったく一緒)をヒット。

絶対王者にキャリア初のノックダウンを味合わせて、不利の予想を覆し大奮戦。ファンの溜飲を大いに下げてくれたものの、ラッセル同様止むをことを知らない手数と波状攻撃に疲労を蓄積し、第10ラウンドにまさかの左ボディを食らい、無念のカウントアウトに退いている。


話を元に戻して、リングを旋回しながら逃げるロマチェンコを追う時、多くの対戦者は真っ正直に後をついて行ってしまいがちだ。結局捕まえ切れず、引きずられるようにオフ・バランスとなり、そこをすかさず打たれる悪循環に陥り易い。

しかしロペスは、ロマチェンコが回り込む方向に対して、リングを斜めに横切るように数歩動き、統一王者のステップが止まるタイミングに合わせて正面に相対し、またジャブを突く。実に無駄が無く、無理の無い動き。

さらに短くカットした動画の最後にご注目を。
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◎検証用映像3-2 第1ラウンド 2分15秒~(スロー再生含)

必要最小限の手間と労力でロマチェンコに追いついたロペスは、ジャブで機先を制しつつ、またジャブからボディへの右ストレートで王者にリングを回らせ、さらにジャブで圧力を強めようとする。

するとロマチェンコが、ロペスのジャブに合わせて、自分の右サイド(ロペスの左サイド)へ頭を小さく軽く振りながら鋭くステップアウト。オーソドックスの左サイドの死角に、瞬間移動よろしく回り込む得意のムーヴ。

大概の対戦相手は、ロマチェンコのスピードに目と反応が追いつかず、その場に立ち止ったまま、左のショートアッパーやフックで無防備に近い顔面を狙い打たれてしまう。

ところがどっこい、ロペスは自らも身体を反転させつつ、不十分な態勢ながらも左腕をジャブのように伸ばして、ロマチェンコに打ち返す隙を与えない。

これを見た時、ロペス陣営による対ロマチェンコ対策(研究と分析)の確かさとともに、本番のリングで現実にそれをやってのけるロペスの凄さ、ボクシングセンスと身体能力の高さに脱帽(驚きと感嘆)した。

そして試合の後半~終盤にかけて、遅きに失した感は否めないながらも、絶対王者が意を決して反撃に転じても慌てず騒がず、奏功した戦術的ディシプリンに微調整を加えつつ、土台となる戦略の基本を崩すこともなく、集中力を切らさずに、12ラウンズをフルに戦い抜いたメンタル・タフネスも素晴らしい。


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検証用映像4 第1ラウンド 2分48秒~

続いて登場するのは、第1ラウンドの攻防で私が最も強いインパクトを受けた、最終盤にロペスが見せたディフェンス。

ほとんどまともに手を出していないロマチェンコが、タイソンに影響を受けた上体を左右に振る動きから、1歩踏み込んで右のジャブでヒットを取りに行く。

右構えの相手に対するロマチェンコは、この際前(左)足の外側に逃がすように、巧みにポジションを変えつつ前に出て行くことが多い。

「検証用映像3-2 第1ラウンド 2分15秒~(スロー再生含)」でも述べた通り、ロマチェンコはオーソドックスの左サイド(自分の右サイド)へ一気に回り込んで、死角から左のショートフックやアッパーを狙い撃つ。

実際にロマチェンコは、ジャブを出しながら自分の右前方に踏み出すと、一瞬のうちに、ロペスのほとんど真横(左側)に回り込んでいる。瞬間移動やマトリックスと称される所以だ。


しかしこの時のロペスは、ロマチェンコの動き出しに合わせて、自分の前(左)足を敢えて右サイド(内側)前方に向けて、小さくさりげなく踏み変えている。

そしてロマチェンコの右が届くタイミングに合わせてダッキングし、位置を踏み変えた前(左)足を支点にして、ピボット運動のようにヒラリと我が身を翻す。

非常に素早く、なおかつ柔らかい。そのムーヴィング・センスとスピードに思わず目を見張ったが、思い切り速く身体を回転させてもオフ・バランスにならず、ロマチェンコの正面を向いた時には臨戦態勢が出来上がっている。


絶対王者のお株を奪うかのごとき、鮮やかなディフェンスワーク。瞬間的な反応であるにもかかわらず、軸が大きくブレない安定感も素晴らしい。さしものロマチェンコも、追撃に移ることができず立ちすくむのみ。これは本当に勝手な想像だが、この時ロマチェンコは結構なショックを受けたのではないか。

プロに転向してからの15試合中14試合(海千山千のサリドにしてやられた2戦目を除く)において、これまで自分が一方的にやってきた動きであり、8ポンドのウェイト&パワー・アドバンテージ込みとは言え、あのリゴンドウをも翻弄してみせた。

それが何としたことか、スピードでは絶対的な優位を自他ともに認めていた筈のロマチェンコが、ロペスに逆手を取られている。


※第1ラウンド終了後インターバルに入った直後のロマチェンコ
 この表情から何を読み取るべきか・・・


ロペスと同席する会見(計量を含む)で、常に堅い表情を崩さなかったロマチェンコ。そこに浮かんでいたのは、紛れもない怒りの感情だった。交渉が具体化して以降、事あるごとに挑発的な発言を繰り返してきたロペスに対して、絶対王者が快く思っていなかったのは確かだ。

「この若造が・・・」

けっして声を荒げたりはしないが、言葉の端々に思わず本音が顔を出す。若いIBF王者を上から見下ろしていたことも事実だけに、「勝手が違う」と戸惑いを感じていたように思う。

正直なところ、「気を付けるのはパワーだけ」だと、ロマチェンコと彼の陣営は考えていたのではないか。元々得意にしている左フックと、リチャード・コミーを倒した右ショートのクロスカウンターに注意してさえいれば、後は余裕でコントロールできると考えていた。

ところが現実のロペスは、ルーク・キャンベルを超えるパワーと、ホルヘ・リナレスに匹敵するスピード&敏捷性+切れ味を併せ持ち、その上でロマチェンコも真っ青になるムーヴィング・センスを発揮する。

「迂闊に中に入れない」と、歴戦の絶対王者に自在なステップインを逡巡させるだけの効果が、ラウンド終盤に繰り広げられた、僅か2秒あるかないかの攻防にあったと確信する。


しかも続く第2ラウンド、危険なロペスのパワーショットが抜群のタイミングで襲う。開始40秒を過ぎる頃、左のハンドフェイントに反応したロマチェンコがダック気味に頭を動かすと同時に、ロペスの強い右フックがテンプル付近をかすめる。

後退しながら、ガードを作り直して追撃に備えるロマチェンコに、やはりフェイント半ばの左を振ったロペスは、素早く右から左へちなぐボディフックを2発。いずれもエルボーブロックの上だが、絶対王者は後方へジャンプするように、お腹を凹ませつつ大きく下がった。

さらにロペスは、ニュートラルコーナー沿いに回り込んで離れようとするロマチェンコに、顔面を狙った左フックを1発追加。統一チャンプは肘を思い切り内側に絞り、コンパクトなガードで守りを固めるが。背中にロープが当たり、その反動で前に出てしまう。

そこへロペスが、すかさず右フックを持って行く。これに気付いていたロマチェンコは、ワンテンポ早くダックしながら自分の右方向へ身体を倒し、そのまま円を描いて十八番の回り込み+ステップアウトで回避を図る。

この右フックが逃げる統一王者の左肩の辺りを捉えて、珍しくバランスを崩したロマチェンコがたたらを踏む。

充分な距離が確保できていたのと、早い時間帯でロペスが深追いを慎んでいたおかげで、ロマチェンコには態勢を立て直す余裕があったけれど、ロペスのパワーをあらためて実感させられるシーンだった。


以下の映像は、この場面を前後半の2つに分けたもの。

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◎検証用映像5-1 第2ラウンド 41秒~49秒


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◎検証用映像5-2 第2ラウンド 45秒~49秒



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※Part 5 へ続く