366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

惑星ジパング

2012年01月24日 | 366日ショートショート

1月24日『ゴールドラッシュの日』のショートショート



ブースター噴射!大轟音とともに宇宙船は上昇し、惑星ジパングを離陸した。
乗員席でボクはGに耐えた。ボクの左手は、隣に座るミランダの右手をさらに強く握りしめる。
ボクだけのミランダ。君を助け出して見せる。
さらに加速。時間がない。早く逃げなければ。惑星ジパングからできるだけ遠くへ。
数分後Gが弱まった。
「タカシさん、このままだと宇宙船は惑星爆発に巻き込まれるわ」
「どんなに加速しても無理かい?」
ミランダが黙ってうなずく。
方法は残っている。この宇宙船には、緊急脱出艇が一基装備されているのだ。艇の大部分は高速ブースターと活性燃料が占めていて、定員わずか2名。
だが、宇宙船にはキャビンルームのボクとミランダ以外にもう一人、医務室に負傷したボーマン船長がいた。
「ボクがボーマンと話してくる」
ミランダの憂いに満ちた瞳にボクは微笑みかけると、医務室に向かった。

医務室のベッドでボーマンは気を失っていた。腹部を覆ったガーゼは血に染まっている。そっと剥がす。
出血が止まっていない・・・傷は内臓に達しているだろう・・・このままでは数時間の生命だ・・・
その瞬間、ボクは驚愕した。ガーゼを手にしたボクの腕をボーマンが力強く握りしめたからだ。
「俺を置いていくつもりだろう?」ボーマンが睨んだ。
「ごめんなさい・・・ボクは・・・ボクはミランダを愛している」
それを聞いてボーマンは喉を鳴らして笑ったが、腹部に痛みが走り、汗ばんだ顔を歪めてうめいた。
「愛してるだと?愛なんかじゃない、ただの欲望さ」
「ボーマン、これ以上長い時間、君を苦しめたくない・・・」
ボクはポケットから小型光線銃を出して、安全装置を外した。

この惑星に船長とボクが着いたのは3週間前。地球人と大差ない人々の星であった。地球と異なるのは、この惑星が黄金に満ちあふれていたことだ。黄金のビル、黄金の民家、黄金の自動車・・・
ボクとボーマンはこの惑星をジパングと呼ぶことにした。黄金伝説はこの惑星にこそ相応しい。
ここでボクはミランダと出会った。均整のとれた魅惑的な体、慈愛に満ちた心・・・たちまちボクは夢中になった。
夢のような滞在を楽しんでいたが、ピリオドは突然打たれた。惑星に暗躍していた反乱軍がボクらの宇宙船を占拠したのだ。ボーマンから連絡を受けてミランダとともに宇宙船に駆けつけ、反乱軍を撃退した。
だが、時すでに遅し、奴らは惑星消滅爆弾を作動してしまっていた。
宇宙には非友好的、攻撃的惑星も多い。そうした惑星を威嚇または攻撃するために宇宙船に搭載された究極兵器だ。一度作動すると爆弾は重力の中心に向かってあらゆる物体を溶かして落下を続け、中心に達すると大爆発する。
反乱軍の銃撃で重傷を負ったボーマンを担いだボクとミランダは宇宙船に乗り込み、宇宙船の離陸ボタンを押した。

「ボーマンは死んでいた。気の毒に」ボクはミランダに嘘をついた。
ミランダは俯いたままこくりとうなずく。感傷に浸っている時間などない。ボクたちは急いで緊急脱出艇に向かった。

脱出艇が宇宙船を発進して数秒後、惑星ジパングは小刻みに震えた。そして、惑星全体にマスクメロンのように亀裂が入る。亀裂から光がもれ出し、光は強さを増し、次の瞬間、惑星は炎の塊と化した。赤く煮えたぎった火球は大きさをどんどん増していく。炎は容赦なく、宇宙船を飲み込んだ。そして、緊急脱出艇さえも飲み込もうと広がり続け、艇の後ろまで迫った。だが、火球の赤い舌は、高速に遠ざかる艇をとらえきれなかった。やがて火球は収縮を始めた。縮小し、縮小し、さらに縮小し、そしてついに惑星ジパングは消滅した。

無重力の宇宙空間を音もなく緊急脱出艇が漂っている。
「私たち、助かったのね?タカシさん」
「ああ、そうだよ。じきに救助艇が来るはずだ。ミランダ、愛しているよ」
ボクはミランダの顔を両手で包んでキスした。ミランダが微かに震えてキスに応じた。
ボクはミランダに嘘をついていた。惑星消滅爆弾を作動させたのは反乱軍じゃない。反乱軍を撃退した後でボクが作動したのだ。
だって、ジパングの無尽蔵の黄金が地球に流れ込んだら、金相場は崩壊する。黄金は従来の価値を失ってしまうのだ。やっぱり黄金は希少価値がなくっちゃあ・・・
ボクは左手をミランダの背中に這わせ、右手を尻に這わせ、撫で回した。油を流したような光沢の、艶かしい黄金のボディを楽しんだ。
ジパングの人々が作った、純金製のアンドロイド、ミランダ。
「ボクは君だけでいい。君さえいれば十分幸せに生きていけるんだ、ミランダ」 



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