ネットオヤジのぼやき録

ボクシングとクラシック音楽を中心に

中京の星が地域王座にアタック /サラスとの特訓の成果や如何に・・・ - 田中恒成 VS 橋詰将義 直前プレビュー -

2022年06月29日 | Preview

■6月29日/後楽園ホール/WBOアジア・パシフィック S・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者/WBO12位 橋詰将義(角海老) VS 3階級制覇王者/WBO3位 田中恒成(畑中)

OPBF2位に付けていた今年2月、同じく3位の古谷昭男(六島)との決定戦に3-0判定勝ち。OPBF,WBOアジア・パシフィックの2冠を同時に獲得した橋詰が、中京のスター,田中恒成の挑戦を受ける初防衛戦。

自団体が認定する下部(地域・国際)タイトルを獲った選手には、目立った戦果の有無にかかわらず、漏れなく世界ランクの二桁台をオマケしてくれる。力が落ちてきた有名選手を倒すなど、何がしかの実績に加えて、傘下に入っているプロモーターの政治&資金力によっては一桁台もOK。

承認料とのバーターという訳だが、WBOから12位のポジションを得た橋詰は、古谷がIBF15位のランキングを持っていた為、入れ替わるようにIBFでも14位にランク・イン。


大阪出身の橋詰は、170センチのタッパに恵まれたサウスポー。興國高校での本格的なアマチュアの競技活動を経て(ジムに通い出したのは中学時代)、2013年9月に井岡ジムから4回戦(C級)デビュー。

高校で40戦を超えるキャリアがあり、アマ経験者は6回戦(B級)からのスタートが一般的な中、タイトル歴が無かったことも影響したのかもしれない。

アマでは最軽量のL・フライ級だったが、子供から大人へと成長する時期を考慮して、プロではS・フライ級を選択。


タイ人を2人続けて倒すと、新人王戦にエントリー。予選を順当に勝ち上がって、梶川武士(守口東郷)との西日本決勝は初回40秒足らずでKO勝ち。

静岡の雄,櫻井栄太(富士)との西軍代表決定戦も初回ジャスト2分のKOで終らせ、西日本決勝に続くMVPに選ばれると、プロ7戦目にして後楽園ホールに初登場。

内藤大助に比肩し得る人気選手を輩出できず、細川バレンタイン,粉川拓也,福永亮次の主力3選手が相次いで角海老に移籍するなど、一時の勢いを失って久しい宮田ジムの期待を一身に背負う東軍代表,米永章吾と激突(2014年12月)。


第3ラウンドにバッティングで両者がカット。橋詰の傷が深くそのままストップとなり、4回戦ルールを適用(新人王の決勝は6回戦)した負傷判定で、辛くも橋詰の手が挙がる。

アウェイの東都で井岡ジム初の全日本新人王となった橋詰は、「(不本意な結末をファンに詫びつつ)どんな勝ち方でも、とにかく結果を出せて良かった。」と声を震わせた。


40戦超えのアマキャリアがありながら、敢えて新人王戦にチャレンジするプレッシャーも、相当なものがあったのは確かだろう。

こうして日本,OPBFタイトル挑戦への手応えとともに帰阪した橋詰だったが、井岡ジムが用意したマッチメイクは、タイ人アンダードッグとの7連戦(!)。

全日本新人王に与えられる特権で日本ランキング入りはしたものの、12位の二桁台に甘んじるしかない。2015年4月~2017年9月までの2年半、良く腐らなかったものだと感心する。

そして2017年の暮れ、ようやく日本人選手とのマッチアップが実現。岡山の江見ジムから呼ばれた藤本耕太は、ノーランクながらも7勝(2KO)2敗の好レコードを残し、対戦相手はすべて日本人選手だった。


宮田ジム時代の福永亮次(2016年12月/5回TKO負け)と、グリーンツダの8年選手,村井貴裕(2017年4月/8回1-2判定負け)に手痛い連敗を喫してしまい、デビュー以来の連勝を止められた後、明石ジムの杦本健太を地元岡山に招聘して8回3-0の判定勝ち。

ランク入りを目指し、勇躍アウェイの大阪に乗り込んできた藤本は、公称167センチの上背より大きく見える。

左回り(対サウスポーの定石)に固執することなく、丁寧なステップで前後左右に細かく動き、橋詰の右ジャブに左(リード&大小のフック)を合わせ、橋詰が得意にする挑発半ばの低く開いたガードの真ん中を強い右(ストレート&早いフック)を叩き込む作戦。


入念な左対策の跡を覗わせる藤本に対して、序盤の橋詰は特段の警戒をすることもなく、不用意に左から入ろうとしたところへ、狙い通りの右を貰って尻餅を着く(第3ラウンド)。

あくまで、タイミングで倒れただけのフラッシュダウン。ダメージは無いが、早い時間帯での2ポイントのビハインドは痛い。

第4ラウンド以降、ガードを上げて圧力を強める橋詰。互いに1発への意識が顕著になって手数が減り、探り合いの時間が増える。


どちらに振ってもいいラウンドは、ホーム・アドバンテージを持つ橋詰に持って行かれる確率が高い。第7ラウンドにいい右アッパーをヒットした藤本だが、判定は1-0のマジョリティ・ドロー(75-77,76-76,77-77)。

現役を退き公式審判に転身した池原信遂(バンタム級で世界挑戦経験を持つ元日本王者)だけが、2ポイント差で藤本を支持したスコアは甚だ気の毒なものと映ったけれど、もうあと1歩のステップイン,積極性の不足から、中盤の鍔迫り合いを引き寄せ切れなかった。

藤本はスピードとキレのあるワンツーだけでなく、身のこなしやカウンターのタイミングにセンスを感じさせる好選手だったが、三者三様のスプリット・ドローに終ったドロー2018年8月の寺田達弥(ロマンサジャパン)戦以降音沙汰がない。


負けにされても文句の言えない橋詰は、4ヵ月後の2018年2月、藤本に勝っている村井とぶつかり8回3-0判定勝ち。

7月には地力のあるフィリピン人,マージュン・パンティルガンにも3-0判定勝ちを収め、プロ5年目にして遂に日本タイトル挑戦が決定。

時の王者は、15歳で単身タイへ渡ってプロ・デビュー後、帰国して国内再デビューという経緯が話題になった奥本貴之(グリーンツダ)。

奥本も山あり谷ありのキャリアを辿ってきた選手で、「サウスポーのホープ対決」として注目を集めた。


立ち上がりから両者ともに良く動き、右リードから左を合わせに行く。奥本はもっとファイタータイプで攻め込むと思いきや、ボックスで対抗。精度で上回る橋詰が優位に立つ。

調子が出てきた橋詰は、中盤十八番のノーガードで挑発半ばのパフォーマンスまで披露。橋詰のボディ攻撃も効果的で、第6ラウンドには奥本の脚が止まりかけたが、陣営は第7ラウンドを見させて、ハイ・ペースを一旦落ち着かせた。

劣勢を自覚する奥本も、第8,第9ラウンドに攻勢をかけ、打ち合いの最中にバッティングで王者がカット。前半6ラウンズを橋詰が押さえて、第7ラウンド以降は奥本との印象。


最終10ラウンド、橋詰は奥本のボディを攻めて試合をまとめ切ったかに見えたが、判定はジャッジ3名の見解が分かれるスプリット・ドロー(97-93,95-96,95-95)。

載冠を疑っていなかったであろう橋詰は、無念を押し殺しての退場。翌2019年4月、六島ジムと契約したジェイアール・エスティリモス(比)を8回3-0判定に下して再起。

奥本との再戦への期待が高まる中、何故か橋詰が試合枯れ。そのまま武漢ウィルス禍に見舞われ、丸々2年が経過しようかという昨年3月、角海老への移籍が発表された。


心機一転の復帰戦は、昨年7月。全日本の決勝以来、およそ6年半ぶりの後楽園ホールで、JM加古川の湊義生に8回TKO勝ち。

オミクロン株の蔓延で先が見えづらい状況下にもかかわらず、今年2月の古谷昭男(六島)戦をモノにして、OPBF,WBOアジア・パシフィックの王座に就いた。


「(井岡一翔にKO負けした田中が)格落ちの地域タイトルに回ってきた。核の違いを見せる?。口だけなら何とでも言える。リングでわからせるだけ。」

チャンピオンとしての自信とプライドを剥き出しにする橋詰に対して、「KOしか考えていない。世界を実際に獲る人間と、なりたいと思う人間には絶対的な差がある。実力の違いを見せ付ける。」と、田中も揺るぎないKO宣言。


前日計量に姿を現した田中は、髪をコーンロウに編み込んでいた。春先に渡米し、ラスベガスでイスマエル・サラスの薫陶も受けている。

前評判の高さとは裏腹に、いまいちパっとしなかったデビュー直後の一翔のボクシングを一変させ、打倒オーレイドンに大きな役割を果たしただけでなく、父と叔父の下を飛び出して退路を断ち(国内引退→渡米)、復活に懸ける一翔を支えたサラスとの接近。

「何でもいいけど、刺青だけは止めてくれよ・・・。」

余計な世話を焼きたくなる田中の変身に気を揉みつつ、「順当なら田中の3-0判定勝ち」との予想をせざるを得ない。


田中が一番気をつけなければいけないのは、サイズのディス・アドバンテージと橋詰のパンチの重さ。

痛烈なカウンターを効かされてもなお、真正面からバカ正直に攻め込んで墓穴を掘った一翔戦は、「強気の虫」がモノの見事に災いした典型例と表するしかなく、田中が抱える最大の懸念は橋詰に対しても同様。

ディフェンスそっちのけで打ち合いにのめり込む悪癖を、バランス重視のサラスとのトレーニングでどこまで修正・改善できたのか。115ポンドにおける田中の今後を占う意味も含めて、そこが最も重要なキーになる。


橋詰のヒットマン・スタイル(?)は、1歩間違えると単なるルーズガードと化す。上体の動きが少なく直立し易い現代流で、国内・地域レベルでは大きな不満を感じない手足&身体全体のスピードも、世界基準に照らすと明らかに物足りない。

ワールドクラスと対峙した瞬間、あっという間もなく崩壊した勅使河原弘晶(先般引退を表明)のテツを踏む恐れも十分。

田中がスピード重視で慎重に出はいりを繰り返し、橋詰の打ち気と焦りを誘ってカウンターを続ければ、問題なく3-0の判定でゴールテープを切れる筈。


フィジカルのレベルアップ次第では、中盤以降のTKO(KO)も望めるけれど、倒して勝つことへの色気を自ら抑制する術も、田中が4つ目の階級を制する為には欠かせない条件となる。

スポーツブックのオッズは、相変わらず微妙なところを突く。国際的な認知とは無縁な、現時点における橋詰のボクシングを、海外のマニアたちがどこまで把握しているのかは不明。

動画配信サイトで幾つかの映像は確認できるが、直近のフルファイトを無料で視聴することはできない。にもかかわらず、数値の乖離は妥当と思えるラインに落ち着くのだから、これはこれで大したものだ。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>5dimes
田中:-400(1.25倍)
橋詰:+335(4.35倍)

<2>betway
田中:-450(約1.22倍)
橋詰:+300(4倍)

<3>Bet365
田中:-455(約1.22倍)
橋詰:+300(4倍)

<4>ウィリアム・ヒル
田中:2/9(約1.22倍)
橋詰:3/1(4倍)
ドロー:16/1(17倍)

<5>Sky Sports
田中:1/4(1.25倍)
橋詰:3/1(4倍)
ドロー:16/1(17倍)


◎橋詰(28歳)/前日計量:114.8ポンド(52.1キロ)
戦績:21戦19勝(11KO)2分け
2014年度全日本新人王
アマ戦績:46戦36勝10敗
興國高校(インターハイ出場経験有り)
身長:170センチ
左ボクサーファイター


◎田中(27歳)/前日計量:114.6ポンド(52.0キロ)
前WBOフライ級(V3/返上),元WBO J・フライ級(V2/返上),元WBO M・フライ級(V1/返上)王者
戦績:17戦16勝(9KO)1敗
世界戦通算:9戦全勝(4KO)
アマ通算:51戦46勝(18RSC・KO)5敗
中京高(岐阜県)出身
2013年アジアユース選手権(スービック・ベイ/比国)準優勝
2012年ユース世界選手権(イェレバン/アルメニア)ベスト8
2012年岐阜国体,インターハイ,高校選抜優勝(ジュニア)
2011年山口国体優勝(ジュニア)
※階級:L・フライ級
身長:164.6センチ,リーチ:167センチ
※井岡一翔戦の予備検診データ
右ボクサーファイター


●●●●●●●●●●●●●●●●●●

■リング・オフィシャル:未発表

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« S・バンタムの4団体統一実現... | トップ | 昇竜マグニフィコに名匠ナチ... »