「エリア88」は新谷かおる氏原作の航空戦闘漫画だ。中東の産油国「アスラン王国」を舞台に政府軍の傭兵部隊の戦闘機パイロットとして戦う風間真を中心に描かれる。テレビ朝日系でアニメーション化もなされ、現在はNTT東日本/西日本のフレッツスクウェアにおいて無料の動画配信がなされている。当然ながら、航空戦闘がストーリーの中心に据えられているが、原作が古いだけの事はあり登場して来る航空機も懐かしい名機ばかりだ。主人公の風間真が登場するのはF-8Eクルセイダーだし(ベトナム戦争初期の機体)、他の主力機はA-4スカイホークにF-4ファントムだ。何しろ、風間真の相棒のミッキーが乗るF-14トムキャット(2008年頃までに米海軍から退役する)が新鋭機なのである。当然ながら敵機もミグ15や17である。他にも珍しい機体が出てくるF-105サンダーチーフ(ベトナム戦争で活躍した戦闘爆撃機)やスウェーデンのサーブ35ドラケン等だ。近年の航空作品には必ず登場して来ると言って良いSu-27シリーズやラファル、ユーロファイター、F-22ラプター等は姿形も現さない。
そして、この「エリア88」の素晴らしいところはミサイルが直線の軌跡を描いて目標に向かう点である。アニメーションで描かれるミサイル描写には大きく分けて2パターンがある。一つは「機動戦士ガンダムSEED」に登場して来るミサイルのように実質的に無誘導のロケット弾にしか見えないタイプであり、もう一つが「超機動要塞マクロス」のように複雑な軌跡を描いて飛翔するタイプである。現実のミサイル(特に空対空)は赤外線誘導にせよ電波誘導にせよ基本的に敵機の未来予測位置へと飛翔していくパターンが大半である。つまり、ミサイルシーカーの範囲内に敵機がいることが根本要素なのであり、飛翔時間内に敵機がロックオンから外れる機動を示してしまえばミサイルは遥か明後日の方向へ飛んでいってしまう。その部分をこの「エリア88」は忠実に描き出していると思うし、このミサイルの制限要素が一種の郷愁を醸し出しているのも事実だ。ミサイルの能力に限界があると言っても、近年の新型空対空ミサイルの性能向上は著しい。例えば、以前の赤外線誘導型は敵機の後方からでなければミサイルを発射出来なかったが、現在では前方象限からの発射も可能になっている。ベトナム戦争時の電波誘導型空対空ミサイルの命中率は数%と言われたが、最近では電子装置の性能が飛躍的に向上している為に命中率は90%を超えるまでになっていると言われている。ベトナム戦争ではミサイルの時代と言う事で機銃を搭載しない戦闘機が多く使用され、旧式のミグ戦闘機の機銃で撃墜されると言う事態が相次いだ。その結果、その後の戦闘機では機銃の搭載が当たり前となっている。しかし、新世代戦闘機ではミサイルの性能向上と併せて米軍等では再び機銃不要論も出て来ている(無論、その背景にはAWACS=早期警戒管制機等とのリンクによって絶対航空優勢を米軍が世界中の何処においても確保出来ると言う自信があるのであるが)。
ミサイルがまだ信用性を確立していなかった時代の懐かしき航空戦を、この「エリア88」は描き出している。