取次営業orz

取次の営業とは何か

Coffee Break 2

2010-11-03 | Weblog
「のぼうの城」パロッちゃお!ヾ(〃^∇^)ノ


 丹波は、長親を納戸に叩き込んだ。
 板敷きの床をするすると滑っていく長親に、丹波が足を踏み鳴らして続いた。和泉や靱負をはじめ、追ってきた家臣どもも狭い納戸に押し寄せた。廊下にあふれた家臣どもは、伸び上がって中のようすを見ようとやっきになっている。
「乱心したか」
 丹波は満杯の家臣どもの中で、長親を怒鳴り上げた。
 長親はふて腐れたように黙っている。
「何とか申せ」
「いやになった」
「なにがじゃ」
「降るのがだよ」
 長親は、そっぽを向きながらいった。
「今になって何を申す。さんざに申し聞かせたではないか。"バラモン"には敵わぬ。それゆえ降るとおのれも承知したではないか」
「だからいやになったんだ」
 長親は珍しく声を上げていう。だが、それはまるで子供がだだをこねているような調子であった。
「餓鬼みてえになんだ」
 丹波はまた怒鳴った。
 長親は、ぐい、と丹波に顔を向けると、唾を飛ばしながら叫び返した。
「"既に商品は取次で買取った。受注ノルマの進捗は経営会議上で報告するなどと"、さんざに脅しをかけた挙句、"必達目標"などと申す。そのくせ"自部署の責任で商品を引取る"に決まっておるとたかを括ってる。そんな者に降るのはいやじゃ」
 まったく、だだをこねていた。
 丹波は、こんな顔の長親をみたことがない。小さく驚きはしたが、いまは長親を説き伏せねばならない。
「我慢せよ。今降れば、"新刊配本"も"客注"も安堵される。長親、我慢するのだ」
 一語一語に力を込めていった。
「いやなものはいやなのだ」
 長親は大喝して丹波の言葉をさえぎった。さらに、狭い納戸で息をつめる侍どもをぐるりと見回すと、再び吠えた。
「武ある者が武なき者を足蹴にし、才ある者が才なき者を鼻面をいいように引き回す。これが人の世か。ならばわしはいやじゃ。わしだけはいやじゃ」
 強き者が強きを呼んで果てしなく強さを増していく一方で、弱き者は際限なく虐げられ、踏みつけにされ、一片の誇りを持つことさえも許されない。小才のきく者だけがくるくると回る頭でうまく立ち回り、人がましい顔で幅をきかす。ならば無能で、人が好く、愚直なだけが取り柄の者は、踏み台となったまま死ねというのか。
「それが世の習いと申すなら、このわしは許さん」
 長親は決然といい放った。その瞬間、成田家臣団は雷に打たれたがごとく一斉に武者面をあげ、戦士の目をぎらりと輝かせた。



※小学館文庫『のぼうの城 上』(ISBN9784094085518)P183~185より
※「"○○○"」の部分を除いて、原文ママ