goo

母の願い

 米下院議院公聴会で、横田早紀江さんが拉致被害の訴えを行いました。
多数の被害者家族の中から、あえて早紀江さんが選ばれたことも良かったと思います。
 それは、この問題は、国際間の政治問題、民族間の対立の歴史、今後の進むべき方向性など、様々に関係しあって複雑になる要素は沢山ありますが、訴えるべきは唯一点、「被害者の救出」であって、このことを強く貫いてきたのが早紀江さんだったからです。
 早紀江さんは、常にどんな場面での訴えでも、めぐみさんの悲しみの心になりきって、同悲同苦の心情を語ってきました。それは母親としての「親念切々」の思いに他なりません。今回の証言でも、拉致の実態をリアルにめぐみさんの気持ちに成り代わって訴えていました。この唯一点の切なる願いは、世界中の人に伝わったことでしょう。
 特に、横田さんご夫妻が、めぐみさんの心情を確信しているのは、拉致後、数ヶ月してから北朝鮮で撮られためぐみさんの写真からだと思います。親にしかわからない、目や表情が語る何かを微妙に感じているのだと思います。

 このような心情は、なかなか当事者でないと実感がわかず、いわゆる他人事になりがちです。この同悲同苦の思いを共有することを、道元禅師は「親念切々」の心として重要な心構えの一つとしています。改めて原典を紐解いてみました。一般に老婆心(略して「老心」)と呼ばれる慈愛の心についての記述です。『典座教訓てんぞきょうくん』という書物に、次のような文があります。

「所謂、老心とは、父母の心なり。例えば父母の一子を念うが如し。・・・ 自身の貧富を顧みず、偏に我が子の長大ならんことを念う。自らの寒きを顧みず、自らの熱きを顧みず、子を陰い子を覆う。思うに、親念切々の至りなり。その心を発こす人はよく之を識り、その心に慣う人はまさに之を覚る者なり」

 子を思う親の心を理解し、そんな思いを共有できる人は、人生の大切なことを逃さない。そして、二度とないこの一時を大切にできる・・・。と、まあ、こんな意味ですが、こういう精神の大切さが浸透するといいと思います。

 相手の心情になりきり、行動することを心理学では「感情移入」と呼ぶそうですが、仏教では「同事行」と呼んでいます。
 横田早紀江さんの思いが、世界に広がるといいなと思います。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
« 教区研修旅行③ みどりの日 »
 
コメント
 
 
 
同感です (風月)
2006-04-28 19:11:05
横田さんの演説を聞いて、いつもながら心打たれました。涙なくては聞くことができません。なんとかめぐみちゃんを返してもらえないものでしょうか。他の拉致された方々も。戦争時代日本人はもっとひどいことをしたと韓国の人に言われたことがありましたが、めぐみちゃんのご主人が韓国の人とわかり、あらたな展開になりそうで、期待したいですね。
 
 
 
→風月さん (tera)
2006-04-28 20:16:20
ほんとうに、何とか進展してほしいですね。韓国と歩調をそろえることで、新たな展開を期待したいと思います。今回の早紀江さんの訴え、特に感動しました。
 
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。