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禅のことば「眼横鼻直」

 

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 眼横鼻直(がんのうびちょく)

 

道元禅師は、中国での修行を終え、日本に帰ってきた時の心境を、「眼横鼻直」と、述べている。眼は横に並んで着いているし、鼻は眼の間に真っ直ぐに着いている。大切な当たり前のことを当たり前に見つめ、行持ぬく大切さを説く。


大鷹

      ◇ ◇ ◇  ○  ◇ ◇ ◇
  

実際に、私たちは自然や社会の中に生きています。そこには、ありとあらゆるものがすべてつながっていて、自分自身でも思い至らない奇跡的な大きな命が、脈々と時を刻んでいることにハッとさせられます。特段、新しいことをしなくても、そのことに気が付くだけで、大切な行動を踏み出すエネルギーとなることでしょう。道元禅師の教える世界は、様々な思い計らいを離れて本来の脈々と動いていた「あるべきしてある真理」を見据えて、大切な今を生きぬくことであります。

 『眼横鼻直』からは、そんな原点の大切さに気付かせてくれる明日への活力を感じ取ることができます。


 

 

この教えが感じられる道元禅師の言葉

 

仏道をならふというは、自己をならふなり 
            『正法眼蔵現成公案』


 真理に適った道(仏道)を修学し極めるということは、自己そのものを知り、極めることである。言い換えるならば、足元である原点そのものを見つめるという意味で、現在の今に生きる道(現成)を強く説く禅師の代表的な言葉。『正法眼蔵』の中でも最も初期に書かれたとされる『現成公案』の巻のこの部分ではこの後、

「自己をならふというは、自己を忘るるなり。自己を忘るるというは、

万法に証せらるるなり。万法に証せらるるというは、自己の身心およ

び他己の身心をして脱落せしむるなり。」

と展開させて述べている。「自己を忘るるなり」については、六月の「身心脱落」の項で解説する。



 

山僧叢林を歴ること多からず、只是等閑に天童先師に見えて、当下に眼横鼻直なることを認得して、人に瞞せられず。便乃ち空手にして郷に還る。所以に一毫も仏法なし。任運に且く時を延ぶるのみなり。朝朝日は東より出で、夜夜月は西に沈む。雲収って山骨露われ、雨過ぎて四山低し。畢竟如何。良久して云く、三年に一閏に逢い、鶏は五更に向かって啼く。
                      
『永平広録』

 道元禅師の中国での修行生活は、そんなに長くはない(四年)。ただ、思いがけず師と仰ぐべき天童山の如浄禅師に巡り会うことができ、「眼横鼻直」という真理に気が付いた。それは他から教え込まれたということではない。ゆえに空手で何も携えずに故郷にもどった。従って一本の毛ほども仏法と名付ける形を持ち帰った訳ではない。流れに随って、ただ時に身をゆだね過ごしている(仏法そのものを持ち帰った)ということである。朝な朝に陽は東に昇り、夜な夜に月は西に沈む。雲が払われると山並みがくっきり見えて、雨が上がると周囲の山並みは低くどっしりとしている。これこそ大切なところではないのか、つまるところどうなのか。しばらくして言った。「三年に一度閏年が来て、鶏は朝四時には鳴く」・・・と。

この優れた情景描写を味わいたいものである。私の住む泉区下飯田の地は、境川沿いにある集落だが、古代期には小高い丘陵部に住んでいたらしく、竪穴式住居跡が発見されている。そんな台地からは富士山や丹沢の山々が美しい。雨上がりには正に山骨が露われてどっしりと構えている。そんな時、いつも道元禅師のこの句を思い出すものである。古代人も、きっとこの美しい自然に勇気づけられたことであろう。


 富士山・丹沢山系に沈む月
 

 

人のさとりを得る、水に月が宿るがごとし。月ぬれず、水やぶれず。広く大いなる光にてあれど、尺寸の水に宿り、全月も弥天も、草の露にも宿り、一滴の水にも宿る。 
              
     『正法眼蔵現成公案』

 真理を会得して心の安らぎの境地にいたるということは、水に月が綺麗に映るようなことである。つまり、月(仏)は濡れることなく淡々と存在を全うしているし、水(衆生)も傷ついたり変化したわけでもない。このように広大でダイナミックな光ではあるが、少量の水にも光を映してくれるし、宇宙のすべての月や星々も、草の葉に宿る水滴にも、また一滴の水にも無限の光を映し出してくれているではないか。

ススキの穂かげに見える月

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『眼横鼻直』は、そのままの真理のあり様を思い起こさせてくれる言葉ですが、そのままでいい訳ではありません。畢竟如何(ひっきょういかん)、だったらどうするんだ・・・と。今、一歩を歩き出す生命力への応援歌なのです。

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